その28 提案と空気が読めない王子
王妃様が部屋から出てしばらくして俺達はまた謁見の間へと招かれた。
先ほどと同じく絨毯の真ん中程まで歩いて行く。既視感のある状況だが、違うことが一つある。
それは周囲の人達の雰囲気が緊張からふんわりした空気になっていた。
話し合いが上手くいったということだろうか。
「お待たせしました。こんなに早く終わるとは思いませんでした」
「うむ。すぐに知らせようと思い、急いだのだ。それでこちらの提案だが――」
陛下はそう言って会議で決まったことを口にする。
まず、フォルスを連れて歩くことは問題ないとのことで、俺とセリカが責任を持ち、なにかあった場合は国も援護してくれるそうだ。
次に屋敷をくれるらしい。最初の謁見の前にハンス殿が言っていた郊外の家とのこと。
「お屋敷!? 夢のマイホーム……」
「ぴゅー」
これにはセリカの食いつきが良かった。しかし、次の話で雲行きが怪しくなってきた。
「で、ここに暮らしてもらっている間、フォルスには研究に協力してもらおうと思う」
「研究……ですか?」
「ええ。少し血をもらったりする程度ですが――」
「「ダメです」」
「キレイにハモった……!?」
血をもらったりする、という内容を聞いた時点で俺とセリカがダメ出しをした。驚く陛下達だが、それは無理というもの。
「申し訳ありませんが研究に関してはお断りしたいです」
「な、なぜだ……? その子の食事など、分かるように色々と手配もするし……」
「いえ、フォルスは赤ちゃんです。切り裂く、血を抜くといったことは許可できません。それにお……私達はドラゴンを探す特殊な冒険者ですから定住も必要ないかと」
「む、むう……」
確かにドラゴンを生きたまま捕らえるということは難しいので研究材料として考えれば手に入れたい存在だ。
だが、そんなことをすればフォルスからの信頼を失い、俺達には近づいて来なくなるかもしれない。それは避けなければならないのだ。
「連れ歩くことだけ承知していただければ大丈夫です。お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
「それは――」
陛下がなにかを口にしようとしたところで謁見の間に誰かが入ってきた。
「父上、母上ここでしたか」
「む、エリードか。謁見中に入ってきてはならんといつも言っているだろう」
「申し訳ありません。待っていたのですが、長いと思ったので……」
それはこの国の王子であるエリード様だった。確か歳は十六歳のはずだ
なにか急ぎの用かと陛下が尋ねていると、エリード様が俺達に気づいた。
「あれ?
「ええ、顔をあわせるのは宴の席以来ですね」
「ふうん。ドラゴンを倒して回っているんだよね、助かるよ」
「む」
この王子はあまり俺のことを良く思っていないふしがある。『助かる』と口にしているものの、目は蔑んだ感じだ。
恐らく、陛下が俺を持ち上げるのが気に入らないみたいなのだ。
「ちょうど話は終わったところですから大丈夫ですよ、王子。セリカ、行こう」
「うん」
「ぴゅーい」
「……!」
俺がセリカに声をかけて踵を返そうとしたところで、俺の懐にいるフォルスが鼻を鳴らす。
「なんだそいつは? トカゲなんて飼っているのかい?」
「……まあ、そんなところですよ」
「
「エリード。ラッヘ殿になんてことを言うのですか。それにあれはトカゲではありません。ドラゴンの赤ちゃんです」
「なんですって……!?」
王妃様に説明をされると目を見開いて俺の胸元に居るフォルスに視線を送って来た。
「ぴゅふぁ……」
「あら眠くなってきたみたいね」
「なんだって……!?」
そこでエリード様が俺のところへ駆けて来た。そしてフォルスを見て言う。
「なんだこの生き物は……!? 無防備にもほどがあるじゃないか……」
「ぴゅー……」
「申し訳ない王子、こいつは人見知りをするから離れてください」
「なにを言っているんだラッヘさん。こいつ、ドラゴンの赤ちゃんなんだろう? 我が国で保護して研究すべきさ。成長すれば素材になるし。逃げ出す前に僕が預かってあげるよ」
「エリード……!!」
「ぴゅー……!?」
陛下が怒鳴ってくれたがエリード王子は目を輝かせてフォルスに手を伸ばして来た。だが、それが届くことはなかった。
「それ以上はいけません王子」
「い、いたたた……!? な、なにをするんだ……! おい、兵士たちなにをしている! こいつを捕らえるんだ」
手を伸ばした瞬間、俺が王子の手を掴んで止めたからだ。エリード王子は居たがりながら兵士を呼ぶが――
「……」
「……」
「え!? ち、父上!」
――兵士はエリード王子を俺から引き剥がした。
「不肖の息子ですまんなラッヘ殿」
「なんで僕が……! ドラゴンの赤ちゃんなんて貴重な存在を
「こいつは俺が利用するんだ。国に任せるつもりはないんですよ」
「なら――」
「この子は私達の家族みたいなものです! だから『はい、どうぞ』とはいかないんです!」
俺が不機嫌を露わにして言うと、セリカも怒りながら口を開いていた。
「では、私達はこれで。基本的に野営をしているのと、町に必要なものを買う時はフォルスを入れないのでご安心ください」
許可をしてくれているなら十分だと告げて俺はセリカと踵を返して歩き出す。
すると背中に王妃様の声がかかる。
「ま、待ってください! また来てもらえますか?」
「先ほども申し上げたように、フォルスを町に入れることは極力避けたいと考えています。なので、お城へ来ることは無いかもしれません」
「そんな……!? フォルスちゃん……!!」
「ぴゅー?」
「行きましょラッヘさん」
王妃様に名前を呼ばれて鳴くも、王子の剣幕が怖かったのか懐から出てくることは無かった。
無駄な時間ではなかったのが幸いだが、研究材料にしようと考えたのは許せないな。多分、今後は王都に近づくことが殆どないだろう。
もし、この件で俺を手配したりするなら……その時は別の国に移動するだけだ。
そんなことを思いながら俺達は謁見の間を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます