第9話 放課後デート2

「そろそろ他のゲームも見に行く?」

「うん! 今度はうちがせる番だね!」


 ウインク一つ決めて桐冬さんが向かったのは、ある種特殊エリアというか個人的にあまり踏み入れた経験のない音楽ゲーム、通称音ゲーのエリアだった。


 その中でもサイズが一際大きい筐体きょうたいで、矢印の方向にパネルを踏んでいくダンスゲームに飛び乗る。


「うち、リズム感はあるからみててね!」

「このゲームやってるの見たことないからどんな感じなのか楽しみだわ」

「うちのダンスに惚れるといいよ」

「はいはい」

「もおお!」


 なんだか慣れきったこのやり取りに安心してつい邪険にしてしまうが、これは一種の照れ隠しというのはお互いに分かっているんだと思う。


 本当に怒っていないのは桐冬さんの目や態度を見ていれば分かる。

 そんな距離感にふと居心地がいいなという感情を覚える。


 これまで仲は良いといえる距離感ではあったものの、それでも美鈴の存在があったせいか、もう一歩踏み込んだりはしなかった。

 ただ、美鈴とのことがあって先に進むためにも美鈴以外にも目を向けて見てもいいのかもしれないと思うようになった。


 ……その一発目がもう一人の学校一と名高い桐冬さんなんだから豪胆もいいところだ。


「ふんふん」


 頭でリズムに合わせながら、一歩目を踏み出していく。

 音楽も聴きなじみのあるアイドル曲でいかにも桐冬さんが歌ってたり聞いてそうな音楽だった。


 リズム感もバッチリで、流れてくる上下左右の矢印を適切なタイミングで処理していく。

 最後までその正確さを失わないまま曲は終わりを迎える。


「はぁ……どう? 見てた?!」

「うん、見てたよ。リズム感もばっちりだし……あとなんていうか」


 これは正直言うべきか迷ったのだが……というか恥ずかしいから言いたくなかったんだけどここまで口を滑らせてしまった手前言い切ってしまおうと思う。


「なんていうか、ところどころオリジナルみたいなダンスしてて、アイドルかって思った」

「ふふっ、なんか春の口からアイドルとか出てくるの面白いけど、でもそういってもらえるのもうちが可愛いからなのかもしれないね!」

「自分で言うのかい」

「変に可愛くないですよとか謙遜するよりもちゃんと理解したうえで相手に接する方が良くない?」

「それは人にもよるかもだけど、桐冬さんなら何も思わないかな」

「でしょ? もちろん自分から周りに対してそういうアピールはしないけどね。今は春しかいないからそう言ってるだけだけど」


 これが、なんていうか桐冬さんじゃなくてと考えると微妙なラインだけど、それを認められるほどの容姿をしているのだから何もいえない。


「でも、これは春がうちを可愛いっていってくれたようなものだから慢心しちゃうなぁ」

「いやっ! それは――!」

「冗談だよ! 別なところも行こう!」


△  ▼  △


 それからUFOキャッチャーなどのゲームから一緒に遊べるタイプのゲームを楽しんで、次のゲームを探しているところだった。


「あ、春、一緒にプリ撮ろう!」

「……プリですと」

「拒否権はありません」


 そのまま袖を引っ張られ、普段は近づきもしないエリアに足を踏み入れる。


 プリクラ付近はきらきらというか、白を貴重としたような感じで台にはコンセントがあり、そこで髪をセットしている女子たちもいた。

 そこの輪には入らず、そのまま一つの機械に入っていく。

 

「なんか落ち着かない」

「普段プリとか撮らないの?」

「普通に初めて……」

「え、美鈴とかとないの?」

「あいつとは一度もゲーセンとか来たことないんだよね」

「ふうん、そうなんだ。じゃあうちとが初めてだ!」


 美鈴から誘われることがなかったわけじゃないがあまり気乗りしない俺を見て美鈴も無理に誘わない感じになっていた。


 だからいい機会だと思った。

 むしろこれまで美鈴の気持ちをかんがみないで、自分の気持ちだけで避けていた。だからこそ変わるチャンスだ。


「うん。だから初めてだけど多めに見てくれ」

「任せて!」


 そうして機械の中に入った俺たち。


 照明の明るさが目に馴染むまで時間がかかったが、桐冬さんは慣れた手つきで画面を操作する。

 シチュエーションとか選びながら、準備が整う。


「ポーズとかはうちの真似とかしてくれれば問題なし!」

「うん、ありがと」


 ポーズは桐冬さんのポーズを横目に見ながら真似る。

 というか、さっきから腕を組まれていて……、これ傍目はためから見たらカップルなんじゃ……。

 

「あ、やばい目を瞑っちゃったかも」

「それは後でが楽しみ!」

 

 馬鹿なことを考えていたせいで写真映りが馬鹿になった。これが自業自得か。

 最後の一枚と言われ、最後のポーズはなんだろうと横目で桐冬さんを見る。


「春、最後ポーズとらなくていいよ少し屈んで前だけ見てて」

「え? うん分かった」


 カウントダウンが行われ、そのまま何もせず前を向いていた……そのときだった。



 ――ちゅっ……と、やわらかい感触が頬に触れた。

 

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