その33 王都の危機

【ゴガァァァァ!!!】

「……!? 今の咆哮は……!?」

「森全体に響いたわ……!? なに!?」

「ぴゅー……」


 俺達はなにかの咆哮を耳にして身構える。

 鳥は慌ててどこかへ飛んで行き、魔物達も遠くへ離れようと移動するのが見える。

 俺達が近くに居るにも関わらず無視していくため、よほど恐怖を感じているらしい。


 というより――


「今の咆哮、もしかしたらドラゴンじゃないか……?」

「え!? で、でも空は静かだったわよ?」

「飛ばない個体も居るんだ。地を這うアースドラゴンと名付けたドラゴンと戦ったことがある」

「そうなんだ。森は平和だって言ってたのにね……」


 セリカがフォルスを抱っこして咆哮が聞こえてきた方角に目を向ける。距離はそれほど遠くない。


「ん!? 王子達が危ないんじゃないか……!?」

「え? どういうこと?」

「セリカとフォルスが散歩している時に、狩りに出ていた王子達を見たんだ。ドラゴンなら行った方がいいな。セリカ、悪いけど荷物をまとめて王都に向かってくれ」

「ラッヘさんは?」

「このまま咆哮の聞こえてきた場所へ向かう」


 森を抜けて王都に向かわれると面倒なことになる。外壁はそう簡単に壊れないだろうし、防御魔法があるから対処は可能だ。

 だが、アースドラゴンは剣などの攻撃には強く、魔法に弱い。なので魔法使いを中心にしたいところだが、防御魔法が疎かになりやすいんだよな。


「だから俺が行く」

「なら私も行くわよ!」

「ダメだ。セリカは戦えるだろうからともかく、ジョーやフォルスが巻き込まれたらあっという間に死んでしまう」

「あー……」


 突発的ではなく準備をしていたとしても馬車は離れたところに置くのがいい。

 少しくらいなら、は確実に命を落とす。


「頼むぞ!」

「あ、分かったわ! 気を付けてね!」

「ぴゅー!!」

「お父さんはお仕事に行ったの。私達は王都へ行くわよ」

「ぴゅ、ぴゅーん……!」


 背後でフォルスが大泣きしていたがセリカがなんとかしてくれるだろう。魔物も出ないだろうしあっちは任せてもいいと判断した。


「こっちか……!」


 そこで木が折れるような音とザザザ……というなにかが移動する音が聞こえてきた。

 俺は剣を抜いてからその場へ駆け出していく。


「おおおおお!」

【ゴガァァァ!】

「チィ、硬い……! こっちだ!」


 現場に到着すると体長が3メルほどのドラゴンが目に入った。

 やはりかと思うと同時に、一人の騎士が馬を駆り剣を振りながらドラゴンを翻弄している姿を目撃した。

 確か騎士団長の一人であるラクペインという人だったはず。

 騎馬で回り込みながら側面を攻撃しているのは見事だ。


【グゴォァァァァ!】

「チィッ!」

「いけない!」


 しかしドラゴンが尻尾を上手く使い、ラクペイン殿の移動に対して先回りをした。 

 急な妨害に馬はすぐに避けられないため、このままではぶつかってしまう。

 そう思った俺は剣に力を込めて飛び出した。


「させるか!」

【グォァ……!】


 鞭のようにしなる尻尾の一撃を大剣で受けきる。その直後、俺の鎧から鈍い光が浮かび上がった。俺が戦闘を開始すると自動でかかる魔法のようなものだが、これが無ければ到底ドラゴンと戦うなど不可能だ。


「あ、あなたは……!」

「ラクペイン殿、加勢するぞ!」

「ラッヘ殿……! まだ近くに居たのですか!?」

「話は後だ! まずはこいつをどうにかする!」

「承知!」


 とはいえ、ラクペイン殿の剣は通常の物。アースドラゴンの皮膚を破るには心許ない。

 通常の武器であればランスのように一点を突くか、バトルアックスのような重量武器を両手で力任せに叩き潰すのが望ましい。


「チェイサァァァァ!」

【ゴルルル……!】


 しかし、俺の大剣はドラゴンを殺すためだけに鍛えられた特注品。

 振り回してきた尻尾に斬撃がしっかり通る。

 血飛沫を上げたのを見てアースドラゴンは近くの木々をなぎ倒しながら俺から距離を取った。


「警戒した……?」

「こいつらは暴れているだけのように見えるが、驚くほど賢いんだ。ラクペイン殿の剣が通用しないことを認識し、俺のは斬られるとすぐに判断した」

「なんと……やはりとんでもない化け物だ……私のことはラクペインでいいですよ。次はどうしますか?」

「なら俺もラッヘと呼んでくれ。敬語も無しだ。次を言うなら、ラクペインはこの場を離れてくれるか?」

【ゴルルルル……】


 俺とラクペインが合流して話を始める。その間、アースドラゴンはこちらをじっと見る。隙を伺っているのだろう。

 さらに尻尾を地面に叩きつけて苛立っているのも分かった。

 そこでラクペインが口を開く。


「私も騎士の端くれ。臆してはいない。ここは協力してやったほうがいいのではないか?」

「気持ちはありがたいが、その剣じゃこいつには通用しない。戻って武器を変えてきた方がいい」

「……なるほど」

「足はそっちのが速いしな」


 俺がそう言って笑うと、理解してくれたようでサッと馬を王都に向けて走り出した。


「気遣い感謝する……! すぐに戻ってくるから私の分も残しておいてくれよ!」

「悪いが、俺は早食いでね。急がないとありつけない」

「すまない、任せる!」


 ラクペインがそう叫んで一気に加速した。さすが騎士の馬だ、ノンビリ者のジョーとは違うな。


【ゴガォァァァァ!】

「おっと、ここから先は行かせられない。ここで倒すぞ――」


 俺はアースドラゴンの前に回り込み、大剣を構えた。

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