その38 解明されない生態
――アースドラゴン討伐を終えた俺達は、ひとまずその場で待機をしていた。
ドラゴンは敵……だが、最後に話をしたこいつをこのまま騎士達だけに解体させるのはしのびないと思ったからだ。
遺言というわけではないけど、俺達にドラゴンの肉を食えと頼まれたのもある。
そこで騎士団長のラクペインがフラフラしながらこちらへやってきた。
「ラッヘさん、お疲れ様です。ありがとうございました」
「いや、騎士団の力あってこそだよ。こっちこそ助かった。えっと、ドラッドと……」
「ランス騎士団のクーゲルと申します。見事な一撃、感服しました」
斧と槍を主に使う騎士団長二人も追いついてきて握手をした。他の騎士達もこぞって城に戻っていくのが見えるな。
「損害は?」
「……馬十頭が死傷、騎士は残念だが三人が死んだ」
「ああ……」
フォルスを抱っこしたセリカが顔を曇らせてポツリと呟いた。
「ドラゴン相手にこれで済めばかなり被害は少ない方ですよ。前の時は空からの攻撃だったので外壁は壊され、町に相当な被害が出た」
「死者も両手じゃ足りないくらいだったな……」
ラクペインとドラッドが首を振りながらそんなことを口にし、セリカが青い顔をしてアースドラゴンを見上げていた。
「とりあえずこいつの素材は俺も少し貰いたい。話し合いの場を設けて欲しい」
「もちろんです。陛下に話をしにいきます。……最後にドラゴンが話していたようですが……」
「それについても話すよ。なんだかんだでこいつの同胞だ。準備が出来たら呼んでくれるか?」
「よし、皆の者撤収だ! 陛下に報告を!」
俺がフォルスを指してそう言うとラクペイン達が『分かりました』と頭を下げてこの場を去っていった。
王都に近い平原の近くで俺達はアースドラゴンと共に解体職人が来るのを待つことにする。
「出発前にとんでもないことになったわね。それにしても一体どこからやってきたのかしら?」
「空を飛ぶドラゴンとは違って、地上を這うタイプだったからな。戦闘中はやらなかったが、前に戦ったアースドラゴンは地面を潜って移動していたからな」
「わ、そんなことするんだ」
「そもそも気配を消すこともできる。だからあの巨体でも探しにくいんだよ」
「ええー……」
セリカがアースドラゴンの鼻先を叩きながら困惑の声を上げた。
十年で俺がそれほど倒せていないのはそのせいである。
母ドラゴンやこいつみたいにたまたま発見したというパターンが殆どなのだ。
概ね山に居ることが多いため、探す時は山を中心に探索をする。
「ああ、一回だけダンジョンに居たやつもあったな」
「でかいのに……」
「ダンジョン自体がかなり広かったからな。どうもどこかの穴から自分の巣に戻っている飛竜だった」
「へえ、ちょっと怖いけどドラゴンって面白いわね。フォルスはどんなドラゴンになるのかしら」
「ぴゅーい?」
顔の前にフォルスを持って来たセリカが鼻の頭を舐められていた。とても強くなりそうな感じはしない。
「っと……」
「あれ? どうしたのラッヘさん……って左腕が変な方向向いてない!?」
「ああ、多分折れたな。ま、よくあることだ」
「いやいやいや!? 早く治療しないと!?」
「添え木だけでも……」
そう言うとセリカが物凄い顔で俺を座らせてポーションを使ってくれたり添え木をくれた。この怒り顔は初めて見るなあ。
「もう、無茶しないでね」
「ドラゴン討伐は無茶の連続だ。下がっていてもいいぞ」
「いや、むしろ早く戦えるようにならないとって思っちゃったんだけど」
「ぴゅーい」
二人で戦えばケガは少ないだろうとセリカは言う。その内だな。
「さて、こいつの言葉をちょっと聞いてやるか」
「なに?」
「アースドラゴンのステーキを食おう」
「今から!?」
驚くセリカをよそに俺は剣を持ってドラゴンの皮を剥いでいく。腰から背中にかけての肉が美味しいかもとサクサク切っていく。牛はそうなんだよな。
「すまんな」
「すご……食べたことあるの?」
「あるぞ。俺が倒した分はな。ただ、腐るのが早い。それと魔力を帯びているからか、食べると中毒症状にもなることが分かっているため、子供には食わせられない」
「私達は大丈夫かしら?」
「鍛えている者なら問題ないはずだ」
セリカに頼んで荷台から調理器具を出してもらい、火を熾してからフライパンを温めた。
「お前も食うんだぞ」
「ぴ!」
大きく頷くフォルスを撫でて待っていると、背後から誰かの声が聞こえてきた。
「こ、こいつを倒したのか……凄いな……」
「あれ?」
「エリード王子。どうしたのですか?」
「ぴゅい……!」
その人物はエリード王子だった。
フォルスはすぐに俺の膝の上に乗って懐に隠れていた。うんうん、賢いぞ。
そんなことを考えているとエリード王子が俺の前で頭を下げた。
「ありがとうございましたっ! ラクペインが生き残ったのはラッヘさんが食い止めてくれたからと聞いています! 謁見の間では失礼しました!」
「ああ、別に気にしなくていいんですがね」
どうもエリード王子は門の前でラクペインが戻ってくるのを待っていたらしい。そこで俺の話を聞いたそうだ。
「ラクペインは僕の兄みたいな存在なんだ……死なれたらと思うと怖かった……。僕が狩りに出たせいだったし……」
「魔物は急に襲い掛かって来ますから仕方ないですよ」
「セリカさんだったかな? そう言ってもらえると……」
困った顔で笑うエリード王子は生意気な態度が無くなっていた。よほどのことだったのだろう。間に合って良かった。そう思う。
「それにしてもこれがドラゴン……そのチビもいつかこうなるんですよね」
「多分。まあ暴れさせるようなことはしませんけどね」
「うん。僕はドラゴンを調べるならいいかと思ってそいつを回収しようとしたけど……多分幼体じゃ意味がない。それと、親代わりの二人と離れたらそれこそ暴走するんじゃないかって思いました」
「あー、それはあるかもしれないわね」
「だから、研究とは関係なくここで暮してもらえたらいいかなとも」
「ふむ」
強硬手段にはでないけど、ここには居て欲しいということか。するとそこでさらに驚くべきことがおこった。
「やれやれ、エリードに全部言われてしまったな」
「そうですわね」
謁見をする予定だった陛下と王妃様もここに現れたのだ……!?
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