その35 やるべきことを
「なにごとか!」
「申し上げます! 森にドラゴンと思わしき巨大な魔物が出現! 現在、ラクペイン団長が止めております」
「なんと……!?」
一人の騎士がエントリアへ緊急の報告を行っていた。ドラゴンと聞いて驚愕する中、リンダが続けた。
「それで他の者は?」
「装備を整え、出撃準備をしております」
「そうですか。ラクペイン一人では心配です。急ぐよう通達を」
「ハッ!」
「王都に迫ってくるかもしれん。対魔法障壁の者も集めておくのだ」
気を取り直したエントリアが指示を出すと、騎士は敬礼をして場を去っていく。
玉座に座り直してから呻くように呟いた。
「むう……ラッヘ殿が旅立ってからとは運がない」
「仕方ありませんわ。わたくし達とて勝てないわけではありませんし、ここは気合を入れて対処しましょう」
「そうだな。……よし、私とリンダの装備を持ってきてくれ、外壁から状況を確認する!」
◆ ◇ ◆
国王エントリアが出陣を決める中、騎士団の敷地では大騒ぎになっていた。
「細い剣はダメだ! スピアじゃなくランスを持ってこい!」
「アックス隊、先に出るぞ!」
装備の有無を確認しつつ、出られるものから次々に出撃していく騎士達。
それを青い顔で見ながらエリードが拳を握って叫んでいた。
「み、みんな頼むよ! ラクペインが死んだら僕はアイーダに申し訳が立たない!」
「任せておいてください王子!」
「我等フォルゲイト騎士団はドラゴンと二度、戦っております。装備さえあれば遅れは取りません! ランス隊、出るぞ!」
ラクペインが大事なのは騎士全員であるため、エリードの言葉には全員が頷いていた。そこから次々と出て行く騎士達を見送る。
「僕も行くべきなのに……」
エリードは率先して装備を手にしていたが、他の騎士達に慌てて止められたためここで待つことになった。
しかし、狩りに誘った自分がここに居ていいのかと考えていたのだ。
「……門までは行こう。帰ってくるみんなを待たないと……!」
エリードはそう決心して皆が出払った後、装備を整えて町の門へと向かった――
◆ ◇ ◆
「ドラゴンとはまた大変なことになったな……」
「ラッヘさん、ちょっと前なら居たのに……」
フォルスと顔を合わせていた門兵の二人が、慌てて戻って来た騎士達の話を聞いてため息を吐いていた。
すぐに討伐隊が出るだろうと言われているため、なるべく町へ入ってくる人間はチェックを終えて中へ入れているところだ。
出撃する時は普段使わない緊急時の出入り口を使うためこっちは通常営業である。
「すまない、通してもらえるか?」
「あ! あなたはラクペイン様!」
「私だ! エリード様は戻られているか?」
「ええ、少し前に。今は騎士を集めていると思いますよ」
「そうか。ではここで待つとしよう」
「え?」
ラクペインは愛馬から降りて別の出入り口へ向かう。ここから出てくるであろう騎士を待つために。
そして――
「行くぞ!」
「すまない、待ってくれ!」
「うおっと!? ラ、ラクペインか!? 無事だったか!」
「ああ。引き止めてすまない、ドラッド。私の団員はもう出ているか?」
――最初に出てきた斧を主武器として持った騎士達にラクペインが話しかけていた。
ドラッドと呼ばれた騎士団長が慌てて止まると、すぐに返事をした。
「ああ、すぐ出てくると思う。ドラゴンらしいがそいつは?」
「今、ラッヘ殿が戦ってくれている」
「なんと……!? 出て行ったと聞いていたが……」
「近くに居たようだ。もしかしたら
「さすがだな……」
別にそういうことでもないが騎士達は感嘆の声を上げていた。それはともかくと、ラクペインは次にくる自分の団員に装備を借りるからここで待つとドラッドに告げる。
「ラッヘ殿を助けに行ってくれ。このまま森に行けば――」
「ん!? いや、待ってくださいあれを!」
その直後、遠くに見える森から巨大な何かが飛び出してくるのが見えた。
騎士達にどよめきが起こると、ラクペインが言う。
「あいつがドラゴンだ! 森から出てきたのか……! ラッヘ殿は!」
「あ、森の方を向いた?」
「ラッヘ殿だ……!」
王都まではまだ距離がある。ドラゴンは別の標的を見ているとラクペインが叫ぶ。
「ドラッド達はこのまま行ってくれ。私は装備と馬を借り受けてすぐ追いつく!」
「分かった! 無理をするなよ!」
アックス騎士団はラクペインにそう言ってから前進を再開。その後すぐにラクペインのブレイド騎士団がやってきた。
「団長! 無事だったのですね!」
「ラッヘ殿が来てくれてな。すまないが、お前の装備と馬を貸してくれ。すぐにラッヘ殿の救援に向かいたい」
「そ、それはいいですが……」
「頼む」
若い騎士に頼み込んでラクペインは再びドラゴンへと向かう。
「待っていてくれラッヘ殿……!」
◆ ◇ ◆
「ぴぃー……」
「大丈夫、ラッヘさんは強いんだから!」
泣いて後を追いかけようとするフォルスに気を取られて片づけが上手く進まなかった。なんとかぎゅっと抱きしめて懐に入れてあげるとようやく大人しくなり、今は王都に向けてダッシュをかけていた。
「ジョー、リリア、悪いけど急いでね……!」
私がそう言うと、二頭は心強く鳴いてくれた。もし本当にドラゴンだったら見ておきたいと思ったんだけど――
「ドラゴンって急に現れるから、難しい問題よね」
「ぴゅいー」
「はいはい、もう少し我慢してねフォルス。っと、帽子を被せとかないと」
「ぴゅい」
町に入るまではいかないと思うけど、万が一入る必要が出てきたら困るしね。
そんなことを考えていると森の出口が見えてきた。ここまでくれば一安心か。
「……! ぴ、ぴぃ!」
「え!?」
突然フォルスが私の胸元から上半身を出して大きな声で鳴いた。その瞬間、少し離れたところから大きな魔物が飛び出してきた。
「でっか!? あれってドラゴン!?」
「ぴぃー♪」
「あ、ラッヘさん……!」
続けてフォルスが喜んでいたので、目を向けるとラッヘさんも飛び出してきた。
いつもとは違う、真剣な表情で得物を振りかざしていた。
「って、早く王都に行かないと……おや?」
段々遠ざかっていくドラゴンとラッヘさん。代わりに王都から出てきた騎馬がこちらへ向かって来ていた。どうやら間に合ったみたいね。
「よし、後はラッヘさんが帰ってくるのを待つだけね!」
「ぴゅー!」
「ダメだって。いけないのよ」
「ぴゅ!」
なんだか怒っているみたいだけどこればかりは仕方がない。馬車を止められるところまで行ったら、甘やかしておこう。
だけど、事態はそう簡単にはいかなかった。
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