007 紫ゴリラをぶっ倒せ!

 川辺で波留達と合流する。

 黒のぱっつんロングが特徴的な栗原歩美もそこにいた。

 由衣と同じ2組の女子で、俺とは同じクラスになったことがない。


「よろしくね。大地って呼び捨てでもいい?」


 歩美が握手を促すように手を差し出す。


「別にかまわないよ。俺も下の名前で呼んでいいのかな?」


 俺は歩美の手に応えて握手した。


「もちろん。呼び捨てでかまわないよ」


 歩美が小さく笑った。


(近くで見るとマジでモデルみたいだな)


 歩美の容姿は「モデルのよう」と評されることが多い。

 170を超える身長に加えて、かなりの細身、それでいて貧乳だ。

 少し前から実際にモデルとして活動していると聞いたことがある。


「大地より歩美の方がデカくねぇ?」


 握手を交わす俺達を見て、波留が言った。


「そうかな? 俺は172だけど」


「私も172だよ」


 どうやら俺と歩美の身長は同じようだ。


「でも、大地君の方が小さく見えるね」


「たしかに」


 千草と由衣も波留に同意する。


「たぶん立ち方の問題だろうね」


 歩美が言う。


「猫背じゃなくても、普通の人はやや前傾姿勢だから」


 俺達は口を揃えて「なるほど」と納得した。


「それよりも――」


 俺は波留の手に持っている釣り竿を見た。


「――その釣り竿、良い感じに改良したな」


 俺が波留に作ったのは竹の竿に糸と針を付けただけの物。

 しかし、波留が持っている釣り竿にはガイドが付いていた。

 ガイドとは糸を通すためのリングのことだ。


 それだけではない。

 グリップ部分には布が巻かれていた。


「歩美に改良してもらったの。さっきこの竿で魚を釣ったよ!」


「ほう」


 歩美を見る。


「手先が器用なんだな」


「まぁね。普段は手が傷つくようなことは事務所の人に怒られるからしないんだけど、こういう状況だからちょっと張り切っちゃった」


「助かるよ。――それで波留、釣れた魚の価格は……って、そうか、波留は様子見で〈ガラパゴ〉を起動していないんだったな」


「でも私には分かるよ! たぶん10万くらいっしょ!」


「だといいけどな」


 俺はそこで雑談を切り上げた。

 女子達が脱線して盛り上がる前に本題に入る。


「さっき千草に連れられて洞窟のゴリラを偵察してきたよ」


「あの紫ゴリラやばいっしょ!?」


「だな」


 俺は頷いた後、更に続けた。


「でも、あの洞窟は住居として相応しい。家を買う方法が分からない以上、安全に夜を過ごすならあの洞窟は手に入れたいところだ」


「海辺じゃ駄目なの? 砂浜なら安全そうだけど」


 これは由衣の意見だ。


「それは俺も考えたのだが――」


 正確にはググった。ここへ戻る道中に。


「――海は寒暖差が激しくなりやすい上に、波の動きが読めないと危険みたいだ。それに、この海にいるかは分からないけれど、海にだって危険な生き物が棲息している」


「おー」


 感心しているのは歩美。


「波留達から聞いていたけど、大地って本当に頼もしいね。流石はリーダー」


「ふっ」


 俺は笑いながら、罪悪感に駆られていた。

 仲間として扱ってくれる彼女らに嘘をつくのは辛い。

 住居を確保した後にでも本当のことを話して謝ろう。

 人を騙しても心が痛まない性格ならもっと楽だったのにな。


「で、どうやってあの紫ゴリラを倒すのさ?」


 波留が尋ねてくる。


「〈ガラパゴ〉に武器が売っていたら楽なんだけどな」


「売っていないんだ?」と千草。


「銃はおろか刃物ですら売ってないよ。たぶん材料を買って自分で作れってことだろうな」


「材料って……」


「そんなわけだから武器は自作する必要がある。で、〈ガラパゴ〉を使ってサクサク作れそうな武器の中で、威力が高い物をピックアップした」


