その65 空から来るもの

「きゃああ!?」

「ド、ドラゴンか……!」


「けが人は!」

「今のところ確認されていない!」


「防御魔法を張れる冒険者は頼む!」

「「「おおおおお!」」」


 町に到着した時点ですでに混乱の渦に巻き込まれていた。空からの攻撃で町がダメージを受けているのがはっきりわかる。

 火球と急降下による足の爪で家屋を破壊しているようだ。冒険者による防御魔法は有効だが、一撃が重い。

 王都の宮廷魔法使いほどもつかはわからない。個人の力量次第だからな。


「ぴゅーい!!」

「フレイムドラゴンか、厄介だな」


 攻撃をしては旋回をする。

 そのドラゴンに視線を合わせると、紅蓮色の鱗だと分かり

「高いわね……あれってなんとかできるの?」

「やりようはある。すまない、町の中へ入れてくれるか? 俺は滅竜士ドラゴンバスターのラッヘという」

「は? ええ!? ……ホントだ!? 不幸中の幸いってやつか! た、頼む!」


 門兵が俺のギルドカードを斜め読みして招き入れてくれた。それどころじゃないというのもあるのにきちんと仕事をしたものだと感心する。


「俺はこのままフレイムドラゴンと対峙する。お前達は救助に向かってくれ」

「私も――」

「ダメだ。フォルスと一緒に町の人を助けるんだ。あの時みたいに」

「あ……うん!」


 その昔、セリカの町が壊滅した際も俺は瓦礫の下から町の人を助けるといったことをやっていた。その時のことを話すと、重要なのは戦うことだけじゃないと思ってくれたようだ。


「バーバリアンはここで待機。危なかったら逃げるんですよ!」

「ぶひん!」

「レスバ、先に行くわよ!」

「わたしはそこまでする義理はないんですけどねえ」


 その後を悪態をつきながらレスバが駆けて行く。ここで恩を売っておけば商売もしやすいだろうと先に言っていた甲斐があったな。


「フォルス、落ちるなよ」

「ぴゅ!」


 で、俺がフォルスに声をかけると元気よく片手を上げて、鎧の隙間にあるポケットに収まった。セリカに預けた方が安全だが、『話すことができるかもしれない』と考えればドラゴンに相対させたい。


「さて……」


 残る俺はジョー達を荷台から外して武器を担ぐとドラゴンへと向かう。町で戦うのは被害が大きくなるので外へ誘導すべきか。


「……よし」


 近くに梯子があったのでそれを使い、近くにある家に立て掛けた。

 そのまま屋根の上に立ち、空を見上げた俺は魔法を放つ。


「ピアッシングウォーター!」

【ゴァァァァ!!】


 魔法の気配に気づいたのか俺のピンポイントで相手を穿つ魔法は、狙った翼をわずかに逸らされて外した。

 だが、こちらを視認してくれたので効果としては十分だ。

 攻撃をされたことにより目標を俺に定めてくれた。フレイムドラゴンは爪を立てて急降下してくる。


【グギャァァァァォォ!】

「ぴ、ぴぃ!?」

「大丈夫だ! それ!」


 突撃してきたフレイムドラゴンの迫力にびっくりしたフォルスが頭を引っ込めた。

 そんな中、俺は爪を寸前で回避して、再び上昇しようとしたフレイムドラゴンの足に飛びつく。


「よし」

【グゴォォォオ……!】


 足にくっついたことに気付いたフレイムドラゴンが足をゆすり振り落とそうとする。ドラゴンの足は太いため掴まるところもあって簡単には落ちないのだ。


【ゴァァァァ!】


 苛立ったフレイムドラゴンが俺を直接噛みつこうと首を曲げた。視線が合う。

 赤い瞳は例の竜鬱症のせいか? そんなことを思いながら眼下を一瞬だけ見た後、俺は魔法を使う。


「フォルスそのまま隠れとけよ! ライティング!」

「ぴゅいっ!」

【ギャァァァァ!?】


 頭が接近したのを見計らい、俺は灯りをつける魔法を放った。

 光量はなるべく大きくする。

 俺は目を瞑っていたが、フレイムドラゴンの絶叫ですぐに目を開ける、するとその直後に浮遊感に襲われた。


「落下し始めたか、狙い通りだ」

「ぴゅいぴゅい!?」

「下はちょうど町の外だ、このまま背中に行く」


 町の中に落とす訳にもいかないため、俺はタイミングを見計らってライティングを決めた。ドラゴンをクッションにすれば衝撃もある程度緩和できる。


「ポケットの中で服に掴まっていろ……!」

「ぴゅ……!」


 鎧の防御性能を高めるため全身に魔力を込める。町の周辺は切り開かれているため、運悪く人が通りかからない限り犠牲はない。

 すぐに強い衝撃が丸めた体に伝わってくる。懐でフォルスがぴゅいぴゅいしているが少し我慢してくれ。


【ぐ……ガァァァ……!】

「この巨体はすぐに起き上がれないだろう。悪いがこの翼は使えなくさせてもらう!」

【ギェァァァァァァ!?】


 また飛ばれては面倒なので片方の翼の布のようにひらひらした部分を切断する。普段なら頭部を狙うのだが、今回はそうもいかない。


ダウンしているフレイムドラゴンから飛び降りるとすぐに頭へ回り込んだ。

目がまだよく見えていないようで立ち上がるには時間がかかりそうだ。


「ぴゅーい! ぴゅい!」

【グガアァァァァ……!】


 フォルスがなにかを呼び掛けるように大声をあげる。だが、フレイムドラゴンはジタバタと暴れるばかりで聞いていないようだ。


「ぴゅー!!」

【ゴァ……!】

「む、まずいか……!」


 フォルスの声で俺達の位置を掴んだらしいフレイムドラゴンが口を開けた。

 火球のような口からの攻撃はドラゴンならだいたい持っている。

 フォルスの母親も使っていた。

 だが、フレイムドラゴンがそう呼ばれる所以は他にあり、こいつの吐く炎は弾ではなくブレスにもなる。

 ずっと焼かれ続けるような炎を浴びたらタダではすまない。

 口の奥に見えるチロチロとした火を見た俺は瞬時に飛び上がり、大剣を上あごに叩きつける!

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