第10話忠告
随分考え込んでいると思った。
長い沈黙の後、元夫のだした決断はローゼンバルク公爵家だった。
馬鹿な男。
折角、選ばせてあげたのに。
一番選んではいけないところを選ぶなんて。
ああ、きっと誤解したままなのね。
本人も言っていた。「婿入りする」と――
彼は『前公爵夫人の夫』になると思っているんだわ。それなら納得ね。とんでもない勘違いだけど。私が一度でも「前公爵夫人が夫を探している」なんて言ったかしら。言った覚えは全くない。「
詳しく聞いてくれれば教えてあげたのに……残念だわ。
貴男が選んだのは
「素晴らしい判断だわ」
元夫はホッとした表情をする。
これが最も適した答えだと思ったみたい。物凄い勘違い。ここまで自分に都合よく考えられるのも才能ね。……可哀想に。
「では、貴男の慰謝料請求書に関しては、ローゼンバルク
私が後ろに控えていたクロスに合図を送ると、彼は静かに頷いた。
その日の夕方、公爵家から迎えの馬車がきた。
「貴男の荷物で馬車に乗せられないものは後日、こちらから公爵邸に送るわ」
「いや、それはいい」
「必要でしょう?」
「僕は公爵家の人間になるんだ。それ
「そう。貴男がそれでいいと言うのならば、こちらで処分させていただくわ。ローゼンバルク公爵家は我が子爵家以上の資産家ですもの」
「だろう?」
「ですから、一つだけ忠告させて貰うわ」
「忠告?」
「えぇ、貴男は調子に乗り易いから公爵家での対応を間違えて放逐される恐れがあるでしょう?だからよ。新しいご主人様には忠実であるべきだわ。噛みつくなんて以ての外。それに意外と嫉妬深いから、他者に懐くことも許さない。
「…………相変わらず酷い事を言う」
「貴男のために言っているんです」
「…………解った。公爵家では相手に尽くす」
「それがいいわ」
うんざりした顔の元夫。
甘いマスクで女性達を誑かしてきた手腕で新しい飼い主に尻尾を振るのだろう。もっとも、何時まで振り続けられるのかは知らない。自分の得になると思った人には愛嬌を振りまくから案外長く持つかもしれないわね。
男は度胸、女は愛嬌――というけれど、間違いなく男にも愛嬌は必要だと思う。
「それでは、ごきげんよう。もう会う事もないでしょうけど、お元気で」
「は? パーティーとかで会うだろう。おかしな事をいうな」
「それは失礼」
表舞台に出られると考えている彼の頭の中を一度覗いてみたい。もしかすると綿でも入っているのかもしれないから。
元夫は馬車に乗り込み連れられて行った。
さようなら。
私なりに貴男の事を愛してました。
きっと信じてくれないだろうけど。本当ですよ?
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