その68 お別れはあっさりとし、ドラゴンは小さくなる

「やぁだぁ! わたしも行くんですぅぅう!」

「ダメだって言ってるだろ? じゃあなついてくるなよ」

「こういうラッヘさんも珍しいわね」

「ぴゅーい」


 というわけでレスバとはここで強引にお別れをした。情報提供には感謝しているが、フレイムドラゴンがいざ暴れた際に責任を負えないからだ。

 なので彼女が準備をしている間に逃げるように町から離れたのだ。

 セリカが珍しいと言うが、こういうことは何度かあったので実はそうでもない。

 ついていきたいという冒険者は何人か居た。


「ぶるふーん」


 そして喧嘩友達が居なくなったジョーがやや寂しそうではあったが仕方がない。ちなみにフレイムドラゴンは飛べないのでボチボチ歩いていく形だ。


【いいのか? 商人は役に立ちそうだったが】

「構わないさ。それにあちこち回ってもらった方が情報を集めてくれそうな気がする」

「それはありそうね。ラッヘさんにまた会うためと、お金になるならそれくらいはしそう」


 セリカが笑いながらポケットから上半身を出しているフォルスを撫でていた。


【ふむ】

「わ!? びっくりした!?」

「ぴゅい!」


 その瞬間、フレイムドラゴンが首をにゅっと御者台に近づけてきた。セリカがびっくりしていると、フレイムドラゴンの鼻先をフォルスがぺちぺちと叩いて牽制する。自分より大きな相手に頼もしい子である。


【おう、攻撃ではないぞ。その子を見て少し思いついたことがあったのだ】

「ぴゅー!」

【名前はフォルス? あいわかった】


 なんかお互い意思疎通をしているようだ。それより気になったことを口にしたので俺はフレイムドラゴンに尋ねてみることにした。


「なにを思いついたんだ? 馬車を持って歩くのはナシだからな? 馬達がびっくりする」

【その通りだ。だからオレがそっちに合わせようと思う】

「合わせる?」

【うむ。少し馬車を止めてくれ】


 セリカの問いに応えるためといい、俺は馬車を止めた。フレイムドラゴンは馬車の前に回り込むと、身体に魔力を込め始める。


「なにをする気だ……!」

【なに、悪いようにはせん。……むん!】

「きゃあ!?」

「ぴゅいー!?」


 掛け声をあげた瞬間、突風が巻き起こり俺達は目を瞑る。だが、長くは続かなかったのでそっと目を開けると――


【どうだ? これなら馬車に乗れるだろう】

「あらま」


 ――そこには腕組みをして、ふふんと鼻を鳴らすフレイムドラゴン(中型)が立っていた。大きさはかなり小さく、セリカの胴体くらいだ。

 翼は相変わらず破れているけど、これなら荷台にも乗るし、目立たなくなる。


「そんなことができるのか」

【一定以上生きたドラゴンなら可能だ。さらに上のドラゴンは人型にもなれるらしいが会ったことはないな】


 御者台によじ登ろうとしながらそんなことを言うフレイムドラゴン。

 小さくなったのでなかなか登れないようだ。


「待って、乗せて上げる」

【すまぬ】


 ひょいっと持ち上げられたフレイムドラゴンは俺とセリカの座席の間にあるクッションの上に座る。セリカも座ってさあ出発という時にフォルスが顔を出した。


「ぴゅいー!!」

【おう!? なんだなんだ!?】

「あ、ごめんフォルス。お気に入りだったわね」


 お気に入りのクッションをとられたと思ったらしいフォルスが珍しく声を荒げていた。そこでセリカが困ったように笑い、フレイムドラゴンの尻に敷かれていたクッションを取って膝に乗せた。


「ぴゅふー♪」


 フォルスはセリカの膝の上にあるクッションに移動してご満悦に鳴いていた。

 特に怒る様子もないフレイムドラゴンは大人である。


「膝に乗るか?」

【ふむ、話をするにはいいかもしれない。では失礼して……】

「ぴゅ!」

「あ、フォルス。暴れないの」

【む】


 フレイムドラゴンは俺の膝へ移動しようとしたのだが、今度はそれを阻止すべくフォルスが彼の尻尾を掴んでいた。嫉妬……というか独占欲が強いのか?


「ぴゅい! ぴゅいーい!」

【わかったわかった。ここに座るのはいいな?】

「ぴゅい」


 頷いた。

 御者台の上なら許可してもらえたようだ。そこに移動し、フレイムドラゴンは体を丸めた。


「ごめんね」

【いや、問題ない。オレは新参者だ。フォルスの言うこともわかる】

「なにを言っていたんだか……」


 セリカがフレイムドラゴンの背中をさすりながら言うと、納得していると口にする。できたドラゴンだなホント。

 フォルスがなにを言っていたか気になるが、それよりもなにか起こらない内にこいつから話を聞こう。


「名前はあるのか?」

【ない。基本的にドラゴンは顔と魔力で識別できるからな。『おい』とか『お前』で会話することが多いな】

「そうなのか。賢いのにそういうのは雑なんだな……で、その小さくなる技はずっと続くのか?」

【そうだ。魔力を制御して小さくしているからむしろ楽な姿なのだ。一応、思いついたことというのはこの姿になることではない】

「え、そうなの?」


 セリカが不思議そうに尋ねると、首を持ち上げてからフレイムドラゴンは言う。


【万が一、オレがまた暴走した場合この姿ならそこまで被害は起こらないであろうということが挙げられる。無意識に大きくなるかもしれないが、予防としては悪くないだろう】

「なるほどねー! さすがだわ」

【それほどでもない】


 とはいいつつ、セリカに背中を撫でられてご機嫌なようで尻尾がぶんぶん振られていた。


「ぴゅい……!」

「あはは、なかなか掴まらないわね。いいお兄ちゃんができたかも?」

「確かにそうかもな。あと、爪は大丈夫なのか?」

【すぐに生えてくる】


 らしい。

 まあ、いいやつなのは間違いないということだけは判明したな。そう思うとアースドラゴンが逝ってしまったのが悔やまれる。


「それじゃアイラのところまでよろしく頼むぞフレイムドラゴン」

【うむ】

「フレイムドラゴンって個体名じゃなんか可哀想じゃない? 名前、つけてもいいかしら?」

【名前か……そうだな、頼もう】


 セリカが名前が無いと不便だしという。気のいいフレイムドラゴンはもちろん承諾した。


「よしきた! それじゃ強そうだし……ストロンゲスト!」

【いやだ】


 だが、気のいいフレイムドラゴンは初めて拒絶を示した。

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