その104 ウインドドラゴンとの戦い

 涙目のシュネルには申し訳ないがこのまま戦闘開始といく。

 俺は腰ではなく、背中に背負った武器を手に持った。


「それってアイラさんに作ってもらっていた剣?」

「ああ。腰にあるドラゴンの素材で作った剣は強力すぎる。正気に戻すには通常の素材で作った武器がいいだろうと思ってな」

【配慮が凄いな。さすがラッヘ。さて、シュネルのおかげで風圧は軽減されている】

「そうなのか」

【うむ。本来であれば近づくのも困難だな。ただ、攻撃する瞬間はこいつも風をまとえないから狙うならそこだ】

「よーし、初戦闘……行くわよ!」


 セリカが張り切って声を上げると、体当たりから逃げていたウインドドラゴンが接敵してくる。


【グルアァァァァ!】

「ふん、羽に噛みついて落とすつもりか。暴走している割には知恵が回るじゃないか」

「来るわ!」


 俺とセリカは右の羽付近へ移動し、待ち構える。大きく口を開けたウインドドラゴンが迫って来た。


【そう簡単に攻撃を与えられると思わへんことやな! 少し揺れるで!】


 シュネルがそう叫びながらその場で旋回をする。直後、羽があった場所を上下の顎ががちりと音を立てていた。


「ぴゅーい……!!」

「怖い顔ね! そりゃ!」

【グガ!】


 先制はセリカの一撃で、鼻先に剣の側面をぶつけようと振り回す。しかしそこはドラゴンというべきか、急上昇をして身を翻す。


「やるわね……!」

「ぴゅ!」

「任せろ」


 フォルスがセリカのポケットから指を差す仕草をしていた。次は真上から押しつぶしに来たようだ。


「刃は潰しているから剣と言うより鈍器だな、こりゃ」

【ガァ……!】

「はぁぁ!!」


 背中に寄って来た瞬間、俺はジャンプして体を回転させると、剣をウインドドラゴンの顎に叩きつけた。


【ギィェァァァ!?】

「いい音……!?」

【これは痛いな】


 ウインドドラゴンの体が大きく空中でバウンドし、シュネルはその間に飛行を続ける。俺はジャンプしたので足場がない形になる。

 それを見越したのかウインドドラゴンは吹っ飛ばされながらも尻尾で俺を攻撃してきた。


「むん!」


 ドラゴンの鎧もあるためダメージは薄い。だが、衝撃は激しく横へ飛ばされた。


「シュネル!」

【任せとき!】


 そこへシュネルが舞い戻って来て俺を拾ってくれた。ウインドドラゴンはその場で飛びながら俺達を睨みつけている。


「やっぱりタフね。やっぱり脳天直撃が効果あるかしら?」

「そうだな……何度かアタックをかければ正気に戻るかもしれないが」

【いや、ここはオレやシュネルのようにどこかを傷つけるのだ。そこからフォルスの唾液を擦り付ければ、恐らくもとに戻る】

「こう飛び回っていると手加減しにくいが……」

「私の剣なら少しくらい傷とつけられそうだけど、やっちゃう?」

【オレに考えがある】

「ぴゅ?」


 フラメは鼻を鳴らしてニヤリと笑う。その内容を聞いてから、俺とセリカは武器を握り直した。


「フォルス、しっかり掴まってなさい!」

「ぴゅーい!」

「大丈夫か?」

【問題ない。これが手っ取り早く終わるはずだ】


 セリカがフォルスに命綱をつけて首から下げ、俺はフラメを脇に抱えて身構えた。

 この間も執拗にシュネルを追いかけてくる。嚙みつきと疾風ともいうべき風の攻撃を繰り出してくるが、シュネル上手いこと回避している。


【流石に速いでんなあ!? 避けるだけななんとかなるけども……次はどうするんや!?】

「奴に正面から突っ込めるか?」

【オッケーや! ……ってなんやとぉぉぉ!? わしに死ね言うんかい!】


 絶叫しながらツッコミを入れつつ、シュネルは身を翻してウインドドラゴンを正面に据える。そのまま突っ込んでいくと――


【今だ! 失速しろ!】

【うおおお!】

 

 瞬間、俺とセリカが空中に浮かぶ形になった。ウインドドラゴンはチャンスと見て一気に加速してきた!


【ガァァァァ!】

【フッフッフ……くらえ『口から眩しい光』!】

【ギャ!?】


 口を開けてくる前にフラメが口からなにやら眩しそうな光を放った。そこでウインドドラゴンが怯み速度が落ちた。


「よし、掴むわよ!」

「ぴぃー!」


 すれ違いざまに俺達は失速して下になったウインドドラゴンの背に掴まる。そしてセリカが肩口に剣で切りつけた。


「ごめんね!」

「ぴゅー……」

「っと、硬いわね」

【もう少しやればセリカでも斬れるが、今回はオレがやろう。……戻れ、オレの身体】

【ピギャ!?】


 ウインドドラゴンの背中に降りたフラメが元の大きさに戻っていく。

 これに驚いたのはウインドドラゴンだ。いきなりの巨大化で振り落とすこともできないのだから。


【ギィィエェェェァ!?】

【むん!】

【ラッヘはんたち、こっちや!】

「おお!」


 物凄いスピードで落下を始めたので、俺達は速やかにシュネルへ乗り移る。

 そして最後にフラメが拳を背中に叩きつけると、速度を増して地面に叩きつけられた。


【ふう】

「お、飛べるのか?」

【バランスは悪いが少し落下速度を落とすくらいはできる。さて、ならセリカとフォルス、頼むぞ】


 途中で羽を動かし、穴が開いていない方の羽の方角へゆらゆらと流れるように降りて行く。

 フラメが後は頼むと言い、先に降りてからウインドドラゴンへ向かう。


「オッケー! たああ」


 地面に落ちてピクリともしないウインドドラゴンへセリカが再度肩口へと斬りかかる。きちんとした地面で踏ん張りが利くため、アクアドラゴンのサーベルは今度こそざっくりと傷口を作った。


「フォルス、舐めちゃダメよ? つばを垂らしてあげるの」

「ぴゅひぃー」


 舐めると例の病原菌に感染するかもしれないため、話し合った結果そうしている。

 言われたように、抱っこされたフォルスがたらりと唾液を出した。


 傷にべっとりと唾液がついた後、すぐに手袋をして刷り込み作業に入る。

 正直あの高さから落ちたので死んでしまったかもと心配していた。


 すると――


【あああああ!? いったぁぁぁい!?】

【成功したか】

「うるさっ!?」


 ――ウインドドラゴンが絶叫しながらのたうち回った。

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