その85 嫉妬と仲直り
「ぴゅいー」
「うわあ、可愛いよう」
「乱暴に扱ったらダメだぞ」
「うんー!」
【まだ赤ちゃんだからな、オレなら耐えられる】
パティがフォルスを抱っこして背中の毛を優しく撫でていた。言えばちゃんと聞くいい子なのでひとまず遊ばせておこう。フラメお兄ちゃんがついているしな。
「それにしてもラッヘ君が
「ややこしいからそういうのはいいですって。……それに俺はドラゴンに復讐することを諦めちゃいない。利用できるから連れているというのもある」
「ラッヘさん……」
セリカが俺の背中に手を当てて不安そうな顔を見せた。あのドラゴンを倒すまで、それは終わらないのだ。
「そうかい? それにしちゃ懐いていると思うけどね。そっちのお嬢さん、セリカちゃんもラッヘの性根が優しいからついてきたんだろうしさ」
「そ、そうです! 昔から優しいんです。フォルス達も竜鬱症を治せればって考えるような人ですもん」
「くく、だってさ。ウチの姉ちゃんに構われるだけのことはある」
「お姉さん、ですか?」
「ああ。ラッヘの師匠はあたしの姉なんだよ」
その言葉を聞いてセリカがびっくりする。しかし、すぐにポンと手を打ってから納得したようにうなずいた。
「ああ、だからグレリアさんとお知り合いなんですね。研究者、しかも隣国に知り合いが居るのは珍しいと思いました」
「確かにそうだな。説明する必要もないかと思っていたが」
「そういえば義姉さんには会ったのかい?」
「師匠と別の道を歩くと伝えに来たろ? あれ以来会っていないよ」
自由な人なので今頃は遠い地を旅しているかもしれない。さすがにそろそろ子どもを作って落ち着ていてもおかしくないが……どうだろうな。
「姉さんならあんたみたいにひょっこり子供とか旦那でも連れて帰ってくるかもしれないし、いいけどね」
「簡単には死なないだろうから」
「そういえばお師匠様って女の人だったんだ」
師匠の話をする機会は無かったからセリカは今日、初めて師匠について知ることになった形だ。
「ああ。でも恐らくこの大陸でも5本の指に入るくらい強いぞ? ドラゴンを一人で討伐できるのは俺以外だと師匠くらいだろうという自負はある」
「さすがはラッヘさんのお師匠様ね……」
「セリカもAランクだし十分強いと思うけどな」
「へえ、若いのに凄いじゃないか」
「えへへ……」
二人に褒められて照れるセリカに、パティがむっとした顔で近づき膝を叩いた。
「むう!」
「あいた。どうしたのパティちゃん?」
「ぴゅーい!」
「ひゃあ!?」
セリカが困った顔で問いただすも、答えが返ってくる前にフォルスがパティの背中をぺちぺちと叩き始めた。
「どうしたのフォルスちゃん!?」
「セリカはフォルスのお母さんみたいなものだからな。叩かれて怒ったんだよ」
【うむ。ラッヘの言う通りだ】
「ぴゅい!」
容赦ないフォルスのぺちぺちがパティを襲う。そこでグレリアが苦笑しながらパティへ言う。
「ほら、お姉ちゃんにごめなさいは?」
「う……」
「ぴゅい!」
「わあ、フォルスちゃんやめてえ……セリカお姉ちゃんごめなさい……」
「うん、大丈夫だよ! ほら、フォルスも仲直りよ」
セリカがそう言ってパティの頭を撫で、フォルスを手元に引き寄せて小さな手を差し出させた。
「ごめんねフォルスちゃん。ママを叩いて」
「ぴゅいー」
フォルスは一声、満足げに鳴いてからパティと握手をして仲直りをした。
これでわだかまりが無くなるといいが。
【うむ。フォルスにはラッヘとセリカしか親が居ないのだ。パティがお姉さんなのだからそこは考えてやってくれ】
「パティがお姉さん? ……うん!」
腕組みをしたフラメがフッフッフと笑いながら諭していた。お姉さんという言葉が良かったようで、セリカの膝に座るフォルスを撫でていた。
「よくできたドラゴンだ……」
「そうなんだテリーさん。こいつは凄くいい奴でな、研究の素材はフラメのを使ってもらうつもりだ」
【よろしく頼む。一度、病にかかっているのでもしかしたら手掛かりがあるかもしれない】
「あいよ、しっかり研究させてもらうさ。それじゃ、早速隣の施設へ行こうか」
「わかった。フォルス、セリカのポケットに入っておけ」
「ぴゅい!」
「あ、もう終わり……?」
「今からお仕事よ。一緒に行く?」
グレリアがパティを抱っこして尋ねると、即答していた。
そのまま俺もフラメを抱えて一家の後についていくことに。
「うわ、薬の臭い……?」
「相変わらず、見慣れないものばかりあるなあ」
【ふむ、草の臭いという感じだな】
「ぴゅ……」
フォルスは苦手そうである。後で庭で遊ばさせてもらおう。
「こっちに頼むよ」
【ラッヘ、頼む】
「はいはい」
俺達の腹くらいの高さがあるベッドの上にフラメを載せると、横になるように頼む。羽があるので人間と同じようにはいかない。
「フラメ、いつも寝ているみたいにしていいぞ」
【あいわかった】
「……いかん、可愛い」
枕を顎に乗せて、いわゆる伏せのポーズで寝転がる。グレリアがごくりと喉を鳴らし、冷や汗をかきながらそんなことを口にしていた。
「では、素材をもらうぞ」
「一応、麻酔を使っておこうねー」
そしてフラメの素材を提供する作業に入った。
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