005 だって仲間っしょ!

「川辺で食べる鮎の塩焼きって最高だね。焼けたよ、はい、藤堂君」


「おっ、ありがとう」


 狼煙から少し離れた場所に焚き火を作り、俺達は食事を堪能していた。

 この島で初めて食べる料理は鮎の塩焼きだ。

 シンプルだけれど、これが文句なしに美味い。


 1本10ptで竹の串を買い、それに250ptで買った鮎を突き刺す。

 そこに100ptで買ったソルトミルで塩をガリガリぶちまけて焼けば完成だ。


 驚いたことに、この程度の作業も料理として扱われた。

 クエスト「料理を作ろう」がクリアされたのだ。

 その塩焼きを食べたことで「料理を食べよう」のクエストもクリア済みに。


 クエスト報酬のおかげでお金がもりもり増えていく。

 俺達の所持金は合わせると10万を突破していた。


「釣りがしたい! 私は釣りがしたいぞー!」


 波留が串を片手に叫ぶ。


「へぇ――」


 由衣が驚いた様子で波留を見る。


「――波留って釣りが好きなの?」


「やったことないから分からーん!」


「歩美が来るまでの間に釣りをしてみたらどう? なんかそういうクエストもあったよね?」


 由衣の視線がこちらに流れてきた。


「たしかにあるな。『魚を釣ろう』と『釣り竿を作ろう』の2つがある。仮に釣れなくても、釣り竿を作った時点で報酬を貰えるようだ」


「いいじゃん! 大地・・、釣り竿を作ってくれよ!」


 波留が立ち上がる。

 いきなり下の名前で呼ばれて、俺は固まった。

 由衣と千草も驚いている。


「今、藤堂のこと大地って呼ばなかった?」


 突っ込んだのは由衣だ。


「そうだけど――」


 波留が俺を見る。


「――もしかして名前間違ってた?」


「合ってるけど、急に下の名前だから驚いたよ」


「だってウチら仲間っしょ!」


 波留がニッと白い歯を見せて笑う。

 親密度がUPしたので呼称を変えたようだ。


「私のことも波留って呼んでくれていいよ!」


「い、いいのか」


「もちろん!」


 女を下の名前で呼ぶなんて経験がないぞ。

 俺は心の中で何度も「波留……波留……」と繰り返す。

 口に出すと「波留さん」になってしまいそうな気がした。

 コミュニケーション能力の差を痛感する。


「そういうことなら、私も大地って呼ばせてもらおうかな」


「なら私も大地君で」


 由衣と千草が笑みを浮かべる。

 なんだか照れくさくなり、俺は後頭部を掻いた。


「せっかくだし〈ガラパゴ〉でフレンド登録したらどうよ? なんかそういう機能あるんしょ?」


 波留が言った。


「それもそうだな」


 俺達3人はそれぞれの〈ガラパゴ〉でフレンドを開く。

 フレンド画面はソシャゲによくあるフレンドリストといった感じだ。

 フレンドの追加と削除が行える。登録方法も同じようなものだった。


「これでフレンドになったわけか」


「ソシャゲだとフレンドのキャラを救援に呼べたりするけど……」


「〈ガラパゴ〉だとそういうのは無さそうだね」


 フレンドの利点がよく分からない。

 ただ、こうして機能として存在しているのだから何かあるのだろう。


「自分で言っておいてなんだけど、私だけフレンドじゃないってなんか嫌だなぁ。ハブられてるみたいじゃん!」


「だったら波留も起動する?」と由衣。


「いーや」


 波留は首を横に振った。


「まだ様子見しとく! 何があるか分からないし!」


 ◇


 栗原歩美が到着するまでの間、俺と千草は周辺を歩き回ることにした。

 角ウサギ等の生き物を倒してお金を稼ごう、という考えだ。


 原理はよく分からないけれど、〈ガラパゴ〉が生命線なのは間違いない。

 明るいうちにお金を貯めておけば夜も安全だ。


 波留と由衣は狼煙の近くで待機して歩美を待つ。

 2人は釣りをするそうだ。


 いつの間にか、俺達はこの島で暮らす前提で動くようになっていた。


