第33話 「クラリス」

王都に戻った私は、治療を行う多忙な日々を送っていた。ここは王宮治療室一般の方が入ることができない治療室なのだが、聖女様に直してほしいという人々が王宮前に集まるようになってきていて、国内で問題になっていた。だから、魔の森の開拓の手伝いに行っていたのだけど、今度は教会から命を狙われることが判明し、王宮で匿うことになった。

しかし、そんな王宮へ教会から一人の使者がやって来た。使者の名前はホーリー。そんな彼は私を鑑定をしにやって来たのだという。


こうして、私は、王宮へ呼ばれ、ホーリーという人物の鑑定を受けることになった。


「君の名前は?」


「フリージア」


「これから君の鑑定を行う。ホーリーだ。抵抗するならば、この場で魔王の使いとして本国へ報告する」


私はみんなの前で鑑定されることになった。机には水晶玉と分厚い本が置かれていた。私は、ホーリーと向かい合って座ることに、ホーリーの横には、魔導士コーエンが座っている。


「それでは、これからフリージアの鑑定を行う」


「まずは、右手を本に左手を水晶玉におくのだ」


「はい」


私は言われ通りに手を置いた。すると水晶玉には数字の5の文字があらわれたのを確認して、


「魔力5」


その数字を聞いて、その場にいた人たちは首をひねった。ひそひそと声がしてきている。この時の私にはわからなかったんだけど、あとで、魔力が小さすぎるということをいわれた。しかし、目の前のホーリーは


「ヒールが使えると聞いていますが」


「ええ」


「この場でヒールの呪文を唱えてもらえますか。おい、負傷しているものを連れて来い」


「わかりました」


しばらくして、左足を骨折して兵士が松葉杖をついて入ってきた。よく見るとかわいい女の子が痛々しい姿をしている。なにもこんなところで治療しなくてもいいのにと思ってしまうほど、しかも、かわいそうにじっと立って待っている。


「この者にヒールをかけるのだ」


「わかりました」


私は、患者の状態をじっと見ると、左足を骨折している。骨接ぎをして補強用の添え木で固定されているだけと思っていると目の前のホーリーはイライラした目つきをしていることに気付いた。


「なにをしておるのだ?」


「あ…すみません。この方の容態を診ておりました。魔法は容態に合わせて行わないといけないので」


説明をしたんだけど、いまいち納得していない表情を浮かべでいる。


「?…そ…そうか。わかった。準備できたら教えてくれ」


「はい。わかりました」


患者を診ることにした。念のため患部以外に悪いところがないかを確認している。なぜなら、ヒールは治癒魔法。イメージとしては1cmサイズの魔法を患部に当てるのだけど、それはあくまでイメージだから、実は全体にかかっているから他のところも治療していて、中には持病が良くなったとか、いぼ痔が治ったとかいうこともあったんで、こうやってみるようにしている。すると、彼女の心臓に黒い影が見えた。


「なんだろう?魔傷かな?でも、この間、オリバーについていたのとは違うようだ。けど、何かひっかかるんだよね。なんだろう?」


ぶつぶつ言っていると彼女と目が合った。


「この辺りが苦しいときはありますか?」


「いえ」


「そうなの。足は痛みますか」


「いえ」


「ごめんね。みんながいるところで治療されるなんて嫌よね」


「いえ、これも任務ですから」


死んだような目つきをしていて、淡々とした話し方がこれまで治療をしてきた人たちと全く違う。任務できているということは少なくとも騎士だろう。更によく見るとその影から細い黒い糸が出ていて首に巻き付いていた。その異様な光景にぞくっと気味が悪い気配を感じた。

