その70 強い人
「囲まれているわね?」
「だな。盗賊団ってところか」
アイラの小屋を数十人の男達が囲んでいるのがわかる。姿は見えないが気配や殺気などで状況は把握できる。セリカも分かっているようで周囲をよく観察していた。
「アイラさんを襲うなら早く出て行った方がいいんじゃない?」
「そうだな。小屋に侵入しようと出てきたところを抑えるか」
【オレが行くか? 今ならちょっと大きいトカゲと思ってもらえるかもしれん】
「羽のあるトカゲは居ないからな? まあ、俺達が出る幕があるかどうか」
「え?」
その時、盗賊達に動きがあった。
足音を立てず小屋に何人かが張り付く。まだ全部じゃないな。
「早く行かないと!」
「まだだ」
セリカが焦るが、そのまま見守っていると小屋の中へ男達が入っていく。さらに続けて小屋の周りに男達が群がって来た。気配の数を考えるとこれで全員か。
「よし、叩きのめすぞ」
「アイラさん今いくからね……!!」
「ぴゅー!!」
【突撃だ】
フォルスをポケットに入れて俺達は茂みから飛び出した。距離にして100メル。
数秒で到着する距離なので、奴等が気づいた時にはもう遅い。
「なんだ……!? ぐあ!?」
「はいはい、まっとうな仕事をしましょうね!」
「ガキが! ぎゃぁぁぁ!?」
まずは素早いセリカが二人をあっという間に叩きのめす。訓練された冒険者と盗賊では女の子と男という体格差があってもこの通り。
「逃げられると思うなよ」
「くそ!?」
「つ、強い……!?」
「ぴゅいぴゅい♪」
ダガーやショートソードが主武器のようだが、俺の大剣とじゃリーチが違いすぎる。俺が少し振るうだけで男達の肩口から血が噴き出した。
【ふむ、やはり強いな】
「おう!? なんだ、こいつ喋ったぞ!?」
【む? ここにも居たか】
「殺すなよ」
フラメが腕組みをして頷いていると、盗賊団がそれを見て驚いていた。
ちなみにここまで戻ってくる時に、小さいながらもかなりの戦闘力を有していることが判明しているので放置でいい。が、不意に殺してしまいそうなので一応釘を刺しておいた。
【任せておけ。フォルスに見せるほどの戦いではないか】
「なん……!?」
俺の言葉に頷いた後、フラメは近くの盗賊へと両手を突き出し突撃していった。今のフラメは盗賊の膝くらいの大きさなのだが――
【ふん】
「うおお!? ばかな、トカゲにこれほどの力がぁぁぁぁ!?」
――フラメが両手で押し込んだ瞬間、まるで馬車が体当たりしたかのような衝撃が発生し、盗賊は大きく吹き飛んだ。
「ぐは……」
【まずは一人。さて、どんどんいこう】
「ぴゅー! ぴゅいー!」
「お兄ちゃんの活躍を喜んでるわね。さて、私も負けてられないか! アイラさんを助けないと!」
フォルスが手をパンパンと払う仕草をしていたフラメに声援らしきものをなげかけていた。セリカが不敵に笑い盗賊達をなぎ倒していく。
「に、にげ――」
「逃げられんといったはずだ」
俺も盗賊達を死なない程度に斬りつけて行動不能にしていく。ドラゴンと戦うのと比べたら人間相手は楽なものだ。
そして数分も経たないうちにその場にいた人間は全員捕縛することができた。
「やれやれ、余計な仕事だったな」
「あ! アイラさん!」
【オレも行こう】
俺が腰に手を当てていると、セリカが小屋へ入っていった。他に見張りがいないとも限らないのでこのまま待つことに。
「え!? 倒したの!?」
「そうだけど、おかしい?」
するとしばらくして中からそんな声が聞こえて来た。
◆ ◇ ◆
「アイラさんって強かったんだ……」
「あはは、こんなところに女一人で住んでいるくらいだから当然鍛えているわよ。鍛冶は筋力も使うし」
「多分、Bランク程度は軽くあるだろうな」
【なるほど、だからラッヘは慌てなかったのだな】
というわけでセリカとアイラも倒した盗賊達を連れて外に出てきていた。
中に押し入った盗賊は全て鍛冶師のアイラが倒していたのでセリカが驚くのも無理はない。
男一人でも人里離れたところに住むのは危ないのに、アイラがここに一人で住んでいるのは強いからに他ならない。
男連中がアイラのお眼鏡にかなわないのは弱い男が嫌いという部分にも繋がっているのだ。
「とりあえずこいつらをどうしようかしら?」
「ひとまず麓のデルモンザに引き渡そう。カルバーキンなら話は早い」
「なら、ちょうど納品があるから声をかけておくわ」
アイラは後でデルモンザに行くらしい。言伝を頼んで、俺とセリカが待つのがいいか。
「それで随分早かったけどその赤いのはドラゴン? 片が付いたのね?」
「ああ。こいつが暴れていたらしい。なんとか殺さず暴れないようにできた」
【オレはフラメ。セリカとラッヘに名前をつけてもらった。いつ暴れるかもわからん者だが、よろしく頼む】
「あら、しっかりしているわ。あたしはアイラ、ラッヘの第二婦人ってところ」
アイラはにこにこと笑顔を見せながらテーブルに乗ったフラメと握手を交わす。
「ぴゅーい!」
「フォルスも握手をしたいの?」
「ぴゅー♪」
フラメの真似をして手を伸ばすと、アイラは意図を汲んで握手し、フォルスはご満悦であった。
装備はあまりにも早く帰りすぎたため、まだできていないとアイラは笑っていた。
またドラゴンの情報を得るため旅か。そう思っていたのだが――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます