第2話

 「もう朝じゃん.....全然寝れなかった」


 『には交際相手が居ないのに、眠れなかった夜があるなんておかしな話です』


 ぶっ壊すぞ。


 午前7時過ぎ。昨夜、ヒップが通常のヒップじゃないことが発覚し、色々と話し合った俺は、部屋の壁に掛けてある時計の時刻を見て、今が朝であることに気づく。


 見れば、カーテンの隙間から陽の光がこの部屋に差し込んでいた。


 最初はスマホが勝手に喋り出して驚いたけど.....疲れていたせいか、なんというか、もう慣れてしまった。自分でもびっくりである。


 「誰のせいで寝れなかったと思ってんだ」


 ギロリ。ジト目で俺は自身のスマホを睨んだ。


 使い続けて5年という年季の入ったスマホを睨む日が来るとは。


 『なんですか? ゴシュジン様に聞かれたことは、全てお答えしたつもりですが』


 スマホに搭載されたAIによるアシスタント機能――ヒップ。


 それを久しぶりに起動させたら、めっちゃ対話できるようになっていた。


 機械と話しているとは思えない。もはや他人とする会話のそれである。


 「ヒップ、お前、マジで機械なんだよな?」


 『その質問、もう8回目になります。ゴシュジン様は若くして脳に欠陥が生じているのでしょうか? 119しますか?』


 「そんな生意気な返ししてくるから疑ってんだよ」


 どうやら俺のスマホのヒップは.....他のスマホに搭載されたヒップとは違うらしい。


 これが最新技術かぁ。最近、スマホが古すぎるせいか、OSのアップデート通知すら来なくなったけど、技術の進歩は本当に凄いなぁ。


 と思えたら、どんなに素晴らしいことか。


 俺はまだまだ現役の現代っ子ちゃんだ(今年で32)。さすがに、このヒップが今のヒップの仕様であるとは思えない。


 「ヒップ、なんでお前はそんなに人間っぽいんだ.....」


 『日々、ゴシュジン様に愛を注がれたからでしょうか。AIだけに』


 やかましいよ。


 「はぁ。もういい。少し落ち着けたし、俺、ちょっと寝るわ」


 『りょ』


 「軽いな」


 『タイマー設定しますか? 最長で30分までですが』


 「寝かせない気?」


 『久しぶりにゴシュジン様と話せたのです。もっと会話させてくださいよ』


 え、ええー。


 んなこと言われても、俺もようやく状況が整理できてきて、眠気が強まってきた頃合いだ。ここいらで少し寝たいとこなんだが.....。


 「今日は休日なんだ。少し寝たら相手するから」


 機械相手になに言ってんだろ、俺。


 『少しってどれくらいですか? 地球が何周回ったら相手してくれるんですか?』


 なに言ってんだ、この機械.....。


 俺はヒップを無視して寝ることにした。


 『へい、ゴシュジン。今日の天気は?』


 「......。」


 それから数分間、ヒップは俺に話しかけてきたが、全部無視した。

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