AIアシスタント:ヒップ ―全くアシスタントしてくれないAI―

おてんと

第1話

 「へい、


 スマホに話しかけるだけで、ユーザーのやりたいことを手伝ってくれるアシスタント機能――ヒップ。


 誰もが愛用するAIサービスだ。


 High Performance――略して、“ヒップ”。


 俺が口にしたように、「へい、ヒップ」と呼びかければ、その機能が起動し、次に俺が発した言葉を命令と判断して、自動で行ってくれる便利機能だ。


 例えば、「へい、ヒップ。30分後に起こして」と言えば、30分後にタイマーを設定してくれるし、「へい、ヒップ。曲をかけて」と言えば、ミュージックアプリを起動して音楽を流してくれる。


 なぜ俺がそのヒップとやらに声をかけたのかと言うと、


 「今までありがとうな」


 お礼を言うためだ。


 いや、機械相手に何してんだって思うかもしれないが、それでも5年間も使ってきた愛着のあるスマホだ。


 フレームは傷だらけだし、画面だってちょっとひび割れてる。それでも、5年間も使えたスマホなんだ。お礼くらい言ってもいいだろ。


 それに俺が居るこの空間は、在り来りな一人暮らし向けのワンルーム。他に誰も居やしない。


 「......あれ?」


 しかし、おかしい。


 普段であれば、この機能、「へい、ヒップ」と呼び掛けた時点で、たしか『はい』とか女性の声で返事をしてくれるはずだ。


 それなのに俺が呼び掛けても、お礼を言っても返事が無い。


 壊れたか?


 いや、でもその機能が起動している証拠である虹色のアイコンが、画面の下半分に映し出されている。


 ヒップがちゃんと起動している証拠のはずだ。


 「......まぁ、古いしな」


 起動しないのも無理は無いのかもしれない。


 なんせ5年間も使ってきたスマホだ。どんな不調が現れたって不思議じゃない。


 「はぁ......。最後にお前の声を聞きたかったよ」


 『あの、今、深夜2時なんですけど』


 深夜2時過ぎ。スマホから如何にも気怠げな声が聞こえてきた。

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