 女子達が唾をゴクリと飲み込む。

 俺は目当ての武器の作り方を解説しているサイトを皆に見せた。


「この武器さ」


 ◇


 武器の製作は1時間程で終了した。

 最初だから苦労したが、慣れたら10分足らずで作れるだろう。

 入力さえすれば加工済みの状態でパーツを買えるのが大きい。

 まさに〈ガラパゴ〉様々だ。


 俺達は洞窟の近くまでやってきた。


「本当にこの武器でゴリラを倒せるの? 私、こういうの経験ないよ」


 珍しく不安そうな波留。


「大丈夫。クロスボウの経験が達者な奴なんていないさ」


 俺達が作った武器――それはクロスボウだ。

 製作時、木に試し撃ちしたところ、石の矢尻が深々と突き刺さった。

 殺傷能力は申し分ない。


「もっとも、コイツを使わないで済めばそれが一番なのだがな」


 クロスボウの使用はあくまで予備プランだ。

 素人の俺達が迫り来る元気なゴリラに矢を当てられるとは思えない。

 だから、もっと確実に攻撃できる卑怯な方法を考えておいた。


「クロスボウは足下に置いておこう」


 俺は〈ガラパゴ〉で新たな買い物を行う。

 買ったのは、片手で持てるスティック状のロケット花火だ。

 それに4人分のライターも。


「導火線に火を点けてから発射までにタイムラグがあるから、俺が攻撃を仕掛けると同時に火を点けてくれ」


「「「「分かった」」」」


 女子達にロケット花火とライターを与えると、俺だけ前進する。

 紫ゴリラとの距離はおそらく50m程だ。


 向こうもこちらに気付いているようだが、近づいてはこない。

 グループラインで誰かが言っていた通りだ。

 よほど近づかない限りは襲ってこない。


 俺は〈ガラパゴ〉で追加の購入を行う。

 今度は500mlの空ペットボトルを購入した。

 同時にガソリンも購入し、ペットボトルに入れた状態で召喚。


「召喚前なら加工が出来るって気付いた奴には感謝してもしきれんな」


 これもグループラインで得た情報だ。


 ラインはかなり使えるアプリに変貌していた。

 もはやパニックは落ち着き、誰もが生きる為に頑張っている。

 活発に交換される情報は何かと参考になった。


「これでよし」


 ガソリン入りペットボトルを計2本用意し、それらの蓋を緩める。

 後はこれをゴリラに投げつけるだけだ。


「始めるぞ!」


 俺は振り返り、女子達に向かって言う。

 女子達は強く頷いた。


「うおおおおおおおお!」


 作戦開始だ。

 ペットボトルを持って突っ込む。


「ウホホォ!」


 ゴリラが反応する。

 それと同時にペットボトルを投げた。


 ペットボトルはくるくる縦に回転しながら飛ぶ。

 緩んだ蓋は空中で開いた。


「ウホーーーッ!?」


 ゴリラにガソリンの雨が降り注ぐ。


「もういっちょ!」


 同じ要領で追撃のガソリン攻撃。

 これも決まり、ゴリラをますますガソリンまみれに。


「大地、しゃがめぇえええええ!」


 波留の声が聞こえる。

 俺は慌ててその場に伏せ、後ろを見た。


「燃えろぉおおおおお!」


 女子達がロケット花火をゴリラに向けながら突っ込んでくる。


 ピューン!

 ピューン!

 ピューン!

 ピューン!


 手に持っているスティックから一斉に花火が発射された。

 その内、波留の花火以外はゴリラに直撃。

 波留の花火だけは軌道が逸れて俺のケツに突き刺さった。


「あちぃいいいい!」


 飛び跳ねる俺。


「大地ィイイイイイイイイ!」


 叫ぶ波留。


「ウホオオオオオオオオオオオオッ!」


 ゴリラが豪快に燃えた。

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