その66 常識のある者

【ゴァァァ!】

「なんの……!!」

「ぴぃー!!」


 口から炎を吐こうとした瞬間、俺は大剣を叩きつけて強制的に口を閉じさせた。

 瞬間、ボフンという音がしてフレイムドラゴンの頭がぶるんと震えた。


【ガ……】

「ぴぃー♪」


 赤い目がぐるんと反転し白目を剥き、半開きの口と鼻から煙が立ち上っていた。

 その様子が面白かったのかフォルスが手を叩いて鳴いていた。

 倒れる巨体から飛び降りると、俺は地上でドラゴンの顔の前に移動する。


「おい、しっかりしろ! 正気に戻れ!」

「ぴぃー! ぴぃー!」


 剣のへりでバシバシ顔を叩き、フォルスも大きな声で呼びかけをする。死んではいないので慎重に様子を伺っていると――


【ウ……】

「お」

「ぴゅ」


 うめき声と共に白目が戻って来た。

 目の色は真っ赤からわずかに白っぽくなっており、ピンクがかっていた。


「喋れるか? 意識はあるか?」

【ニ、ニンゲン……? オレは……】

「……! 成功か!」

「ぴゅーい♪」

【ナンダ……どうイウんだ……? そのチビはドラゴン……?】


 意識を飛ばしてから語り掛けると、フレイムドラゴンはハッキリと言葉をしゃべっていた。翼だけ潰したため命に別状はないはず……


「お前は人間の町を攻撃していたんだよ。覚えているか?」

【攻撃……そうだったような気もする……ウグ……】

「しっかりしろ」

「ぴゅーい」

【だ、大丈夫だ……しかし、長くはもたんかもしれん……】

「死ぬような傷じゃないだろう!」


 成功した! 

 なんとなくダメージを与えて意識を切り離したら上手くいくんじゃないかと思ったがひとまず口が利ける状態になった。

 だが、でかい図体のくせに弱気なことを言いだした。


【シ、死ぬのではない……あ、頭の中で叫ぶのだ……あバれロ……と。このままではお前とチビに再び襲い掛かる、だろう……その前に、コロセ……】

「……っ!」

「ぴぃー……」


 まただ。

 母ドラゴンもアースドラゴンもそうだったが、こいつも自分を『殺せ』という。

 それを聞いて俺は酷く悲しい気分になる。

 もしかしたら俺達が思っているような存在ではなく、とても利己的で優しい者なのかもしれない。


「……ダメだ! ドラゴンお前達は病気らしいな? それが治療されれば人間を攻撃することはないのだろう?」

【ウ……ぐ……そ、そうだ……我々は、無為に攻撃することは……ナイ……し、しかし、これは発症すると……】

「チッ……!?」

 

 その瞬間、ピンクがかっていた瞳がまた赤く染まりつつある。理性でどうにかなるレベルものでは無いらしい。


「おい、しっかりしろって! ドラゴンだろお前!!」

【あ、痛い!? 少し持ち直したが、こう殴られてはたまらんナ……】


 鼻先をガツンと叩いたら少し持ち直したらしい。今のうちに会話を続けよう。


「なんか知っていることはないのか?」

【ムウ……この病が流行り出したのは五十年ほど前……】

「長いよ!?」

【そ、そうか……治療薬は今のところ……ない……かかった者は例外なく……攻撃的になり、死ぬ時以外は正気を取り戻したことはない、のだ……】


 やっぱりそうなのか……いや、待てよ、ということは――


「お前達、もしかして仲間を?」

【……そうだ。人はおろかこの世界を滅ぼさん勢いで攻撃をする……オレも、仲間をこの手に……次はオレの番だというだけだ、だからコロセ……】

「馬鹿!」

【ふお!?】

「ぴゅ!?」


 弱気になっているドラゴンの鼻の頭を殴りつけるとフォルスがびっくりしていた。

 

「ぴゅーい……」

【おお……心配してくれるのか……女王の子よ……】


 フォルスが恐る恐る鼻の頭をさすると、目を細めて嬉しそうに言う。そこで気になったワードが出たので聞いてみる。


「女王?」

【なぜお前がこの子を連れているのか……わからんが……オレにはわかる……し、しかし、ドラゴン同士が近いと発症するような気もする……離れておいたほうが……いいぞ……】

「むう……」

「ぴゅー……」


 そこで鼻の頭に乗ったフォルスが、痛そうな部分を舐め始めた。

 すると――


【む……!? これは、どうしたことだ。頭の中にあったモヤがわずかに晴れていく……?】

「お……!?」

「ぴゅー♪」


 目の色がかなり白に近くなり、首を持ち上げて目をぱちくりするフレイムドラゴン。


【さすがは女王の子というところか。助かった。しかし、これもいつまで持つかわからんが……】

「いや、少しでも話ができれば十分だろう」

【そうだな。よし、まずは人間の町に謝罪をせねば】

「律儀だな……」


 ……女王竜? そういえばアースドラゴンがクイーンドラゴンとか言っていたような気がするな……?


「おっと」

【行こう】

「ぴゅー!」


 俺達を手に乗せてずしんずしんとフレイムドラゴンが町へと向かっていく。こうやって手に乗っていると改めてドラゴンが強大な存在だと思う。

 ただ、俺は物心ついた時からドラゴンは恐ろしいモノだと聞かされ、実際に被害にあった。

 しかし、こうやって話せるようになると利己的な生き物なのだと分からされる。


【すまぬ、町は無事だろうか?】

「「「うおおおお!? ドラゴン……!?」」」

「待ってくれ! このドラゴンはもう暴れない!」

「なんだって……?」

「ラッヘさん! ドラゴンをなんとかできたの?」

「ラッヘ……滅竜士ドラゴンバスターの……!? な、なんでドラゴンに乗ってるんだ?」

「ギルドマスターか町長さんはいないか? 話がしたい」


 セリカがいいフォローをしてくれたな。町の人間が困惑する中、俺は町の重要人物に話がしたいと申し出た。

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