その27 悩める偉い人達

「しかし滅竜士ドラゴンバスターがドラゴンを拾ってくるとは……なんの冗談だろうな……」

「ドラゴンを利用してドラゴンを倒す、みたいなことをおっしゃっていましたがラッヘ殿は性格の良い方ですからね。多分、可哀想だと思ったのではないかと」


 ――謁見が終わり会議室に有識者を集めてラッヘのことについて話し合っていた。


 議題はもちろん赤ちゃんドラゴンをどうするか? というものだ。

 しかし会議は難航していた。

 

「扱いが難しすぎるだろう……!!」

「ですな。ドラゴンの幼体はとても可愛いモノでしたが、大きくなれば城と同じくらいの大きさになり、最悪の場合は牙を剥いて襲ってくる存在ですからね」


 大臣のハインが脅威しかないと首を振る。先ほどの怪しい笑顔は無くなり、真面目な顔に戻っていた。


「やはり処分が妥当なのでしょうか……可愛いのに……」

「それがいかんというのだ! 陛下、すぐに取り上げてしまいましょう!」


 ドラゴンは赤ちゃんなのでそのままでもいいのではないか派と、まだフォルスを見ていない過激派の意見も半々で出ているのも中々まとまらない要因である。

 そこでハインが過激派に向かって指をびしっと指して口を開く。


「あの可愛い生き物をラッヘ殿は溺愛しておられる様子。もし取り上げたらどうなるとお思いか?」

「なんですと……? 陛下の命令は絶対だ! それでいいではないか!」

「いやあ、甘いですよ……」


 そこで隣に座っていたフォルス可愛い派が苦笑いで呟く。


「なんだと!?」

「よく考えてください。赤ちゃんドラゴンを取り上げるなり殺したりすれば、ラッヘ殿はどうするかと思いますか?」

「……そりゃ、泣くかもしれんが……」

「それで済むわけないでしょ!? まずこの国から出ていくでしょう。そして下手をすればラッヘ殿自身が敵に回る可能性が非常に高い」

「ふん、なにかまずいのか?」


 若いフォルス可愛い派が冷や汗を掻きながらそう説明する。だが、処分派はそんなことかと鼻を鳴らす。


「まずいもなにも、この国のみならず他国もそうですがドラゴンの脅威に晒されています。それを倒せる人間が居なくなることはかなり損失」

「騎士達が――」

「犠牲はかなり出ると思いますがね? 最悪、こちらを攻撃してくるかも……」

「(全部言われた……)」


 寂しそうな顔をしているハインはともかく、ドラゴン可愛い派の言う通りドラゴンは脅威で出現率は不明。

 十年で三十頭をラッヘが倒しているが、冒険者や騎士が倒すこともあるので年間の総数は割と居る。

 部隊を出さなければならないところ、ラッヘは一人で狩れることを考えたらかなりの損失になると言うのだ。

 さらにラッヘ自身も語っていたことだがドラゴンを単独で倒せる彼が敵に回った場合、お互いの犠牲はどれほどになるのかと言った。


「ぬう……確かにそれは一理ある……しかし、ドラゴンは……陛下のお考えは?」

「そうだなあ……」


 一番いいのはラッヘの要求を呑むことだ。

 

「ドラゴンを容認するのは難しい問題なのだが、確かにあれだけ大人しく可愛いなら大丈夫かなーとも思う。そのままでもいいか……?」

「さすがは陛下、懐が深い……!」


 ハインがパッと明るい表情で手を叩くと、エントリア王はフッと笑いながら口を開く。


「話は聞かせてもらいましたわ! 国が亡びますわよ!」


 そこで会議室の扉が開かれ、王妃のリンダが勢いよく入って来た。びっくりした一同が飛び上がった後、エントリアが襟を正しながら言う。


「どうしたのだリンダ? ドラゴンのところに行っていたのではないのか?」

「行ってきましたわ。下手に手を出さない方がいいと思いますわよ?」

「ふむ、それはどうしてですか?」


 ハインがリンダの言葉に質問を投げかけた。すると先ほどラッヘ達と会っていたことを口にする。


「まず、ドラゴンのフォルテちゃんですがかなり賢いですわ。このままラッヘさんとセリカさんにお任せしていいかと。今は赤ちゃんで手がかからないので安全ですし、躾ができれば制御もできます。言葉を解することになれば脅威にはならないと思いますわ」

「なるほど……」

「なので許可をしてあげていいのではないかと」


 的確な提案をするリンダに周囲が感嘆していた。


「ドラゴンは脅威だが、ラッヘ殿のドラゴンに対してフォルテを当てるという話も、うまくいくかどうかはわからないがやってみる価値はあるか」

「生態を調べればわかることもあるかもしれませんね」


 と、ハインが『見守る』方向でもいいかもと言い出し、さらに続ける。


「ラッヘ殿には何度か言っているが王都に住んで欲しいのだ。郊外に貴族が住める屋敷にな。そこに住んでもらい、ドラゴンを研究してみるというのはどうだろう?」

「ふむ。郊外であれば大きくなるまでドラゴンの存在を隠せるし、我々も監視がしやすいですな」

「それにいつでも会いに行ける……!」


 ハインの提案に反対派もそれならいいかと納得し、若いフォルス可愛い派とリンダは口実ができると喜んでいた。


「よ、よし! そうしよう! ドラゴンは滅竜士ドラゴンバスターが責任を持って育てるお触れを出してもいいだろう。王都に住めば外から攻撃してくるドラゴンに対抗できるから民も納得してくれるはずだ!」

「ですわね!」


 こうして会議は一応の方向を決めた。

 会議が終わり、再び謁見の間にラッヘ達を呼び出した――

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