その81 また出てくる変な人

「本当にお前さんが倒せるのかねえ」

「おう、すぐにその名を轟かせてやるぜ!」


 入口へ近づいていくと元気な若者と門兵がなにやら話していた。別に不穏なというわけでもなく、門兵のおじさんは肩を竦めて笑っていた。


「すまない、町へ入りたい」

「おや、こんばんは。この時間にお疲れさんですな」

「こんばんは!」

「な……!?」

「ん?」


 門兵が挨拶をしてくれたので俺とセリカが挨拶を交わすと、先ほどまで話していた若者が驚きの声を上げていた。なにごとかとその場にいた全員が若者に視線が行った。

 するとそいつは御者台に座るセリカの横に立って声をかけた。


「君、めちゃくちゃ可愛いな! どう、そんな冴えないおっさんとじゃなく俺とパーティを組まないか?」

「嫌ですけど?」

「即答……! ど、どうしてだ? まさかそのおっさんと付き合っているなんてことは……」

「いつか結婚する予定まで立てているわよ?」

「嘘だぁぁぁ!?」


 セリカが動揺することもなく若者に事実を伝えると、頭を抱えて絶叫する。セリカは可愛いので声をかけたくなる気持ちはわかる。


「本当だぞ」

「おっさんには聞いてねえよ! 俺の方が絶対強いって!」

「それはないわね」

「即答……!? こんな冴えなさそうなのに……」

「ほら、ナンパしてないでさっさと町に入れって」

「わかったよ。俺はヒュージってんだ。すぐに名が売れると思うからその時にまた声をかけるぜ!」


 若者、ヒュージというらしい。彼は門兵に促されてそのまま足早に町へと入っていく。


「一体なんだったんだ?」

「まあ、若いやつの流行り病みたいなもんだ。冒険者で名を残すんだってはりきってたよ」

「へえ。やる気があるのはいいことだな。調子にのって死なないことを願うだけだな」

「ははは、まったくだ。滅竜士ドラゴンバスターになるんだってよ」

「へ?」


 セリカが門兵の話を聞いて変な声を上げ、そのまま口を尖らせて話を続ける。


「ええー? ラッヘさんが居るのにあの態度なの?」

「俺は名前はよく知られていても顔を知っている奴は少ないんだ。ギルドにもあまり顔を出さないし、ドラゴン討伐なんて月に一度あるかどうかだ」

「ん? なんだって? ……お、あんたがラッヘさんか。そりゃあいつも相手が悪いな。本物の滅竜士ドラゴンバスターにおっさんって言っちまった」

「それは構わないけどな」


 ギルドカードを確認した門兵が肩を竦めて苦笑していた。この通り、名前だけは知られているのだ。


「でもあいつ、ドラゴンを倒したことがあるって言ってたぞ。本当かはわからないけど」

「ほう、それは心強いな」

「本当かしら……?」


 セリカが訝しむと、門兵は笑いながら道を開けてくれた。


「武器はその素材を使っているとかでいい感じだったな。ま、ドラゴンは脅威だ。倒せる人間が増えるのはありがたいだろう」

「そうだな、ありがとうゆっくりさせてもらうよ」


 片手を上げて門兵にそういうと、彼も手を上げて応えてくれた。

 それにしても滅竜士志望とは、珍しい。


「仲間がいないっぽいけど一人で倒せるのかしら? アースドラゴンと対峙したときは手慣れた装備が心許ないと感じたわ。今はこれがあるけど」


 まだむくれているセリカはよほど嫌だったようだ。確かにその辺の武器でドラゴンと戦おうと思ったら数が必要だからな。

 彼女の武器はアクアドラゴンの剣でドラゴンにも人間にも特効がある。もちろん前の武器も取っている。

 そんな話をしながら宿をすぐにとった。何度か来たことがあるので迷うことは無いのだ。

 宿の受付で巾着フラメを見た女性が可愛い可愛いと喜んでいた以外は問題なく部屋へ通された。


「お前、流石に『メェー』って鳴き声は無いだろ」

【ダメだったか? 『ぴゅーい』で良かったかもしれんな】

「ぴゅーい♪」


 俺がフラメにダメ出しをしていると、他の人間の気配が無くなったからかフォルスが元気よくポケットから飛び出してまだ巾着に包まれているフラメに抱き着いた。


【残念だがオレも動きたいから脱ぐぞ】

「ぴゅー!」


 そういうとフラメは器用に巾着から抜け出た。フォルスが不満げな声を上げるが、フラメは巾着をきちんと畳み始めた。


「ほら、邪魔しないの。ね?」

「ぴゅー……」


 セリカがフォルスを抱っこしてベッドへダイブすると、やはり不満そうに喉を鳴らす。その直後、セリカの指を甘噛みし始めた。


「はいはい」

「ぴゅい」


 こいつが指を甘噛みするときは不満があり、背中を撫でろという合図でもある。

 セリカが苦笑しながら背中を撫でると、フォルスは少し落ち着いたようだ。

 

「まあ、門で大人しくしていたのは成長だよな」

「そうねー。まあ、誘拐されかかってから絶対に私達のそばを離れないってのもあるけど」

【屋敷の庭ならジョーやリリアがいるから遊びまわれるのだがな】


 巾着と帽子を畳んだフラメがベッドによじ登りそんなことを口にした。

 屋敷は王妃様に連れて行かれそうで怖いから油断はできないのだ。


「さて、飯が来るまでゆっくりしよう。確か風呂がついているんだ」

「それは嬉しいかも! ……なるほど、自分でお湯を沸かして入るのね。フォルス、入りましょうか」

「ぴゅーい♪」

【水浴びか】

「今日はお風呂だよ。お前はあんまり好きじゃないか?」

【そんなことはない。オレが住んでいた火山は暖かいお湯があってよく浸かっていた】


 フラメは懐かしいなと目を瞑って頷く。

 どうやら広い方がいいらしいので、人間の風呂桶では満足できないようだ。

 今日は俺が背中でも流してやるか。

 それにしても滅竜士になりたいやつがいるとは……どういう修行を積んで来たかわからないけど、無茶をしなければいいがな。

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