その34 地上を走破するドラゴン
【ゴガァァァァ!!!】
「いくぞ! そら……!」
標的を俺に変えたアースドラゴンが大きく顎を開けて突撃してきた。直線的な動きだが足が速い。
ただ、俺はこのタイプのドラゴンと一度戦ったことがある。
剣を横に構えてからすれ違うように走る。
【ゴァァァ……】
「ふん、避けるか。小回りが利かないだろうにやるな」
ズザザ……と巨体をスライドさせながら剣を回避し、こちらに顔を向けながら移動する。となると次に来るのは――
【ゴァァァァ!】
「そう来るだろうな!」
――予測通り、前に生えている角を二本飛ばして来た。こいつの武器は鋭い爪と牙、それに頭の角を飛ばすという技がある。
角は距離を取ると使ってくるのだが、厄介なことにすぐに次が生えてくるのだ。
【ゴルァァァァ!】
「だがその攻撃は見切っている」
連続で角を飛ばしてくるアースドラゴン。俺はそのまま剣を振りながら角を迎撃し、目の前まで迫る。
「くらえ!」
【ゴァ!? ……ゴァァァァ!】
瞬間、俺の剣がドラゴンの鼻の近くを斬り裂き、雄たけびを上げた。もう一撃と振りかぶるが、すぐに反撃に転じてきた。
「ぐっ……!」
右腕の重い一撃が俺の全身を打ち付けてくる。並みの鎧ならこれだけでひしゃげ、下手をすると骨折や命に関わるダメージを負う。
俺は防御の加護があるため、衝撃はあるもののダメージはかなり軽減されている。
「それでも痛みはあるんだよな……! たぁ!!」
【ゴァァァ……!】
俺は口から血を吐きながらアースドラゴンの右腕を剣で弾き、さらに一歩踏み込んで両手で縦に振り下ろす。対抗しようとしてきた爪が真っ二つに割れて地面に落ちた。
「どうした、動きが鈍いぞ! ……うおっと!?」
【ゴァ……】
そのまま右腕をいただこうと思ったがアースドラゴンの目が怪しく光り、魔力が高まるのを感じた。
何か来る。その勘は当たっていたようで、今しがたまで俺が立っていた場所に魔力で浮かせた石つぶてが降り注いだ。
「チッ」
俺が飛びのくと、それを狙っていたようにアースドラゴンがダッシュを仕掛けてきた。咄嗟にガードすると俺の身体は大きく吹き飛ばされる。
生身で馬車に跳ねられたらこんな感じかと思うような一撃だ。
「……!」
【ゴガァァァ!】
木に叩きつけられた俺にとどめを刺そうと尻尾を振ってくるアースドラゴン。すぐに木の陰に隠れてやり過ごし、草むらを移動して背後に回り込んだ。
「こっちだ!」
邪魔な尻尾を根元から落としてやるつもりで全力で斬りかかった。
【ゴガァァァ!!?】
「手ごたえあり……!! ……ぐはっ!?」
尻尾の中ほどを切断でき、夥しいほどの血が流れだした。いい一撃を与えられたと思ったが、暴れ回った尻尾に俺は弾き飛ばされた。
【ゴガっ!】
「なん、の!」
さすがのアースドラゴンも尻尾のダメージは無視できないようで動きが遅くなる。
とはいえ俺も幾度かの攻撃は受けているので体力の消耗は結構あった。
【ゴルァァァ!】
「はああああああ!」
素早く動けるアースドラゴンだが木々はやはり邪魔なようでなぎ倒しながら俺に迫る。
「賢い……!」
岩つぶてと体当たり、そして角という範囲攻撃で俺を攻撃してくる。適当に見えてしっかり狙いを定めてくるのがドラゴンの厄介なところだ。
「……竜鬱症……もしかすると――」
猛攻を一旦やり過ごすため大木の裏に隠れて様子を伺う。こんな木じゃ体当たりには心もとないなと思っていると、姿が消えた。
「なに……!?」
【ガァァァァ!】
あろうことか俺から顔を背けてラクペインが駆けて行った方に走り出した。どういうつもりだ!?
「まずい……!」
俺は慌ててアースドラゴンの後を追いかける。あの巨体でかなりの速さを誇るので、段々と引き離されていく。
「どこへ行く気だ……!」
しばらく追いかけっこが続き、やがて森を抜けて平原に飛び出した。王都は視認できるがまだ距離がある。
ラクペインやエリード王子の姿は見えないのでちゃんと戻れたらしい。
【ゴガァァァァァ……】
「む……!」
そんなことを考えているとアースドラゴンは滑りながら方向転換をして俺に向き直る。
「なるほど、広いところに出たかったということか」
【ゴァァァ!】
俺の言葉がわかったのか、そうだと言わんばかりに突っ込んで来た。もちろん魔法の石つぶてのおまけつきだ。
剣を盾の代わりにして、こちらも突っ込んでいく。直前で飛んで脳天に一撃を決めれば倒せる。
しかし広くなったから行動に制限がないためなにをしてくるか分からない。
【……!】
「だろうな……!」
アースドラゴンは不意に斜め移動をした。俺はヤツと同じ方向に移動して剣を横薙ぎに振る。
直後、体を丸めるのが見えた。剣がヒットすると硬い岩を叩いた時のような金属音が響く。防御に魔力を回して完全に防いだようだ。
「チッ、厄介なヤツめ! だが!」
【ゴガ!?】
俺は丸まったアースドラゴンに接近し、背中によじ登った。そのまま背中に渾身の力を込めて剣を突き刺す。
あと一息、剣を深く差して捩じればと、腕を捻ったところでアースドラゴンが大暴れした。
「浅いか……!」
背中から転がり落ちる俺は、アースドラゴンから視線を切らずに着地する。魔力で岩を引き寄せてから傷口を塞ぐのが見えた。
「前に戦ったのと同じえタフだな。やはり脳天に一撃を入れるしかないか」
【ぶふー……】
興奮状態が続くアースドラゴンは血と涎を垂れ流しながら、再度俺へ向かってきた。
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