その69 ご機嫌ドラゴン

【~♪】

「ぴゅい~♪」

「なんだ、ドラゴンも鼻歌をするのか?」

【む? そうだぞ、ドラゴンに伝わる鼻歌だ】


 御者台に座るフレイムドラゴンは文字通り鼻歌を鳴らしていた。フォルスも気に入ったのか真似をして合唱していた。


「ご機嫌ね」


 そんな二頭のドラゴンとは対照的にセリカは不満げだ。

 まあ自分の考えた名前がすぐに採用されなかったからだと思う。


【それはセリカが変な名前ばかり提案するからだろう】

「強そうな名前がいいじゃない? せっかくだし」

【せっかく……】

「まあまあ、フラメはセリカが考えた名前だしいいだろう?」

「そうだけど、もっと強そうなのが……」

【オレはアイアンアームとか嫌だぞ】

「かっこいいのに」


 セリカは口を尖らせてから鼻歌を鳴らすフォルスを抱っこして背中を撫でまわしていた。


「そういえばフラメには毛が生えていないな?」

「ぴゅい」

【これは女王の子に見られる特徴だ。キングドラゴンかクィーンドラゴンのどちらかになる】


 ドラゴンの生態はまったくわからなかったがフラメがこうやって教えてくれるのは非常に助かる。


「これはアイツに教えてやるべきか」

「アイツ?」

【どいつだ?】

「こいつを見せようと思っていた生物研究者の知り合いが居るんだ。だからフラメが語ってくれたらドラゴンについてまとめてくれるかもしれない」

【ほう、それはいいな。オレたちは争いを好まないものが多い。人間相手なら勝てるが、ラッヘのような者もいるしな。子をそれほど作らないから死ぬのはあまりよくない】


 寿命が長いから『まあ今はいいか』と婚活に失敗した男みたいなことがドラゴンの間では多いそうだ。ただ、現状は病のせいで雌ドラゴンを摑まえるのも難しいのではないかと言う。


【このままではドラゴンは絶滅するかもしれんなあ。そう考えるとフォルスは希望だ】

「そんなことさせないわ。私が生きている内になんとか原因を突き止めて止めないと。フォルスやフラメを自分達の手で倒すのなんて……嫌だもん」

「……そうだな」

滅竜士ドラゴンバスターがドラゴンを保護するとは変な話だがな】


 フッフと笑うフラメに俺は肩を竦めてから返す。


「こいつのせいだからな。まあ、連れて歩けばドラゴンに遭遇するだろうと思っていたから合ってはいた。話がわかるなら殺さない方が楽でいい」

「ラッヘさんは優しいからねえ」

「ぴゅー♪」


 セリカの言葉に同意するかのようにフォルスが俺の膝に乗り、顎を舐めて来た。

 まだひと月程度の関わりだが可愛くなってきたものだと思う。


【……狂鬱症。本当につい最近の病といっていい。そして恐ろしく強力だ。治せるなら治してやりたいよ】


 それについてはどうなるか分からないので安易に頷かないでおくことにした。

 俺達は一路、アイラのいる山を目指す。


◆ ◇ ◆


「……ハッ!? こ、ここは」

「お、目が覚めたかい。男に振られて飲んでいたんだよ」

「振られてませんー! まだチャンスはありますー!」

「なんだい、元気じゃないか。それにしても器用だね、ジュースで酔えるフリができるなんてさ」


 チッっとわたしは舌打ちをして食堂のおかみさんを睨みつける。するとおかみさんは笑いながら肩を竦めて掃除を再開していた。

 お酒は苦手なのでしかたないじゃあないですかね?

 

「時間は……まだお昼すぎですね。どうしたものか」


 結局、ドラゴンの下へ案内してからほぼ一日で解決し、ラッヘさんは去ってしまった。この町に滞在中、あの手この手で篭絡し、三人目の妻として左うちわ生活をするつもりだったのに……


「左うちわなんて古い言葉を知ってるねえ」

「人の思考を読むんじゃありませんよ!?」


 食堂は幸い無事だったものの、町の家屋が崩れているところも多いため食堂は閑散としていた。


「……お金はあるんですが」


 ラッヘさんから情報量としてもらった金額はしばらく商売をしなくても食っていけるほどです。しかし、いつかは尽きる。

 またドラゴンの情報を得ることができれば、ラッヘさんに会うことは可能……


「やはり、追うしかありませんか。おばちゃん、勘定!」

「はいはい、毎度。頑張りなよ」

「あ、はい」


 ちょっと安くしてくれたおかみさんに頭を下げてから外に出ると、待たせていたバーバリアンと合流して出発する。

 

「さて、ひとまず北を目指しましょうか。ドラゴンの情報を探しに!」

「ぶひんー!」

 

 ラッヘさんの馬と悪友みたいになっていたので少々寂しそうですが、また会うこともあるでしょう。しばし、お別れですが必ずまた――


◆ ◇ ◆


「ぶえっくしょん!?」

「あら、風邪?」

【それはよくないな。オレの炎で温まるか?】

「ぴぃ」


 心配するフラメが口から炎を出して上を向く。フォルスがその様子を見て首を傾げていた。どうやっているんだろうな?

 まあ、少し急いで帰って来たので寝不足のせいかもしれないけど。


「ああ、大丈夫だありがとう。一瞬だけ背筋に寒気が来ただけだ」

「もうちょっとでアイラさんの小屋だから休ませてもらおうね」

「そうしよう」

【ふむ、この辺りは空気が澄んでいていいな。どこかに穴を掘って巣を作りたいくらいだ】

「そういうの気にするんだ?」


 周囲を見ながらフラメが嬉しそうに言うのを聞いてセリカが尋ねる。


【魔物が死んだりして魔力の滓が多い場所だと臭いがあるのだ。脳にツンと来るから見つけたら燃やして処理している】

「はー、すごく偉いわ……」

「ぴぃ! ぴゅい!」

【はっはっは、フォルスもその内できるようになる。それにこうやって小さくなれるが、元はやはりでかいからな。広い場所が取れる山はありがたいのだ】


 ぼーっと炎を吐くフラメに、フォルスが興奮状態でぺちぺちとフラメの足を叩いていた。少しの旅でちょっと打ち解けただろうか?

 というか小さくなれるならずっと俺達と暮らせるんじゃないか?


「ん……?」

【これは……】

「人の気配がするわね……」


 そんな話をしていると、アイラの工房近くまで到着した。しかし、お客さんとは思えぬ人の気配を感じた。

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