その67 誠意とは

「ううむ、まさかドラゴンを従えてくるとは……」

【オレも驚いた。我等の病は一度発症すると死ぬまで治らないのだ。それをまさか滅竜士ドラゴンバスターと呼ばれる者が助けてくれるなど思わないだろう】

「そうだな」

「まあ、概ねこいつのおかげですがね」

「ぴゅーい」


 あれから少ししてギルドマスターと町長さんがやってきてくれた。

 町の外で複数の武装した冒険者と一緒にドラゴンを囲んできて、ようやく話し合いになったのだけどな。

 まあ、それは警戒してしかるべきなので特に気にすることではない。

 このドラゴンはレスバの言っていた通り、この近くで発見された個体でいつ町に来るか不安だったそうである。

 

 さて、そんな各人の反応はというと、町長は興味深いといった感じでフレイムドラゴンの手に乗る俺を見ていた。ギルドマスターは冷や汗をかいて返事だけをしていた。

 フォルスは人がたくさんいて顔を引っ込めたまま鳴いていた。

 ちなみに町の被害はまあまああったものの、人的被害はゼロとのことである。そこは素直に良かったと思うべきだろう。

 

【それでもその子を連れて来たのはラッヘ、お前だ。そうでなくばこの町はオレによって滅ぼされていたかもしれない】

「自分で滅ぼしていたとか言うなよ、冒険者達が目を丸くしている」

【確かに。すまなかった】

「い、いや、別にいいけどよ……ドラゴンってのは随分腰が低いんだな」

【迷惑をかけたら謝るのが筋だろう】

「うん、まあ……そうだけど……」


 なにを言っているのだ? とキョトンとするフレイムドラゴンに困惑する冒険者達。そこでギルドマスターが口を開いた。


「それで、この後はどうするんだ? 赤ちゃんドラゴンについては王都からお触れが回って来ていたから問題ない。だが、ドラゴンを連れて回るのは流石にまずいと思う。ひとまず話を聞いて謝罪はあったからこの町でフレイムドラゴンになにかしてもらおうということはないが……」

【すまない。オレの爪は売ったら高いはずだから使ってくれ】

「血が出てる!? 止めなさいよ!」


 フレイムドラゴンが不意に自分の手の爪をぶちっと外してギルドマスターの前に置いた。血がボトボトと流れ始め、さらにもう一本行こうとしたところをセリカに止められる。


「そうなんだよなあ。とりあえず王都に戻るかとも考えているんだけど、こいつはどうしようかと」

「フレイムドラゴンさんはもう暴走しないんですかね?」


 レスバが俺の言葉に返してくる。恐らく誰もが気になっていることだろう。それにはフレイムドラゴンが鼻息を鳴らして言う。


【オレにも分からないからな……大丈夫とはいいがたい。山にでも引きこもっておくのがいいと思うんだがどうだ?】

「この町の近くに町はない。申し訳ないがラッヘ殿が居なくなるのであれば引き取りはできないな」

「それはそうですよねえ。いつ暴走するかもわからないし……」


 セリカがフレイムドラゴンの足をさすりながら困ったように言う。このままであれば山に引きこもってもらうのが一番いいんだけど……


「やっぱ俺が引き取るか」

「つ、連れて行くんですか……!?」


 結局、そこしか結論はでないかと頭を掻きながら口にするとレスバが連れて行くのかと口を開く。


「仕方ないだろう、いざとなったらすぐ止められて、倒せるのは俺くらいだからな」

【いいのか? 自分で言うのもなんだが、身体はでかいしいつ暴れるかわからんぞ?】

「そこはフォルスが止められることを期待するしかない。ダメな時は覚悟してくれよ?」

【うむ】

「あっさりしすぎだろうドラゴン……」


 周りの人は呆れているようだった。

 とりあえず人的被害が無くて良かったということで、町の人とは和解することができた。

 恨み節を言う者もいたけど修繕費は城から出るのと、フレイムドラゴンが自らの爪を千切って一本を差し出したことで『誠意はもらった』と許してくれたのは大きい。


 というわけで町のことが解決した今、宿も取れない現状、復興は手伝わずにトンボ返りをすることにした。


「それで、どうするの?」

「このまま一度アイラのところへ戻ろう。山ならまだこいつを置いといてもなんとかなるだろう」

【オレの体を拘束しておくのはどうだ?】

「そういうのはやらない。あくまでもお前とは友人っぽい関係でいたいからな。というかいくらなんでも性格が良すぎるだろ……」


 フレイムドラゴンが寝そべって首を俺達に合わせながらそんなことを言う。なんというか暴走している時と真逆な性格なので呆れてしまう。


【こんなものだがな? まあ、ドラゴンの中には本気で凶悪な個体も居る。だから討伐対象にされやすい。だからなるべく敵意が無いことを知らしめたいのだ】

「あー、人間から見ればドラゴンなんてみんな同じですもんねえ」

「意味は分かるが、俺達にはあんまり下手に出なくてもいいからな?」

【承知した。ふふ、人間の友人か。長いこと生きてきたがこれは初めてだ、よろしく頼む】

「ぴゅー♪」

【おお、女王の子も喜んでくれるか】

「女王の赤ちゃん……気になりますねえ」


 同族には臆さないのかセリカのポケットに収まっているフォルスが片手を上げながら嬉しそうに鳴いた。

 女王の話は聞きたいところだ。移動しながら聞いてみるか。

 しかしその前に気になることがある。


「……レスバ。お金はもう払ったろ? なんでここに居るんだ?」

「酷くないですかね!?」

「いや、そういう契約だし……お疲れ様?」


 セリカにそう言われて三度、口で『がーん』というレスバであった。まあ、もう一緒にいる理由はないしなあ。

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