その101 手掛かりはそのうちやってくる

【到着やでー】

「ありがとうシュネル」

「いやあ、中級ドラゴンなんて嘘だろ? 十分かっこいいよ」

【ぬはは! 王子様はお上手ですなあ!】

「ぴゅー♪」

【フォルスも楽しかったか? そら良かったで♪】


 ――王都へ帰還してから十日ほどが経過した。

 

 特にあれから話は進んでおらず、今日もシュネルに乗って空から偵察をしていたりする。

 これは陛下から許可が下りたからで、シュネルだと分かる装飾品をつけることを条件として空を飛ぶことを許された。

 これで射かけられるようなこともないため、地上・空ともになにか変化があれば確認しやすくなったと思う。


【フラメの旦那は置いてきて良かったんですかい?】

「また竜鬱症が発症したら困るけど、今のところは大丈夫そうだからな。短時間だし、王子たちもいいと言ってくれていた」

「そうだね。セリカさんも対ドラゴン装備だし、そこは臨機応変にした方がいいと思ったのさ」

「でも、万が一のことがあるので危険ですよ」

「ま、自己責任ってことで。こんな体験は他じゃできないからね。いつか王になった時、色々あった方が面白いだろ?」


 ……まあ、王子だけでなく陛下も王妃様も装備を整えて乗りに来るので構わないけど、昨日みたいに襲われていた旅人救出で戦闘になることもある。あまり哨戒について来て欲しくはないんだけどな。


「おかえりー!」

「ぴゅーい♪」

「あはは、元気だねフォルスは。セリカはフラメとジョー達のブラッシングをしているわよ。王子様もお疲れ様です」

「うん、ありがとう。それじゃあ僕は報告書を書かないといけないから城に戻るよ。またねフォルス」

「ぴゅい!」


 一応これも仕事らしい。

 フォルスが片手を上げて見送ると、エリード王子は顔を綻ばせてお付きの騎士と共に屋敷を去っていった。まだ可愛がっていたいようだけど、そこはきっちりしていた。


「なにか見つかった?」

「いや、今日は少し魔物を倒した程度で終わったよ。後で金が届けられると思う」

「そんなにすぐ見つかったりしないか」


 アイラがフォルスの顎を撫でながら苦笑していた。俺が十年彷徨って見つかっていない黒いドラゴンだ。これからまた数十年かかってもおかしくはない。


「……せめて俺が生きている時に解決したいものだ」

「もしダメでも、いつか国を挙げて解決してくれるわよ。ドラゴン達は寿命が長いみたいだし」

【せやな。けど、例の病がある。わしらを止められる人間は必要やと思うで。ほな、飯までゆっくりさせてもらうわー! 芋、待ってるで~♪】


 シュネルは普段おちゃらけているが、割とシビアなことも言う。自分が暴れたら始末できる者は必要だと暗に言っているのだがフラメと同じく迷惑をかけないための考えだ。


「こいつらを殺すようなことはしたくないな。明日はもう少し範囲を広げてみるか」

「頑張ってね!」

「ぴゅーい♪」


 アイラの言葉にフォルスが頬を摺り寄せていた。すっかり懐いてしまったな。

 こいつ自身も誘拐されないように訓練しているし、負けていられないかと俺は気を引き締めるのだった――


◆ ◇ ◆


【……ふん、卵の殻にこの魔力。ドラゴンが巣を作っていたみたいだな】


 黒いドラゴンは人の姿でとある山に来ていた。

 そこは以前、ラッヘがクィーンドラゴンを倒し、フォルスを拾った場所だった。

 一目で巣だと判断した彼は、卵の殻を観察しながらひとり呟く。


【……この状態なら、産まれてまだそれほど経っていないな。よくて二か月といったところか? 親ドラゴンの鱗も少し落ちている。狩られたか】


 黒いドラゴンはくっくと肩を振るわせて笑う。そして卵の殻を蹴り飛ばしながら口を開いた。


【はっ! 弱い奴は死ぬだけだ。俺が本能のままに生きられるようにしてやっているにも関わらず殺されるならそいつはそこまでだったということだ】


 黒いドラゴンは笑みをピタリと止める。


【……それにしても卵があるということは雌ドラゴン。俺の目にかなえば子を作らせても良かったが、まあいい。……ん? 誰かいるようだな?】


 そこで森の中に気配を感じて黒いドラゴンは視線をそちらに向けて質問を投げかけた。すると木の裏から一人の男が現れる。


【人間か】

「チッ、なんだあ? お前は? 今てめえが蹴ったのは卵の殻だな? そりゃドラゴンのか?」

【だったらなんだ?】

「戦利品として持って帰るんだよ。オレに恥をかかせてくれた野郎の足跡を追ってんだ」


 その男は少し前にエムーン国で騒ぎを起こしたヒュージだった。特に興味もないなと思っていると、ヒュージが黒いドラゴンにとって興味深いことを話し出した。


「そいつがここのドラゴンを殺していたらしいんだが、真偽はわからねえ。だからそれを確かめてやろうと思ってな。嘘なら詰めてやろうと思ってんだ」

【ドラゴンを殺した?】

「ああ。だけどよ、ドラゴンを連れていやがったんだそいつは。もしかしたら手懐けて殺したことにしたんじゃねえかと思ってな。なにをしていたか知らないけど邪魔したな」


 ヒュージはラッヘに同じく恥をかかせるため情報を集めていた。

 今までの足跡を聞いてここまで来たが、ラッヘがドラゴンを倒したと口々にしている。概ね認めるしかないと思っていたが、ドラゴンと共謀している可能性を口にして立ち去ろうとした。


【待て人間】

「あ? なんだ?」

【もう少しその人間のことを教えろ】

「……それが人にモノを頼む態度か? 口の利き方に――」


 ヒュージが睨みつけた瞬間、黒いドラゴンは口元に笑みを浮かべた後、正体を現す。巨大なドラゴンに姿を変えたのを見て、ヒュージが目を丸くしていた。


「な、なんだと……!?」

【口の利き方が……なんだ? 貴様一人など一瞬で消滅させられるのだがな?】

「うお……!? 野郎……!」


 鋭い爪で近くの木をあっさりと斬り倒したのでヒュージが冷や汗をかく。それでも剣を抜いて戦う姿勢を見せた。


「へへ……お、俺は滅竜士ドラゴンバスターだぜ……! てめえを殺し……ぐあああ!?」


 ヒュージが剣を振りかぶると、黒いドラゴンは足を少し動かして彼を吹き飛ばした。木に激突して地面に横たわり動かなくなる。


【ふん、脆いな。……死んでいないだろうな? 話を聞かせてもらおうか――】


 そう言った黒いドラゴンの手からもやが出現し、ヒュージを包み込む――

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