その103 襲撃

「見えてきたな」

【あの町でええんやな?】

「はい! あれが俺達が依頼報告をするレツトの町です」


 トラントが前方に見える町で合っているとシュネルに告げると、ゆっくり降下を始めた。

 程なくして地面に降り立つと、三人の冒険者は背伸びをした後、シュネルの前に立って頭を下げた。


「シュネルさん、ありがとうございました!」

【おお……いや、別にラッヘはんのお願いやし、かまへんって。久しぶりに長く飛んで良かったし】

「謙虚だ……後で芋、買ってきますから!」

【そら助かるで!】


 移動中、色々と話をしていたのでシュネルの好物もわかっていた。

 三人は俺達に手を振って町の中へと入っていき、それを見送った。


「帰りも送っていくんでしょ?」

「どうせ報告なんてすぐだからな。芋を買ってくれるらしいし、待ってもいいだろ」


 町には入れないので俺とセリカはしっかり武装している。魔物が出ても余裕で撃退できるようにした。まあ、フラメやシュネルがいるので近づいては来ないと思うけどな?


「ぴゅーい」

【キャンプはしないぞ? 日帰りだ】

「ぴゅー……」


 手を大きく広げて、なにやらフラメに主張していたフォルスに『キャンプはしない』と告げていた。あの手を広げていたのはテントのことかな?


「あはは、なんか不満そうね。フォルス、キャンプしたいの?」

「ぴゅーい♪」

【でもジョー達はいないぞ】

「ぴゅ!? ぴゅー……」

「それを言うのは可哀想だぞ」

【むう、すまん】

【フォルスはみんなが好きやさかいなあ。アイラはんもおらんやんな】

「ぴゅ!」

【あ、やめてえな】


 みんな一緒がいいフォルスがフラメに言われた落ち込んでいた。が、その後またからかわれるようにアイラのことを言われてシュネルの足をぺちぺちと叩く。


「とりあえず彼等が帰ってくるまでは暇だし、のんびりするか」

「あ、シートは持って来たよ」


 セリカがカバンから布製の敷物を取り出して広げ始めた。風が少しあるので、フラメと俺も手伝い広げる。


「ぴゅー♪」


 広げている敷物に飛び込むフォルス。クッションみたいにバウンドして楽しそうだ。


「そろそろおねむの時間だし、遊ばせておきましょうか」

「そうだな」


 遊び疲れて寝てくれると大人しくなるので、ポケットに入れておける。外に出てはしゃいでいるフォルスを見ながら俺達は敷物に座った。


「黒いドラゴンの話がないか聞いてくれるみたいだけど、どうかしらね?」

「ここからそう遠くないところにフォルスの母親を倒した山がある。もしかしたらまた別のが住み着くかもしれないし、見に行くのもいいかもしれないな」

【目的は黒いドラゴンだろう? もしあの病の原因なら正気を保っているはずだ】

「それはそれ、だな。特効薬になっているフォルスが居れば助けられるだろ」

【なるほど。黒いドラゴンだけを狙うのではないのだな】


 こいつらの同族なら助けるべきだし、情報があったらどんなドラゴンでも駆けつけるつもりだ。フォルスの唾液という一時的な特効薬もあるしな。


「だから――」

【……!】

【この気配は!? 噂をすればハゲや! 空を見てみい!】

「あ!」


 俺が話している途中で、フラメとシュネルが空を見上げた。シュネルの言葉の意味は分からなかったが、上空を旋回している小さな影が見えた。かなり高度にいるな?


翼竜ワイバーンか?」

【ちょっと見えにくいが……あれはウインドドラゴンではないか?】

【……っぽいですなあ】

「強いの?」


 フラメはそうでもないが、シュネルは声が上ずっている様子が伺えた。

 セリカが質問すると、シュネルが冷や汗をかきながら答えた。


【わしらの上位種と思ってくれたらええですわ……飛行能力で負けるとは思ってまへんが、フィジカルは圧倒的に向こうが上。わしだけではとてもやないけど勝てる相手じゃありまへん……】

「そうなのか。麻痺とかは?」

【ドラゴンは抵抗力が高い。何度か攻撃をすれば通用するだろうがな】

【その間にわしはバラバラにされますわ!? ……どうしましょ?】


 空の戦い、しかもあの高度では危険があるな。折角見つけたドラゴンだが、ここは見守るしかないか。


「高いわねー! アースドラゴンはこの前倒しちゃったし、アクアドラゴンは私の装備になってるからフラメとあの子は貴重なドラゴンなんだけどなあ」

【確かにな。それでもシュネルより倒すのは手こずるはずだ】

【悔しいけど、事実やな……!】


 ひとまず様子を見ることにしようと頷きあう。緊張した時間が進む中、上空のドラゴンに動きがあった。


「急降下してきた……!」

「町に突っ込む気か……!? シュネル、すまないが迎撃に回るぞ!」

【オッケーや。ラッヘはんがおるなら負けはないやろ!】

「フォルス、おいで!」

「ぴゅー!」


 セリカがフォルスを呼んで、素早く敷物を片付けた。俺達はすぐにシュネルの背に乗ると、まっすぐ降りてくるウインドドラゴンに向かって上昇を始める。


「速い……!」

「うん、流石ね! でも、そういえば風を感じないわ」

【わしの魔力で周囲に空気の防御をしとるんや。戦闘で速く動きすぎると空気の壁ができて怪我をするさかいに】

「へえ、そういうのもあるのか。……よし、制圧するぞ」

「うん……!」


 ウインドドラゴンとの距離、およそ500メル。剣を抜いて接敵を待つ。

 そして町に向かって空気の斬撃を飛ばそうと羽を広げたところでシュネルがぶつかった。


【どっせぇぇぇい! ……いったぁぁぁぁ!?】

「ナイスだシュネル! 行くぞ!」

【グォァァァァァ!!】

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