その82 ヒュージの素性

「ふああ……おはようラッヘさん……」

「おはようセリカ」

「ぴゅーい♪」

「んー……おはようフォルスー」


 すでに起き出して元気なフォルスがセリカのお腹に乗って鳴く。

 セリカはそんなフォルスを抱きかかえてキスをしながら、ベッドから降りた。


【ぐおー】

「フラメ起きろ、朝だぞ」

【ぐが……む? もう朝か。早いな】


 俺のベッドで大の字になって寝ていたフラメを揺すると眼が半分くらい開けてそんなことを言う。風呂に入ってたわしで洗ってやったら満足そうだった。

 ちなみにこいつには毛が生えておらず、クイーンドラゴンにのみそういう特徴があるそうだ。解体した時どうだったかな? あまり気にしていなかったが素材は売ってしまったのでもうわからない。

 大きくなっても毛があるならもっとふさふさになるかもしれないな。


【ふう、早速飯か】

「ぴゅい」


 フラメが目を覚ますと、フォルスはそっちへ行き朝の挨拶をしていた。フラメが顔を洗うとフォルスも倣ってぱちゃぱちゃと洗う。


「ふふ、お兄ちゃんの真似をするのねー」

「ぴゅーい」

【すまぬ】


 なんだか微笑み二頭の顔をタオルで拭いてやり、程なくして到着した朝食を平らげてから少し買い物をすることにした。


「ジョーとリリアも元気そうね」

「ぶるるー」

「ひひーん」

「もう少しゆっくりしていてくれ」


 念のため馬達の体調チェックをし、エサと水を与えてから俺達は町へと繰り出す。


「大人しくしているんだぞ?」

「ぴゅい……!」

【オレは無理がないか?】

「まあ可愛いからいいでしょ」


 ちょうど道具を入れておく大きめの肩掛け採集カバンがあったので、フラメはそれに入れて持ち歩く形になった。

 留守番でもいいと本人は言うが、万が一暴れたり誘拐されたりということがないようにしないといけないのだ。

 首だけひょっこり出しているフラメが口をつくがまあ帽子も被せているし大丈夫だろう。基本的にはカバンに隠れてもらうけどな。


「お肉は買うとして、お野菜はあまり多いと重いから次の町に着く分くらいでいいかな」

「多分、この調子なら2日でつくだろうから少なめでいいだろう」

【(キャベツは買っておいてくれ)】

「オッケー」


 たまの我儘くらいは聞いてあげるとしよう。ヤギのミルクはシチューにすればフォルスも飲めるし冷蔵しておくか。


 程なくして買い物も終わり出発するかと宿へ進路を取る俺達。そこで近くの建物が騒がしいことに気付く。


(見ろよ、こいつがドラゴンの素材で作った剣と鎧だ!)

(ほう、いい物だな……)

(確かに普通のよりは全然硬い。それに軽いな)

(だろ? このヒュージ様の名前がその内、どこでも響き渡るぜ!)

(まだCランクのガキがなにほざいて――)


 と、少し耳にした。どうやら昨日、門であったナンパ男のヒュージが自慢をしていたようだ。


「本当かしら……?」

「別に冒険者でもなかった俺もドラゴンを倒せるようになったから有り得なくはないけどな」

【どうかな。おおかたパーティで倒したとかではないか】

「おや、珍しく辛口だな」


 フラメがひょこっとカバンから顔を出してそんなことを言う。


【自分で言うのもなんだが、オレ達を倒そうと思ったらかなりの戦力が必要だ。武具はもちろん、身体能力が高くなければちょっと触れただけで大けがをする。見た感じあの男はそこまで研鑽を積んだようには見えなかった】

「アースドラゴンはかなり凄かったもんね」

【色々と考える余地はあるが……まあ、オレ達には関係ないか】

「ま、死なないことを祈るだけだな」


 そんな俺達はリフレッシュして早々に出発。魔物の出ない快適な旅を進める。


◆ ◇ ◆


「ドラゴンの目撃情報は無し、か。ま、そう簡単に見つかる獲物じゃないしな」


 俺の名はヒュージ。

 故郷の村と近くの町を往復して冒険者となって早一年。その時、俺は村を襲ってきたドラゴンを倒すことに成功した。

 もちろん一人では達成できなかったが、多分一番貢献したと思う。

 毒を持っていて空を飛ぶ個体はなかなか厄介だったけど、なんか落ちてきたので一気に攻めた。首を落としたのは俺の剣だった。


「あの感覚は忘れられねえよな……」


 素材と首を町と村に見せたら大いに喜ばれ、金や美味い飯をたくさんもらった。

 たった一頭のドラゴンを倒しただけでだぜ?

 そしてそこで「滅竜士ラッヘ」の話を聞いたんだ。なんでも一人でドラゴンを倒す凄い奴だってな。

 そいつが一人で倒せているなら俺だってできる。いや、実際にやったし。


「俺はそいつを越えて見せる……! 滅竜士の肩書は一人でいい。そして報酬は独り占めだ……!」

「ママ、あのお兄ちゃん気持ち悪い顔で笑ってるー」

「ダメよ目を合わせちゃ……!」

「……」


 ……俺はそんなことを考えつつ、次の町へと行くのだった――


◆ ◇ ◆


「ぴゅーい……!」

「あら、今度はトンボに遊ばれているの?」

「ぴゅー!」


 相変わらず小さな生き物に好かれるフォルスを見てセリカが微笑む。

 今回はオーガフライというでかいトンボである。

 名前のインパクトと俺の掌よりでかいのでちょっとびっくりするが、別にでかいだけのトンボなので無害である。

 うとうとしていたフォルスの頭に止まり、御者台の上でバタバタと暴れていたという訳だ。


「はいはい、もうどこかへ行ったわよ」

「ぴゅーい♪」

【あれくらいは自分でやらないとダメだぞ?】

「ぴゅ」


 俺の膝に座るフラメが注意をすると、フォルスは勘に触ったのか彼の足をぺちぺちと叩いて抗議していた。お兄ちゃんには強い。


「っと、そろそろ到着だ。着替えてくれ」


 そして野営を一日挟んだ後、いよいよ目的地へと到着した。あいつは元気だろうか。

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