006 ○○○如きで大袈裟な
俺達は順調に狩りを進めた。
獲物を角ウサギに限定して7匹ほど狩った。
見るからに危険そうなヘビもいたが、そいつはスルーだ。
ヘビを狩るには、まずググール先生に相談しないとな。
「歩美が到着したって!」
千草が報告してきた。
栗原歩美が波留達と合流したようだ。
「なら戻るか」
日が暮れ始めている。
俺は寝床の確保について考えていた。
(このままだと野宿だな……)
家も〈ガラパゴ〉で買えるのだが、俺達には買う資格がなかった。
金銭面でも厳しいけれど、なによりの問題はエラーログが出ること。
『住居を購入するには、土地を獲得する必要があります』
家を買うには土地が必要だけれど、その土地を買う方法が分からない。
土地の購入を選択すると、何故かカメラアプリが起動するのだ。
そこで適当な地面を撮影すると、これまたエラーログが表示される。
『指定された土地は拠点に隣接しておりません』
このログから分かるのは、住居と拠点が別物ということ。
住居を買うには土地が必要で、土地は拠点に隣接している必要がある。
必然的に浮かぶ疑問は「拠点とは?」というもの。
しかし、その答えは分からない。
お手上げだった。
「野宿はまずいよなぁ色々と……」
考えていることが口からこぼれる。
その声が耳に入ったようで、千草が足を止めた。
「そのことなんだけど、洞窟ってどうかな?」
「洞窟?」
「実は大地君と出会う前、洞窟を見つけたんだよね」
「川だけじゃなくて洞窟まで見つけていたのか!」
それを先に言えよ、と言いたくなった。
川辺で二手に分かれる前、誰一人として言っていなかったぞ。
常識的に考えて、洞窟は住居に向いている。
雨風を凌げるし、温度調整だってし易い。
もしも夜に思いっきり冷え込んでも安心だ。
洞窟があれば、謎のエラーログに頭を抱える必要もない。
原始人のように、洞窟の中を拡充させれば良いだけだ。
「なんで今まで黙っていたんだ?」
俺の知る限り、千草達は決して馬鹿ではない。
住居の話をすれば洞窟についてピンときたはずだ。
あえて言わなかったのには何か理由があるに違いない。
「実は――」
千草の顔付きが不安そうになる。
「――洞窟にはすごく危なそうな動物が棲息していたの」
「危なそうな動物? ライオンとかトラか?」
ううん、と首を横に振る千草。
「ゴリラ……なんだよね」
「ゴリラ!?」
予想外の回答だった。
たしかにゴリラは危険な動物に入る。
だが、不安そうな顔で言うほどかと言えば違うだろう。
「その顔、『ゴリラ如きで大袈裟な』って言いたそうだね」
千草がむすっと頬を膨らませる。
「そんなことないよ」
俺は慌てて否定する。
実際にはそんなことあった。
お察しの通りだ。ゴリラ如きで大袈裟な。
「見れば分かるよ。普通のゴリラと違うんだから。ラインでも誰かがその話をしていたよ。近づいたら襲ってくるの。大怪我をした人もいるって」
「ん? ゴリラの棲む洞窟は他にもあるのか?」
俺が尋ねると、千草は驚いた。
「えっ? 大地君、ライン見てないの?」
「あんまり見ていないな」
今から確認しようとするが、すぐにその気が失せた。
未読のログが3500件もあったのだ。
しかも最初の方は喚き散らしているだけである。
「なんかこの島には洞窟が点在しているみたいだよ。で、どこの洞窟にも猛獣が棲んでいるみたい。殆どはゴリラだけど、中には虎を見たって人もいたよ」
「そうなんだ」
後で簡単に流し読みしておくか、と考えを改める。
何かしらの情報を得られる可能性は高そうだ。
「あそこだよ、洞窟」
そうこうしている内に洞窟が見えてきた。
「あれかぁ……」
洞窟は想定していたよりも浅かった。
洞窟というより、少し窪みがある岩壁といった感じだ。
遠目からでも奥の壁が見えている。
奥行きは2から3メートルといったところか。
ゴリラは洞窟の入口に立っていた。
まるで洞窟を守る門番のように仁王立ちしている。
ゴリラを見た感想は「あっ、ヤバイ奴だ」だった。
全長は優に3メートルを超えており、体毛が紫色なのだ。
ゲームのボスにいそうな禍々しさをしている。
あんなゴリラ、動物園では一度も見たことがない。
「ね?」
引きつった俺の顔を見る千草。
「たしかにあれは……」
近づいたらワンパンで顔面を粉砕される自信があった。
とはいえ、あの洞窟は是が非でも欲しいところだ。
それに、ゴリラを倒せば大金を獲得できるかもしれない。
なにせ角ウサギで約1万ptも得られるのだ。
あの紫ゴリラなら100万の価値があってもおかしくない。
そうなれば生活に余裕ができる。
あの洞窟が魅力的な理由は他にもある。
元が狂暴なゴリラの縄張りとなれば、他の動物は近寄らないだろう。
それはつまり、わりかし安全に夜を過ごせるということだ。
今の俺が知る限りでもっとも安全度の高い場所といえる。
「とりあえず川に戻って波留達と合流するか。後のことはそれからで」
「そうだね」
俺達は踵を返して川に向かう。
その道中、俺はゴリラと戦うことだけを考えていた。
何が何でもあのゴリラをぶっ倒す。
そして、洞窟と大金をゲットしてやるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。