その83 研究者の家

「ここがエムーンの中央都市エミュだ」

「大きいわねー。デルモンザより広いんじゃない?」

「あっちと違って居住区域が広いみたいだからな」


 目的の町へ到着した俺達は程なくして町中へ入れてもらい、周囲の散策をしていた。ここにはそれこそ何度も来ている。顔なじみの門兵が居て楽だった。


「それで、その研究者さんのところへ行くのね?」

「ああ。馬車も置けるからこのまま行くつもりだ」

「大きい家なんだ」

「ウチの屋敷ほどじゃないが、色々と成果を上げているから金は持っているってことだよ」

「あ、そっか」


 研究施設を拡張する際に庭付きの家があるのだ。ちなみに家は家より小さいが研究施設はかなり広く取っている。

 そんな話をしながら進路を研究者のところへ向けてゆっくりと進む。

 本来、住宅地は東側にあるのだが、研究施設兼住宅は周りの人の迷惑ならないように西側に建っているのだ。まあ、血生臭いこともあるし、実験動物が逃げたりしたら困る。

 なので西の方でも墓地のようなあまり人の立ち入らない感じの場所に建てたと言っていた。


「ま、特例だけど町は歓迎しているから許可してもらえたらしい」

「生活に関わってくるなら逃がしたくはないよね」

【オレ達の病が分かるといいが】

「ぴゅー」


 荷台で巾着にされているフラメが真剣な声で言う。仲間が殺されるのはやっぱり辛いよな。

 そんな話を交えながらだんだんと人通りが少ない道へと入り、やがて目的地へと到着する。


「あ、確かに」

「だろ? こっちが家なんだ」


 馬車を庭に入れてからジョー達を放す。するとリリアを連れてジョーは奥へ行き座り込んだ。慣れたものである。

 そんな馬を尻目に、俺は家の玄関をノックした。


「すまない、ラッヘだ。話したいことがあって来た」


 しばらく待っていると、扉が開いた。

 そんな少しだけできた隙間から、家主が顔を半分だけ出してきた。


「ラッヘだって……?」

「久しぶりだなグレリア」

「……! おお! 本当にラッヘだ! なんだお前、生きていたのか!」

「勝手に殺さないでくれ」


 赤い髪をした釣りがちな目の女性が俺の顔を見た瞬間、大きく扉を開けて俺の腕を両手でバンバン叩いて来た。物騒なことを口にするなと思っているとセリカが大きな声を上げた。


「あ! また女性!」

「なんだ?」

「なんでも……いや……」


 なんでもないと言いつつ、グレリアに不審な目を向けているな……? なぜだろう。なにかを考えていたがセリカはすぐにグレリアに向いて言う。


「あの、私はラッヘさんの恋人でセリカといいます。もしかしてラッヘさんを好きだったりしませんか?」

「おい、セリカどうしたんだ急に?」


 真顔でグレリアに話しかけるセリカ。アイラはそうだったがさすがにこいつは無いだろう。


「ほほう、恋人ができたのかラッヘ! いや、めでたいな。さて、ラッヘが好きかどうか、か。うーん、どう言ったらいいかなあ」

「どうなんですか……!」


 グレリアは不穏な笑みを浮かべていた。


 そして――


「まあ人間としては好きだけど、恋愛的な意味じゃあどうでもいいかな?」

「本当に……!」

「うお!? 随分ぐいぐい来るなあ」

「まあ、色々あってもう一人居るんだ」

「マジで!? あのラッヘが恋人を! 二人も! ぷふー!」


 ゲラゲラと笑うグレリアにセリカが首を傾げて再度尋ねた。


「あの、本当に?」

「ああ。というかあたしは結婚しているからね?」

「あ!」


 グレリアはそういって左手の薬指を見せてセリカへウインクをしていた。

 その瞬間、セリカは顔を真っ赤にして頭を下げた。


「ご、ごめんなさい……」

「いいよー別にさ! こいつのことが凄い好きだってのが伝わるし」

「ちなみにグレリアは37だぞ?」

「美魔女……!?」

「あっはっは! まー、奥様若いですねとは言われるな! 上がりなよ、歓迎する」


 グレリアが親指で家に入るよう示唆してきたので、俺はフラメを抱えて後を追う。


「わ、キレイな家……」

「ありがとうよ。だいたいはウチの旦那がやってんだけどさ」

「そういえば旦那さんは……?」

「昨日遅かったからまだ寝ているよ。あたしに話があるんだろ?」

「そうだな」


 俺に振り返ってそういうグレリアはそわそわしているような気がする。

 そのままリビングに通された。

 

「そっちに座ってくれ」

「ありがとうございます」

「すまない。……っと」

「……」


 俺とセリカがソファに座り、目の前にあるローテーブルに巾着フラメを置いた。

 グレリアがフラメをじっと見つめている。

 

 そしてフラメと目が合い――


【よろしく頼む】

「しゃべった……!?」


 ――フラメが頭を下げながら挨拶をした。


「おいおいおいおい、なんだこいつは! トカゲの剥製が土産かと思ったんだけど、生きているじゃないか!」

「今日はこいつと……フォルス出てきていいぞ」

「ぴゅい!」

「ふわ!?」

「この子について話に来た」


 俺のポケットから顔を出したフォルスを見てぷるぷると震えるグレリア。


「トカゲ……いや、違うな……その頭部の角……まさか、ドラゴンか?」

「その通りだ」

【よろしく頼む】

「やっぱり喋った……!?」


 フラメは巾着から手を出して握手を求め、目を丸くしながらそれに応じる。

 一息ついたところでグレリアが口を開いた。


「それにしてもまさかドラゴンとはな。赤ちゃんも希少レアだが、喋るドラゴンというのもまた凄いな……」

「色々あってな。まずは経緯から――」

「じー」


 説明をしようとしたその時、リビングへ入って来た扉から視線を感じてそちらを見る。そこには小さな女の子が立っていた。


「お、どうしたパティ? パパと一緒に寝ていたんじゃなかったのか?」

「久しぶりだなパティ」

「……! ラッヘ兄ちゃんだ!」


 グレリアと俺が声をかけると、パッと顔を明るくして俺に突撃してきた。

 大きくなったなあ。

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