第9話元夫side

 あいつクロスは、アザミの親の代からの忠臣らしい。

 若くして子爵家を継いだアザミを支え続け、彼女はクロスから領地経営を学んだそうだ。その信頼は絶大だ。そのせいか、悉くあいつクロスは僕の邪魔をする!

 


 クロスだけじゃない。

 屋敷の者達も同じだ。

 誰も僕の命令をきかない。


 子爵領の領民達もだ。


 くそっ!どうなっているんだ!!


 せめて子供は早く作ろうと思った。そうすれば僕は跡取りの『父親』だ。アザミだって僕に爵位を譲るはずだ。こんな田舎に興味はない。領地経営はアザミにやらせておけばいい。僕は王都に戻る。理由なんてどうにでも出来る!妊娠しやすい時期を狙い、効率的に仕込んだお陰で割合早く妊娠した。産まれた子供は女児だったが、そんなもの関係ない。これで子爵位は僕の物だ!



 それなのに公爵家から『待った』が掛かった。


 なんだよ?

 隣の公爵家が後見人だって!?

 聞いてない!!


 寄り親の貴族?

 だから何だ!

 親族でも何でもないだろう!!


 くそっ!!くそっ!!!


 思い通りにならない展開。

 僕が外で鬱憤を晴らしたって仕方がない状況だろう!!


 なんだってこんな事になったんだ。



公爵家愛玩動物辺境伯爵家種馬、それとも男爵家お飾り夫。選り取り見取り。もし決められないと言うのなら、私が決めてあげましょうか?」



 悪魔アザミが催促を促す。



 何が、選り取り見取りだ!!

 嫌がらせの間違いだろう!!


 しかも寄りにもよってローゼンバルク公爵家だと!?

 今まで散々邪魔をしてきた隣の公爵家じゃないか!!

 そんなところに行けと言うのか!?冗談じゃない!

 僕が知らないとでも思っているのか?

 あの家は今年頃の女性はいない。なら現公爵の母親が僕の結婚相手という事じゃないか!!ふざけるな!皺くちゃの老婆と結婚しろと!?公爵家に入って僕に老人介護をしろっていうのか!?


 北の辺境伯爵家だってそうだ。

 同じ婿入りとはいえ、あっちは田舎どころの騒ぎじゃない。年中、魔獣退治をしている野蛮人の集まりだ!蛮族の女女辺境伯爵と結婚など出来るものか!!


 かといって、男爵家に婿入りするのもな……。三年禁欲に徹しろとはどういう了見だ。夫婦だろう!


 それに身分から考えると子爵家のような贅沢は望めないだろう。

 ビブリア子爵家は家柄以上に資産家だ。下位貴族とは思えない。暮らしぶりは高位貴族並だ。




 それを考えると……。



「ローゼンバルク公爵家に婿する」


 消去法でババア前公爵夫人を選んだ。

 年寄りがぽっくり逝く事はよくある話だ。僕は未だ若い。遺産を貰って悠々自適に暮らすのも悪くない。




 僕の返事に悪魔アザミは、それは晴れやかに笑った。


 



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