その106 一旦の休息を
「ヴィントを見たらまた陛下達がびっくりするわねー」
「それはそうですよ!? 倒すならともかく、連れて帰る時点でおかしいですからね……」
「うーん、もうちょっと空の旅をしたかったですね」
セリカが苦笑混じりにそう言うと、ルーミが声を上げた。
俺達はそろそろフォルゲイト王都に到着する。長旅と言うほどではないが、ゼキルが残念そうにつぶやく。
「急ぎなら目的地へ連れて行くのも吝かじゃない。あんまり多いなら食事代くらいはもらうかもしれないけど」
「本当ですか!? それくらいなら連れて行ってもらう方が楽でいいなあ」
トラントはシュネルの好物が芋だと知っているので、安いと笑う。散歩がてらと考えればありだろうな。
【僕も飛べるからねえ。あ、好きな食べ物はカボチャだよ、よろしく頼むね】
「生でかじるの?」
【歯ごたえがいいんだ】
「ふうん、ならカボチャの煮物を食べたらどう思うかしら?」
【ええー? 変になるならいらないよ?】
「ふふ、どういう反応になるか興味ありますね」
「ね、ルーミもそう思うわよね」
相変わらず肉より野菜を食べたがるドラゴンだ。そんな話をしていると、王都が見えてきた。
シュネルはもうみんなに認識されているので、そのまま屋敷の庭に降りていく。
【ふう、到着やでー】
「ありがとうございましたシュネルさん!」
「助かりました。今度お礼の焼き芋を持ってきますよ」
【焼き芋……またなにやらいい響きやな……】
三人組の言葉にじゅるりと涎を出すシュネル。食い意地が張っているな。
とりあえず報告に行くということなので、俺達は見送った。
「私達の報酬はいいの?」
「三人が報告した後でもいいだろ。マイクロフさんは約束を反故にするような人じゃない」
「それもそうか。アイラさんを呼んでくるわね!」
とりあえずアイラにヴィントを紹介する方が先だ。するとフォルスがポケットから飛び出し、ジョー達のところへ向かう。
「ぴゅーい♪」
【元気だなあ。ここが君達の住処なんだね】
「ああ。その大きさなら屋敷で暮すといい」
フラメと同じく小さくなれるヴィントが俺の頭の上で周囲を見渡していた。
飛ぶのに最適解を出しているのか、フラメよりも軽い。
「飯を食っているのか?」
【うーん、暴走中の記憶はおぼろげなんだよ。フラメはどうだった?】
【オレは羽に穴をあけられたあたりからだな。それまではなにをやっていたかわからん。破壊衝動に駆られていたとは思うが】
【なるほどね。どこかで犠牲者とか居ないことを願うばかりだよ】
ヴィントがやれやれとため息を吐きながらゆっくりと羽を使って俺の頭から芝生へと降りた。そこで工房からセリカとアイラが出て来た。
「おかえりなさいラッヘ。また増えたんですって?」
「ああ。ウインドドラゴンのヴィントだ」
【おや、新しい人間だ。ご紹介に預かったウインドドラゴンのヴィントだよ。よろしく!】
「わたしはアイラよ。賑やかになってきたわ」
「好物はカボチャらしい」
「やっぱりお肉じゃないのね……」
ヴィントを抱っこして顔を見合わせて苦笑するアイラ。セリカが一通り説明をしてくれたらしいので後は休憩をするだけだ。
テーブルでお茶を広げて飲んでいると、セリカが門の方を見て呟く。
「……来ないわね」
「確かに」
「いつもなら帰還と同時に来るものね」
【なんだい?】
「こっちの話だ」
今朝、陛下や王妃様が来なかったため、この時点で突撃してくるかと思ったが杞憂だったようだ。
「陛下だって忙しいし、そうそう毎日来るもんじゃないよな」
「そっか。緊張するしそれはそれでいいかな?」
「そういう日もあるわよ」
俺達は毎日来る王族に麻痺していたようだ。これが正常なのである。
「となると、ヴィントの紹介は謁見を申し入れるか。ギルドに行った足で城へ行こう」
「オッケー! ……って考えると、来てくれた方が話は早いのか……うーん……」
セリカが腕を組んで葛藤をしていると――
「おーい、開けてくれー! 僕だよ!」
「「「でたぁぁぁぁ!?」」」
「おう!? な、なんだ!?」
――王子が門の向こうで手を振っていた。結局誰か来るんだな……
「いらっしゃいませ、エリード王子」
「ありがとうアイラさん」
「どうしたんですか?」
「フォルスに会いに来たのさ!」
正直だった。
「今日は遅かったですね? 私達、さっきまで別の町へ仕事に行っていたんですよ」
「……大臣のハンスが居るだろ?」
「ええ」
「あいつが……ついに爆発した。仕事とかやるべきことをしてから行くように言われてさ」
「あー」
どうやら危惧していた通り、仕事などを放っておいてここへ来ていたらしい。どおりで朝早いと思った……
そこで矢面に立つのが大臣のハンスなんだが、いよいよ回らなくなり、いい笑顔で禁止令が出たそうだ。
ちなみにエリード王子は学問と剣の訓練がノルマらしい。
「即座に終わらせて……といっても昼を過ぎたけど……こうやって来れたわけだね」
【ふむ、頑張ったな】
【おや、また新しい人間だね】
「やあ、フラメ。僕だってやる時はきちんと……ってなんか増えてるぅぅぅぅ!?」
「ぴゅーい!?」
おっと、紹介する前にこっちへ来てしまったか。
王子の絶叫が響き渡り、やはり近くに来ていたフォルスがびっくりしてフラメの背中に隠れた。
「ま、まあ、今さらラッヘさん達がドラゴンを連れてきても驚かないけど……」
「実は……」
と、説明をしようとしたところで――
「大変大変大変へんたいですよー! ラッヘさん居ますかぁぁぁぁぁ!?」
「はは、相変わらず元気がいいな」
――今度は何故か戻って来たレスバの声が響き渡った。
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