その102 輸送依頼
「ぴゅー♪」
「ほら、フォルスの好きなヤギミルクのシチューだぞ」
今日も今日とて朝ごはんを平和に食べる俺達。天気も良く、哨戒には悪くない状況である。
【んまー!】
【たまにはキャベツもどうだ? 甘くて美味いぞ】
【わし、葉ものは苦手なんですわ……】
「好き嫌いをすると強くなれないわよ?」
「ぴゅい!」
フォルスがそうだとシチューの入ったお皿を見せた後、シュネルの鼻先をぺちぺち叩く。
【ああ、そのどろっとした食べ物ならいけそうや。キャベツもしんなりしとるし】
「調理の仕方を変えないと食べられないのは子供みたいねえ」
【うう、わしもいい歳なんやけど……】
アイラがそう言って笑うとシュネルはがくりと首を落とした。相変わらずでかい身体をしている割に繊細なやつだ。
「飯を食って少し休憩したら飛んでもらうぞ」
【オッケーやで! それにしても人間と共存すると美味い飯が食えるとは思わへんかったわ】
【そうだな。『料理』という概念がオレ達には無いが、これを味わうと素材のまま食べるのが勿体なく感じてしまう】
「フラメはニンニクとキャベツの炒め物が好きよね」
【ああ、あれは毎日でもいいくらいだ】
【わいは『すいーとぽてと』がええなあ】
ドラゴン達がそれぞれ好みの食事を語っていると、入り口から声が聞こえて来た。
「ラッヘ殿! 良かった、まだいらっしゃいましたか」
「おや、ギルドマスターじゃないですか。どうしました?」
声の主は王都のギルドマスターであるマイクロフさんだった。
用件があるみたいなので庭に入ってもらう。
「団欒中に申し訳ない。頼みたいことがあって参りました」
「なんですか? あら、他の冒険者さんもいるのね」
「ええ。彼等に関してなのですが――」
マイクロフさんが困った顔で説明を始める。
なんでも少し遠い町へ依頼の完了報告と、ついでにドラゴンの件について書かれた書状を運ぶ予定となっていた冒険者のパーティだそう。
だが、馬車が壊れてしまったらしい。 修復すればなんとかなるものの、依頼報告は期限があるらしく困っているとのこと。
「そこで毎日飛ばれている
【わしは構わんけど……】
と、話を聞いていたシュネルが俺に視線を向けながら言う。馬車なら三、四日くらいだが、飛べば数時間でいける距離だ。
「俺がフォルスを連れて帰った山と、セリカの町の中間くらいにある町だな。どうせその辺も確認しに行くんだ、いいよ」
「そうか! ありがたい」
「「「ありがとうございます!」」」
三人パーティの男女が頭を下げて来た。礼儀のある者達である。
まあ、決まった際に『ドラゴンに乗れるぞ!』とか言っていたから好奇心の方が勝っていそうだけどな。
「少し食休みをしてから飛ぶから、しばらく待ってくれるか?」
「は、はい! あ、あの……
「ん? ファン……俺の?」
「そうです! ドラゴンと単独で戦える冒険者の中でもトップクラスの強さを持つ、ラッヘさんです!」
「どこでも人気よね」
「知名度は段違いに高いからなあ」
アイラの言葉にマイクロフさんが肩を竦めて言う。
そこでセリカと、抱っこされたフォルスが鼻を鳴らしていた。
「そりゃあ私の旦那様だもの! ねえ、パパは強いもんね?」
「ぴゅいー!」
「あ、可愛い!」
「人見知りするからあまり近くならないようにしてね」
「えー、残念……」
パーティの女の子がフォルスを見て目を輝かせていたが、セリカにやんわりと止められていた。
【まあ、小さい時は可愛いものだ。オレくらいになるとごつくなるからな】
「こっちにもドラゴン! ちょっと大きい? こっちのもそうだけど喋るんだなあ……」
「フラメなら撫でても大丈夫よ」
【む? 撫でたいのか?】
「い、いいですか? ご利益がありそう……」
三人組はうっとりした顔でフラメを撫でまわした。フラメは人間三人に取り囲まれて困惑気味だが、悪い気はしなさそうだ。強者の余裕か。
「それじゃラッヘさんの言うことをちゃんと聞くようにな。で、ラッヘさんは戻ってきたら報酬を出すのでギルドに来てください」
「了解だ」
程なくしてシュネルの背に、アイラに作ってもらった搭乗用の装備をつけてから俺達は空へと舞い上がる。
「うおおお……!」
「すっごい!?」
【落とさへんけど、気を付けるんやで。ほな行ってくるでー】
「気を付けてー」
徐々に遠くなっていくアイラやジョー達に手を振り、ある程度の高度になったところで目的地へ向かう。
「シュネル、もう少し右だ」
【あいよー】
「あなた達、大丈夫? 怖くない?」
「ぴゅーい?」
首の付け根に座る俺が指示を出していると、背後からセリカが三人を心配する声が聞こえて来た。フォルスも真似をしているようである。
「大丈夫っす! 逆に興奮してますよ、まさか悪名高いドラゴンと話して背中に乗って空を飛ぶ……土産話にもなるっす!」
「ラッキーでした。その、
リーダー格の青年、トラントと眼鏡をかけた魔法使いの青年ゼキルがそれぞれそんなことを口にする。
「まあ、俺も襲ってくるやつは倒すし、前はドラゴンが悪だと思っていたから倒していた。だけど、赤ちゃんや話のできるやつをわざわざ殺していたらこっちが悪者だ。そう思わないか?」
「……ですね! ルーミは赤ちゃんを撫でたいです……!」
回復魔法の使い手であるルーミが賛同してくれた。この三人はいい冒険者になるな
俺はそんなことを思いながら正面に視線を戻すのだった。
そして――
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