その64 遭遇
「よし、それじゃ案内を頼む」
「あいあい、行きましょうかね!」
「二人とも気を付けてね」
「うん! 他の装備作成もよろしくねアイラさん!」
早朝、陽が昇り始めたころに俺達は準備を終えて後は移動するだけとなった。
セリカは作ってもらったアクアドラゴンメイルを身に着けている。
鮮やかな蒼い色をした鎧は女性らしく丸みを帯びており、肩部分や胸のラインは攻撃を受けて流すといったようなことができる印象がある。
脇の下は腕を回すため空いているものの、装備した後、胴回りや腰などは金具で追加の部分を止めることにより急所は守られている。
フォルスの入るポケットまであって、ちょっとうらやましい。
「ではしゅっぱーつ!」
「それじゃまたね!」
「ぴゅーい♪」
レスバの馬車がゆっくりと進み始め、続いて俺達も移動を開始する。セリカとフォルスが振り返ってアイラに手を振っていた。
やがて姿が見えなくなったようでセリカがフォルスをクッションの上に載せながら言う。
「ふう、なんだかおねえちゃんができたみたいで嬉しいかも?」
「年齢的にそうかもしれないな。フォルスもアイラを気に入ったみたいだしよかった」
「ぴゅー」
そうだと言わんばかりに、フォルスがぺちぺちと俺の太ももを叩く。その様子を見ながらセリカが続けた。
「というかこの鎧、着るとびっくりするくらい軽いわ。でも強度はかなり高い。武器はともかく、鎧は普通の魔物や人間相手で使う分には十分かも」
「魔力で軽くなるアイラ独特の技術が使われているからな。だから彼女と、もう亡くなった親父さん以外にはできないんだ」
「ふうん、ならやっぱり跡継ぎは欲しいわね……」
自分の鎧を撫でながらなんとなく後ろを振り返るセリカ。探せば出来る人間はいるだろうけど、ここまで旅をしてきた中、若くしてこの域に達した職人を俺は知らない。
「他の装備も楽しみになったわ♪」
「でも気をつけろよ。俺達の魔力を使って防御力を高めるから、魔法はあまり使えなくなる。魔物と人間相手なら鎧本来の強度で十分だけど、ドラゴン相手は魔力を削られるからな」
「オッケー。そう考えるとますます便利ねえ」
セリカが一瞬だけ後ろを振り返ってにこやかに笑う。無くてもドラゴンに勝てないというわけではないがあった方がもちろんいい、というところだ。
「……で、話は変わるけど、レスバは信用できる?」
「どうかな。現状だと面倒くさい性格をしていることくらいしか分かってない。もしこの情報が嘘で、なにか企んでいるなら拳骨だな」
「ま、確かにね。情報量に加えて、ドラゴンを倒したら素材を格安で売って欲しいと言っていたから打算しかなさそうかな?」
昨晩、レスバからそういう提案があった。モノによるが相場よりは安くてもいいと答えている。フォルスの母親を倒した時にも村に素材を置いていったりしたが、情報量みたいなものだ。ドラゴンの目撃はあっても、俺のところまで話がくることがなかなかないためだ。
聞いて駆けつけても間に合わなかった、なんてこともある。
逆に嘘をついた場合、ドラゴンの痕跡がまるで見つからないためすぐ見抜ける。レスバはそこを把握したうえで提案してきたので、商人としての信用はできそうだと判断した。
「問題はどんなドラゴンがいるか、だな。毒をもつ個体も多い。それと語り掛けることができるかとか色々課題は多い」
「折角だし、なにかわかるといいけど――」
「だな」
――そして七日後、俺達は北西にあるランドル領へと到着する。
「雲行きが怪しいわ、町までどれくらいなの?」
「あと少しです。降る前には着きたいですねえ。バーバリアン、草を食べている場合じゃありませんよ」
「ぶひーん」
領地内に足を踏み入れてからしばらく進むと、セリカの言う通り雲行きが怪しくなってきた。風はやや強く、雲は灰色を通り越して真っ暗である。
まだ昼過ぎだというのに日没近くのような空模様だ。
いくつか町を経由しているが七日は移動しっぱしなので馬達も疲労が激しい。呑気な顔をしたバーバリアンが鼻を垂らしながら草を食んでいた。滋養強壮の草だな。
「食わせてやれ。ジョーとリリアも食っているぞ」
「おお。でも雨が降る前に町に行った方がゆっくりできますよ」
「まあ――」
と、俺が答えようとしたところで空になにか巨大なものが動いた気がした。
すぐに顔を上に向けると、雲の中にうっすらと翼を広げて飛行するモノが存在していた。
「あれって……!?」
「ドラゴンだ……! 追うぞ!」
「あ、ま、待ってくださいよ!」
馬達には悪いが先を急ぐため休憩を中断してもらい、空の影を追うことにした。
どうやら飛行竜のようだが、もし本当にそうなら倒すのに苦労をする。セリカが参加して二回目でアレとはついていないな。
「ワイバーンですかね?」
「いや、それにしちゃ羽が大きい」
「ならドラゴンか……」
「ぴゅい」
セリカがフォルスを抱きしめながら空を仰ぐ。緊張した面持ちだが、俺は二人に告げる。
「ワイバーンなら矢か魔法で対処できるが、飛行竜の場合は両方とも効果が薄い。場合によっては離れていてもらうぞ」
「えっと、空を飛んでいますけど……倒せるんですか?」
「まあな。っと、町が見えてきたな――」
「え、ちょ――」
そう思った瞬間、空から火球が降って来た。そして数秒も経たないうちに、町から爆発音と煙が上がった。
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