そんな私を見てイライラしているホーリーが少女に向かって怒った。


「無駄口は慎みたまえ」


「はい…すみません」


そして、その怒りは私にも向けられた。


「君もいい加減にしなさい。今日の目的は、君の鑑定だ。こいつの治療ではない。だから、とっととヒールをかけるのだ」


そんな彼の態度にむかついた。


「ホーリー様!!何をおっしゃっているんですか?鑑定するだけでしたら、わざわざ怪我人がいなくても、この水晶玉と魔法鑑定で十分なはずでしょ」


「貴様!!本性を現したな。やはり魔王の使いか!!」


本音はこれか


「ホーリー様こそ、本性を現しましたわね。なぜなら、なんの証拠もなく私を魔王の使い扱いした。それは、あなたの目的は、私を魔王の使いであるという証拠を探すことですからよね」


「な…何を言っておるのだ」


「別にそんなことどうでもいいですわ。今は私は彼女の治療を優先させていただきます」


「は?」


「鑑定が目的と言われましたが、私は治療師です。ですから目の前に患者がくれば、患者を優先いたします。人間としても怪我人を見て、手当てをするのが当然かと思いますが」


「ぐ…勝手にしろ殺(や)れ」


すると目の前の女の子が素早く、短剣を抜いて襲い掛かて来た。しかし、周りからは死角となって何が起きたのかは見えていない。


パキン


「ほえ?」


お腹に突き刺さるはずの短剣は砕け散ったのを見て、固まっていた。


「え?」


彼女の手をぐっと握った私は、彼女を近くの椅子に座らせた。


「うそ…」


「けが人はじっとしてなさい!!」


「うぐ!!」


その光景を見ていたホーリーは驚愕の表情を浮かべてつぶやいた。


(う…うそだろ…あのクラリスを簡単に抑え込んだ)


「わかった?今から治療を始めるからね」


私はホーリーに向かって話した。


「それでは、治療をはじめます」


『ヒール』


呪文を唱えると金色の光がふわりと舞って、けが人の左足を包んだ。


「おお!!」


一同が驚いている中、ホーリーは呪文を唱えた。


『アプレイゾル』


何の呪文かはわからないけど、その呪文唱えた後一人でうなずいている。すると、水晶玉には5の文字が浮かんでいた。


「魔力5」


一方、私の方ははというと、彼女の左足を完治させた後、心臓とそこから延びる謎の黒いものの除去に入っていた。ヒールが効かないというよりはじかれた?だったら?ヒールサイズを10cmに…まだはじかれた。もう…だったら、フルパワー!!!

すると彼女は叫びだした。


「うぁああああああああああ!!」


やがて黒い物体は消滅していった途端、彼女の叫び声は終わり気絶した。


「ふぅ…終わりました」


丁度その時、教会本部にいた一人が崩れ落ちた。


「ルドルフ様!!如何なされたのですか?」


「いや…なんでもない」


儂の秘術を外しただとトロイ術式も効いていないようだ。何も発信してこない。といことは強引に破壊したことになる。しかも、自壊すらできないくらいの大きな魔力、偽聖女、奴はあなどれんな


などということがあったことは一切私は知らない。


話は鑑定をしているところまで戻ります。コーエン達は私が治療した彼女を確認したいた。


「なんと…傷は癒えています」


その言葉を聞いた王様は


「鑑定結果は?」


その答えを信じられないと言った表情を浮かべホーリーが伝えた。


「ま…魔力は5です。ステータスも一般女性と変わりはありません」


「コーエン、これはどういうことだ?」


「私の鑑定結果も同じです。残念ながらフリージアには聖女級の魔力はありません」


「では、どう説明するのだ?」


するとホーリーは、勝ったような顔を見せた。


「やはり、魔王の手下ではないかと」


ふっと笑ったのは王様だった。


「何を言っておるのだホーリー殿は、貴殿の目は節穴か?」


「は?」


「魔力は存在していない。ということは、魔王からの魔力も存在していないことになる。すなわち、彼女こそ聖女だから、魔力がなくても治療ができたという確たる証拠ではないか。これでも、教会はフリージアを認めぬか」


「ぐ…」


こうして鑑定は終わったのだった。




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