その107 黒いドラゴンの話
「レスバ!? あんた性懲りもなく戻って来たの?」
「そんなことより大変なんですってぇぇぇぇ!」
「顔は知っていたので通したのですが、まずかったですかね……」
「いえ、大丈夫です。ちょっと混乱がみられますが、こういう奴です」
「そ、そうですか」
門を守ってくれている兵士が困惑の表情で聞いて来たので、俺は問題ないと伝えた。大変だと繰り返すレスバに、話にならないとセリカが動く。
「うるさい……!」
「ふぐ!?」
セリカの首トンで膝から崩れるレスバ。騒がしかった庭が静けさを取り戻した。
「おお、一撃で黙らせるとはやるねえ」
「あなたは?」
「これは失礼。私はフェークと言います。彼女の目的と一致しており、ここまでついてきた次第です」
「目的が一致……? 一体どういうこと?」
アイラがぐったりしたレスバの首根っこを掴んで御者台に座らせながら尋ねる。
するとフェークという男が小さく頷いて語り始めた。
「私はここから北の方で黒いドラゴンを目撃しました」
「……!?」
いきなりの発言に俺は息を飲む。
「これは
「レスバはフラメと会った町から北へ行ったわよね?」
「そこなんですが、レスバさんはその北にある山で黒いドラゴンと、別のドラゴンが戦っていたのを目撃したそうなんです。それでやはりラッヘ殿に報告が必要と思ったそうです」
マジか。
まさか追っていた黒いドラゴンの情報がここで手に入るとは……
ちなみにレスバとフェークはそれぞれ別の場所で視認したそうだ。
まず、レスバが戦いを見た後、そのドラゴンが南へ下り、その時にフェークが見たという位置関係のようだ。レスバとは本当にたまたま出会ったらしい
「ドラゴン同士で戦いを?」
「そーなんですよぉ!!」
「うわ、びっくりした!?」
急に復活したレスバが大声を上げ、すぐに咳ばらいをしてから話し出した。
「これがその時に黒いドラゴンに倒されたドラゴンの素材です」
【……これはグリーンドラゴンか】
「知っているのか?」
【もちろん。あの個体種は僕達よりもずっと穏やかなんだ。威力はそれほどでもないけど、火も吐けるし、空も飛べる。足もそこそこ速いしちょっとした海なら泳げるんだよね】
「結構万能じゃない」
【いや、どれも専門にするドラゴンには勝てないのだ。火はオレの方が強い】
【でも体力はピカイチやで! 草ばっかり食っていつも寝とるのに凄いと思うわ】
「なんか可愛いわね……」
俺もそう思った。フォルスみたいに赤ちゃん座りをしてボーっと草を食べている顔が頭に浮かぶ。
「あんまり強くないドラゴンなんですか」
【そんなことはないよ。だけど、さっきも言ったとおり穏やかだから暴走しても戦いには向かないだろうって話さ】
「というかなんか増えてますね……!?」
【おお、姉ちゃんは初めてやな。わしは
【僕はヴィントだよ。ウインドドラゴンだ】
「僕はエリード、この国の王子だよ」
「よろしくお願……王子!?」
「もうそのあたりにしてくれ」
いちいち驚かれたらたまらないし、ここに居た時に王子とは面識があるから驚くな。
「話が逸れたが、黒いドラゴンはフォルゲイト国に来たということでいいのか?」
「そうだね。さすがに飛ぶドラゴンを追うことはできなかったけど、どこかで見つけられるはず――」
「ドラゴンなら大きいし、わかるわよね」
フェークの話の途中でセリカが漏らすが、レスバが珍しく緊張した顔になった。
「……というわけにはいかないかもしれません」
「どういうことだ?」
「私の言葉の続きだけど……見つけられるはず、という考えは捨てた方がいい。どうもその黒いドラゴンは人型になれるようなんだ」
「「「!?」」」
レスバの話によるとグリーンドラゴンを倒した後、その肉を食らったあとで人の姿になったとのこと。なにか一人で呟いた後、歩いて去っていったらしい。
「フラメ達はなれないの?」
【そういうやつもいると聞いたことがあるくらいで実際になれた事例は知らないな。そう考えると例の病を生み出すくらいはできるかと納得した】
【確かにね】
腕組みをしてフラメとヴィントが唸る。
『やろうと思えばできる』かもしれないけど、やり方を独自で生み出すなら時間がかかるだろうという。
どちらが先か知らないが、黒いドラゴンは病のウィルスと人型というドラゴンでも稀有な能力を手に入れたのだろう。
「残念。人型になったら楽しそうだったのに」
「セリカさんは怖くないんですかね? あのドラゴン戦いを見たらとてもとても……」
「だってラッヘさんがいるし? 私も戦えるから、負けないって!」
【うむ、さすがセリカだ。オレ達も協力するから、黒いドラゴンを止めよう】
「心強い……」
フラメがフッと笑って片目をつぶると、レスバがカッコイイと笑っていた。
彼の言う通り、こっちにもドラゴンが居る。抑えることはできると思う。
「この国に居るなら好都合だ。それに人型でもレスバが顔を覚えているんだろ?」
「ええ、まあ」
「ならお前にも協力してもらおう。王子、あれが周辺にいるとなると危険度が跳ね上がります。陛下にも報告を」
「うん。緊急で謁見申請をしよう。多分、昼間はここには来れないから、夕食をここで食べる予定にしてたし」
「来るんだ」
俺達は呆れた顔になっていた。
だが、事態は深刻なので待ってはいられないと、門を閉めてシュネルの背に乗って城を目指した。
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