「やっぱりまともな靴があると違うね」


「謎ブランドの靴だけど、この履き心地は最高だな」


 俺達は5000ptで運動靴を購入した。

 靴は何種類もあって、価格によって性能が異なるようだ。

 価格は1000ptから1万pt。

 俺達が買ったのはちょうど真ん中、ミドルクラスの品だ。


 見た目は謎のブランドロゴが入った普通のスニーカー。

 しかし、その履き心地は俺の知る限り最高だった。

 石コロを踏んでも痛くないし、足への負担も皆無だ。

 それでいて、どういうわけかサイズがピッタリだった。

 靴の購入画面にサイズの選択項目がなかったのに。


「いたよ、大地君」


 千草が角ウサギを発見する。

 角ウサギは俺達に気付いており、露骨に警戒していた。


「クエストの為にも千草が倒すんだ」


「うん、分かった」


 千草は俺から木の棒を受け取った。


「失敗したらごめんね」


「大丈夫。最初は誰でも初心者だ」


 俺達は左右に展開して挟み撃ちを試みることにした。

 角ウサギは主に俺のことを警戒している。都合がいい。


「いくぞ!」


 合図と共に、俺は石コロを投げつける。

 前回と違い、今回はヒットしなかった。


「キュー!」


 角ウサギは可愛らしい鳴き声を上げて逃げていく。

 逃げた先には千草が待ち構えていた。


「えいっ」


 角ウサギに劣らぬ可愛らしい声で千草が攻撃する。

 その声に反して、攻撃は驚くほどに的確だった。

 さながらゴルフのように、角ウサギが打たれる。


「キュッ……」


 派手に飛んで近くの木に激突する角ウサギ。


「千草、トドメだ!」


「任せて!」


 千草が追い打ちを掛けようとする。

 が、その必要はなかった。

 角ウサギが消えたのだ。

 千草のスマホが「チャリーン♪」と鳴った。


「やった!」


 千草はスマホを確認すると、グッと喜びの握りこぶしを作った。

 本当に嬉しそうだ。それでいて可愛い。


「見て、大地君。なんか私のほうが大地君のより高いよ」


 千草がスマホを見せてくる。

 彼女は履歴に表示されている角ウサギの討伐報酬を指した。

 たしかに俺の時よりも1000ptほど高い。

 11,721ptも獲得していた。


「ゲームの経験値と同じで、敵によって差があるんだろう。たぶん千草が倒した角ウサギことホーンラビットは、俺の倒した奴よりもレベルが高かったんだ」


「おー」


 千草は自分のスマホを見て目をキラキラさせる。

 まるで大物を倒したかのような反応だ。


「この調子であと10匹ほど狩ろうか」


「えっ? 10匹も?」


 驚く千草。

 1匹で満足しているようだ。


「最低でも5匹だな」


 俺は詳しく説明した。


「材料からメシを作るにしても、食費は1食当たり2000~3000ptはかかるだろう。栗原も含めると5人になるから、1食にかかるお金は多めに見積もると計1万5000ptってところだ。日に2~3回は食事することを考えると、日に10万くらい稼ぎたい。クエスト報酬は最初だけだからな」


「たしかに」


 千草は感心したように俺を見る。


「やっぱり大地君はプロだね。凄い考えてる」


「一応リーダーだからね」


 どういうわけか、俺はリーダーに任命された。

 波留が提案したことだが、千草と由衣もそれに賛成を表明。

 更にはまともに話したことのない歩美ですら、ラインで賛成した。


「じゃあ、この後も探索ということでいいでしょうか? リーダー」


 千草がニヤけ気味に尋ねてくる。


「そうしよう」


 俺が頷くと、彼女は「ラジャ」と敬礼する。

 制服を着た美少女の敬礼姿に、新たな性癖が目覚めそうだった。


 ここだけの話、俺は今を楽しく思い始めていた。

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