その71 狙われた赤ちゃん

「ご協力感謝します。あいつらはゴリアート盗賊団の一味でした」

「なんだって?」

「悪名高い奴等じゃない」


 というわけでアイラが町まで行った後、ギルドと警護団の人間と一緒に工房まで帰って来た。そこで十人ほどの盗賊達を引き渡した。

 で、さらに翌日。

 褒賞金をもってきてくれた男が正体について話してくれた。


 ゴリアート盗賊団とは、このフォルゲイト国を荒らすタチの悪い連中だ。

 首魁のゴリアートという男は頭が回るらしく、幾度となく部下を囮にして逃走している。

 違法な奴隷取引に強盗、窃盗、女性を襲うしいざとなれば殺しもやる。かなり迷惑な存在だと陛下が言っていた。


「アイラ様の腕前と美貌に惚れ込んで、ってところでしょうかね? ゴリアートは捕まっていないし、逆恨みしてくるかもしれません。お気をつけて」

「ありがとう」

「ったく、いい迷惑よね。でも、私の装備を作ったら王都に移住するし安心かも」

「だな。もう二、三日かかるようだから訓練でもするか」

「ぴゅー♪」

【フォルスも鍛えるのか? 手伝うぞ】


 まだ狙ってくる可能性もあるため油断はできない。今度はもっと手練れを引き連れてくるかもしれないしな。

 俺は周囲を警戒しながらフォルスやセリカと生活するのだった。


◆ ◇ ◆


「……失敗したってのか」

「え、ええ……まさか鍛冶師のアイラが強いとは……それに、助っ人もとんでもなく強かったようで、三分ももちませんでした……」

「十二人が全滅……三分ももたずにか。アイラ一人ならなんとかなると思ったが、運が悪かったな」


 ラッヘ達のいる小屋から1ラメルキロほどの場所にある大きな木の上で二人の男が会話をしていた。


「どうしますかゴリアートの兄貴」

「遠眼鏡を貸せ」


 顔を隠しているゴリアートと呼ばれた盗賊のトップは遠眼鏡を受け取り小屋を確認する。片目のみだがいわゆる望遠鏡である。


「……あの二人か」

「何者か知りませんが両方とも強いです。俺が離れたところで監視していなかったら多分見つかっていましたぜ。炙り出されていましたし」

「厄介だな。マジモンの冒険者を相手にするとこっちがやられかねん。今回は諦めるか」

「それがいいかもしれねえですね」


 小柄な部下が肩を竦めてそう告げた。ゴリアートも十二人をあっさり倒した三人相手では分が悪いかと思ったところで、ふと気になるものを見つけた。


「……あれはなんだ? トカゲか?」

「ああ、そういえばなんかいましたねえ。羽があるトカゲと毛があるトカゲ」

「馬鹿野郎、トカゲに羽はないぞ。もしかして……ドラゴンか?」

「ドラゴン……!? あの各地で暴れまわっている奴等ですかい!? でも小さいですぜ?」

「なんでかは分からんがあれはそうだと思う。……くく、いいじゃないか」


 ゴリアートはフォルスとフラメに視線を合わせて舌なめずりをする。

 そして遠眼鏡を返しながら部下に言う。


「よし、次の獲物はあのドラゴンだ。一匹でもいい、あれを手に入れれば相当な金になるぞ」

「ええ!? さっきあいつらにやられたから諦めるって……」

「正面から行かなければ問題ないだろう? なあに、手はあるさ」


 ゴリアートはそう言って見えている目を細めていた――


◆ ◇ ◆


「ぴゅいー!」

【はっはっは、『口から炎』はまだお前には早いな。そら】

「ぴぃ!」

「ぶるる」

 

 さて、早いものでアイラの家へ戻ってから二日ほど経った。特に盗賊の報復などは無く平和である。

 フラメはフォルス、ジョー、リリアと仲良くなりつつあり、フォルスはあいつらと遊ぶことも多い。

 今もフラメの技を見せられて『ずるい』とフォルスが足をぺちぺちと叩いていた。


「あれって『口から炎』って名前なんだ」

「賢いのに名前とかはつけないのか……」

【ん? 自分で使っているのだからなにかわかればいいのではないか?】

「まあ、確かに。俺達人間は技を『伝える』からどういうものか名前があるとわかりやすくていいんだよな」

【なるほど、興味深い】

「ぴゅひゅー!」


 足元でフォルスが口を大きく開けてかすれた息を吐いている。それを見てフラメがうんうんと頷いていた。


「ふう……」

「あ、アイラさんお疲れさま!」

「お疲れさまセリカ。そろそろ休憩を兼ねてお昼にしようと思う」

「オッケー♪ もうシチューはできているわ。後はパンを温めればいいかな?」

「そいつは俺がやろう。フォルスはお腹を壊さないといいが……」


 アイラが町で買ってきたヤギミルクのシチューなので少し心配だ。冷たくても温めてもお腹を壊す。まあ外なので別にいいんだけど、食事中に催されるとさすがに申し訳ない。


「ぴゅーい! ぴゅーい!」

「ヤギミルクに喜んでいるわねえ」

【美味いのか?】

「わからん。俺達はそのまま飲むことに微妙さを感じる」

「フラメも人間の食事に慣れてきたころかしら?」

【そうだな。アースドラゴンの肉はなかなか美味かった。同胞が死んだのは残念だが、こうやってフォルスやオレの糧になったのなら本望だろう。オレが死んだら頼むぞ?】


 なにをだとは返さず、セリカが困った顔でフラメの背中を撫でていた。できることなら殺したくはないからな。


「それで、装備のほうはどうだ?」

「明日には完成するよ。後は武器だけなの。セリカに協力してもらう形になるわ」

「もちろんいいわよ!」


 装備はすぐにできそうでなによりだ。

 だけど、その後は引っ越しの作業があるため馬車をもう一台用意しないといけない。


 そして引っ越し当日――


「お待たせしました。馬と荷台を納入しにきましたよ」


 ――頼んでいたものが届いた。

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