第8話 放課後デート

 学校からの帰り道、最初の大きい交差点を左に曲がれば自宅に向かうが、そこをまっすぐ向かった先に目的地であるゲーセンがある。


 登校手段が自転車や付近に住んでいるメンバーからすれば絶好の暇つぶしスポットであり、それは徒歩で通学している俺にとっても例外じゃなかった。


 家も近いこともあり、将太と圭祐と帰りが被っていた際にはよく行ったりしている。


 偶然に偶然が重なったこともあるだろうが、まさか桐冬さんのほうから誘ってくれて一緒に来ることになるとは……誰に言っても信じてはくれないだろう。


 スライドドアを通り店内に入ると、外の静けさとは打って変わって大きい音が響き渡っている。

 あまりの音量差に一瞬耳がキンとなるが、それもすぐに慣れていく。


 前を歩く桐冬さんは、それはもう上機嫌で店内の景品を見て回り、品定めをしていた。


「うちさ! 男子とゲーセンくるの初めてだから男子が何してるのか知りたい!」

「え、そうなの?」


 周りの音量のせいか自然と声が大きくなるが、桐冬さんの透き通るような声はハッキリと聞こえる。


「意外でしょ? 自分で言うのもなんだけど」

「それはかなり意外だった」

「ガード固いんだうち」

「なのに俺とは来てくれたんだね」

「うん、春ならいいかなって」

「なんか照れるな」

「照れろ照れろ!」


 明るく言っているものの、本人の頬も少しだけ赤くなっていた。

 指摘してみてもよかったが、俺自身も大差なさそうなのでやめておく。


「それじゃあ、俺が普段やってるものからやってみるか」

「うん!」


 そういうと今度は俺が前を歩き、ひとつのゲームの前にやってくる。


「へえ、意外だった」

「そう……だよなまぁ」

「ギャップあっていいね」


 桐冬さんがそういったのはバスケットボールのゲームの前に俺が立ったからだった。

 簡単なゲームではあるものの、俺とこのゲームをなかなか結びつけるのも難しいと思う。

 普段の俺の姿的にはいかにも普通。運動神経が飛びぬけて良いわけでもないし体育の授業でバスケをめちゃめちゃやっているわけでもない。

 

「一回やってみるか」

「かっこいいところ見せてよ!」

「うわぁ、期待が重い……」


 そんな重い期待を型に背負って百円を筐体きょうたいの中に入れる。


 ボタンが点滅するのを確認して、俺はふぅと一息吐く。


 あくまでゲームだけど隣にいるのがあの桐冬絵瑠だと思うとちょっとは力が入ってしまうというものだ。


 もう一度、今度は深く息を吐いて身体の力抜く。そうして俺は、頭から桐冬さんを切り離し、点滅するボタンを押す。


 バタバタと複数個のボールが緩やかな盤面を降りてくる。その中からまずは一個ボールを掴みシュートを放つ。時間にして一秒にも満たない放物線を描くとボールはゴールの中へと吸い込まれていく。


 その感覚をしっかりと覚えながら、二個目、三個目とボールを放っていく。

 一分という間、俺はその単純動作を繰り返し、集中が切れるころにはカウントダウンが止まる。


「ふぅ」


 一ラウンド目が終わる。

 一定の得点を取ると二ラウンド目、三ラウンド目と進める形式であり、問題なく一ラウンド目を突破できたことにまずは一安心。


 やけにおとなしい隣を見てみると、唖然と行った表情でこちらを見ていた。


「ん?」

「え、あ、うん。なんか意外だった」

「感想それだけかい!」

「いや、もっとちゃんと伝えたいんだけど今、びっくりの方が大きくて後で伝える」

「はいよ」


 かばんの中から水を取り出して一口含む。


 ペットボトルをかばんにしまい込み、早く早くといったように点滅しているボタンをぽんと叩く。


 そのまま、第二、第三ラウンドまでやりきる。

 何とか普段よりも少しいい感じの合計点で終わることができ、桐冬さんを連れ一旦ベンチに座る。


「ふわぁ、久しぶりだから少し腕が痛い」

「お疲れ様~、かっこよかった」

「リップサービスありがと」

「リップサービスじゃないもん!」


 頬をぷっくりと膨らませて怒りを露にする。


 そんなに怖くはなかったが、変に長引かせたくないなと思った俺はすぐさま「ありがと」と一言返す。


 それに納得したのか、満足げな様子で「分かればよし」というと上機嫌を取り戻した。


「春は部活前までやってたの? 正直慣れてるとはいえ、身体の使い方みたいな部分を見ていると運動をまったくやってきませんでしたって人の身体の使い方じゃないなって思った」

「すごいな、あんなただのゲームでそんなことも分かるの?」

「うん、私も運動経験があるほうだけどやっぱり身体の使い方が分からない人は動きにぎこちなさみたいなものが出るから分かる」

「まあ隠すようなことでもないし別にいいんだけど……仰るとおり部活動というか運動経験はあるよ」

「やっぱり」


 思いも寄らない視点からの話だったこともあり、多少面食らったがよくよく考えてみれば彼女は体育で活躍していたんだっけ。

 俺も含め男子が盛り上がっていたのを思い出す。


 ……まぁ、あれは活躍に対してって言うより、彼女の運動している姿に対してって感じだったけど。

 

「なんにせよ、少しはかっこいいところ見せれてよかったよ」

「運動ができるからかっこいいわけじゃないけどね……」

「なんていった?」

「ううん! なんでも!」


 音楽ゲームの音響のせいでうまい具合に彼女の声が掻き消えた。

 少しだけ赤みのある頬のせいもあってか普段の彼女とはまた違った可愛さを感じた。

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