その36 死闘

「うおおりゃぁぁ!」

【ゴガァァァ!】


 お互いの動きに慣れてきたのか、アースドラゴンは巨体を活かして押しつぶしてこようとする動きが増えた。

 もちろん剣があるので岩つぶてを放ってからだ。四足歩行で大きさもでかいため避けるのは一苦労。

 なのであえて前進して顔を叩き斬るつもりで攻めていた。


【ゴァ!】

「ぐぬ……!」


 ドラゴンの右腕から繰り出された攻撃を受けて足元の地面が沈む。重い一撃だが、力任せに剣を振り払い爪を切り裂く。


「すぐに再生はできまい!」

【ガァァァァ!】


 前に戦ったヤツと比べてしぶといな。人間と同じで個体差があるという感じだな。

 俺はかなり傷を負わせたアースドラゴンを見てそんなことを考える。ダメージの蓄積は同じくらいだろう。もっとも、この鎧が無ければとっくに死んでいるものだが。


【グルォォゥ……】

「ふう……やるな。だが、もうすぐ倒してやる」


 赤く淀んだ瞳を見ながらそう呟くとガクガクと顎を動かし、口から泡を吹く。

 こうやって竜鬱症のことを聞いてからみてみると、明らかに生物としておかしいと感じる。

 斬られれば血が出る、痛がる、逃げようとする。そういった行動が見受けられるのが魔物という生き物で動物とそれほど変わらないものだ。

 しかしドラゴンはおかまいなしに暴れて自らが傷ついても、見つけた相手を食い殺すか自分が死ぬまで戦いをやめることは、ない。

 復讐のため怒りのあまり狩っていたけど、冷静に『なにかがおかしい』と思えるようになった。


「お前も本当は喋るのか……?」

【ガ、ゴ……ゴガァァァァ!!】


 呼びかけには応えないか。魔法を使うくらいだから頭は働いてそうな気がするんだけどな。

 飛んでくる角と岩つぶての攻撃を避けながら冷静にそんなことを思っていた。

 そこへ王都からこちらへ向かってくる一団が見えた。


「俺の名はドラッド! 滅竜士ドラゴンバンスター殿、加勢にきました!」

「……! 騎士団か、助かる! とあぁぁ!」


 どうやら無事に戻った騎士がこっちへ戻って来てくれたようだ。ラクペインと入れ違いでやってきた彼等が俺に合わせて一斉に攻撃を仕掛けた。


「だあぁぁぁぁ!」

「硬い……!?」

「もっと力を入れて振り下ろせ!」

「なんであの人は斬り裂けているんだ……!?」

「気をつけろ、こいつの攻撃は体当たり以外に岩つぶての魔法と頭の角を飛ばしてくる」

「「「は、はい!!」」」


 馬上から騎士達が次々と斧を振り下ろして足や背中などに次々と攻撃をしていく。

 精鋭が五十人といった感じのメンツだが、数人は硬い鱗に阻まれて落馬しそうになったりしていた。

 武器は同じなのでここは技量の差が出たか。もちろん、しっかりダメージを取れている者も居た。


【ゴァァァァ!】

「うおお!? 暴れるな!」

「尻尾が来る!!」

「退避ー!」


 アースドラゴンが雄たけびを上げながらその場で回転し、群がっていた騎士達に反撃を試みた。

 さすがに一発では倒れなかったが、馬がやられた者が数名いた。


「くそ……!」

「ああ!?」

【ゴガァァァ……!】


 直後、倒れた馬をアースドラゴンが咥えて口に入れた。可哀想だが無防備な馬一頭はあまりにもぜい弱だ。


「こいつ……!!」

「攻撃だ!!」


 馬がやられた仇を取るべく騎士達の士気が一気に高まったようで、四方八方から襲い掛かる。これなら誰を狙っていいか分からなくため俺としては都合がいい。

 そしてさらに好都合なことが増えた。


「ラッヘ殿、戻りました!!」

「ラクペイン!」

「いけ!」


 さらにラクペインが騎士を連れて戻って来たのだ。大剣を持った騎士団が一斉にアースドラゴンの背中に斬撃を与えていく。

 こちらは一人斬ってはその場を離れ、入れ違いに別の騎士が攻撃をしていく。

 流れ作業のような攻撃がアースドラゴンへと向かっていった。


「つぉぉぉりゃああ!!」

【ゴガ……!!!】


 一人の攻撃では弾かれることもあるが同じ個所を何度も斬りつける形になるので、誰かが傷を負わせればそこに追撃ができるという算段だな。


「俺も負けてられない」


 アースドラゴンが顔を背けた瞬間、俺は下から顎に向かって切り上げた。しかしそれは回避された。


「チッ、自分にとって一番痛い攻撃はしっかり避けるとは……!!」

「大丈夫です! ランス騎士団も来ました! うお……!?」

【ゴァァァァァ!!!】


 後方からさらにランスを構えた騎馬が突撃をしてくるのが見え、ラクペインが告げてくれた。

 しかしその瞬間アースドラゴンの身体が震え出し、岩つぶてと角をでたらめに飛ばしてきたのだ。


「うわああ!?」

「嘘だろ……!」

「さっき言っていたのはこれか! 盾を持っている者は頭を守りながら離れるんだ!」


 数にモノを言わせる戦い方が騎士だが、広範囲の攻撃は相性が悪い。場を荒らされたような感じになり、アックスと大剣の騎士団が散っていく。

 

「ランス騎士団はこのまま突っ込め! 面を制圧しろ!」


 しかしそこでまだ怪我をしていないランスの騎士団が岩つぶてをかいくぐり、角を盾で守りながら突っ込んでいく。


「うあ!?」


 馬に当たって落馬する者もいるが、数十のランスがアースドラゴンの右側面を捉えた!


【ガァァァァ!?】


 瞬間、アースドラゴンの巨体がぐらついた。


「まだだ!!」


 そこへさらに後方のランスが突撃チャージを仕掛けた。

 すると、大きな巨体が横倒しになる。


「避けろ……!」

「ぎゃあああ!? 死ぬ!?」

【ゴァァァァ!?】

「やったか……! いまだ!」


 腹を見せた今がチャンスと俺は飛び掛かった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る