004 ファイヤースターター様々だぜ

 案の定、どこからともなく商品が現れた。

 俺の購入した商品――ファイヤースターターの登場だ。


 ファイヤースターターとは、キャンプグッズの一つ。

 点火棒と呼ばれる棒をナイフ等で擦り、その際に出る火花で火を熾す。

 このファイヤスターターには、ナイフの代わりにプレートが付いていた。

 価格は500pt。


 ググった知識によれば、コレを使った火熾しはとんでもなく簡単だ。

 コイツがあれば、きりもみ式などという原始的な方法は必要ない。


「なにこれ?」


「変な黒い棒と銀のプレート?」


「何に使うんだろう?」


 首を傾げる女子達。


「クックック」


 俺はドヤ顔で笑う。


「火を熾すのに使う道具さ。見てな」


 女子達の集めた枯れ草をまとめて山にする。

 それらの下に、両手で持ったファイヤスターターを入れた。

 プレートと点火棒をマッチの要領で素早く擦る。


 ボッ。


 あっさり火が点いた。

 作業時間は1分にも満たない。数十秒。


「「「すごっ!」」」


 女子達の反応が俺をますます調子づかせる。


「これはファイヤスターターといって、誰でも簡単に火熾しができる道具さ。これがあれば、3人も焚き火を」


 チャリーン♪


 話している最中にスマホが鳴る。

 またしても〈ガラパゴ〉だ。

 履歴を確認してみよう。


=========================

クエスト『物を買おう』をクリア:10,000ptを獲得

クエスト『火を熾そう』をクリア:10,000ptを獲得

=========================


 どうやらクエストをクリアしたらしい。

 所持金が4万ptになった。


 今度はクエストを確認する。

 クエストの内容はサバイバル活動に関連しているものが多かった。

 火を熾そうとか、料理を作ろうとか。

 クエストの報酬額は基本的に1万ポイントだ。


 また、既にクリアしたクエストは「クリア済み」になっている。

 報酬は1度しか発生しないようだ。


「藤堂、その火を熾すやつ貸してもらってもいい? 私達もクエストをクリアしておきたいから」


 由衣がブツをよこせとばかりにこちらへ手を向ける。


「別にいいけど――」


 俺はファイヤスターターを渡しながら言う。


「――他人が買った物でも問題ないのかな?」


「それも今から分かるよ」


「そっか」


 由衣は枯れ草にファイヤスターターを近づける。


「持ち方とかこれで大丈夫?」


「大丈夫だと思うよ」


「ならいいけど」


 由衣が俺と同じ要領で火を熾す。

 最初の数回は火花が引火しなかったものの、すぐに成功した。


 チャリーン♪


 それと同時に由衣のスマホが鳴る。


「どうやら他人の道具でも問題ないようだな」


「そうみたいね」


 由衣がファイヤスターターを波留に渡す。

 波留もサクッと火を熾し、最後に千草も皆に倣った。

 こうして、全員が「火を熾そう」のクエストを達成する。


「思ったより煙がでないね」


 俺の作ったひときわ大きな焚き火を見ながら、由衣が呟いた。


「これじゃ歩美に目印として教えられないじゃん!」


 波留が唇を尖らす。


「木の枝とかもっと追加するといいのかな?」


 千草が答えを求めるように俺を見る。


「いや、それはよろしくない。火力が上がるだけで煙は増えない」


「じゃあ、どうやったらいいの?」


「燃料を変えるんだ。煙を出しやすい物を燃やす」


 俺は〈ガラパゴ〉で商品を物色する。

 煙を上げるのに適した商品が何かしらあるはずだ。


 最初はゴムを燃やそうと考えた。

 ゴムは燃えると強烈な煙を放つことで知られている。

 ただ、その煙が安全かどうか分からないのでやめた。


「このアプリ、材料と完成品で価格に大きな差があるんだな」


 商品を眺めていて気付いた。


「どういうこと?」と由衣。


「例えば焚き火だ。焚き火という商品もあって、買うと目の前に完成した焚き火を設置できるらしい。だが、コイツの値段は2000ptもする。たった1回の焚き火で2000ptだぞ。ファイヤスターターを500ptで買って、自分達で材料を集めれば、何度だって焚き火ができるのにさ」


「なるほど」


「本当だ。藤堂君の言ったとおり、食材は安いのに完成した料理は高いよ」


 千草が「ほら」と言って画面を見せる。

 調理前の鮎は1匹250ptなのに、鮎の塩焼きは1匹3000ptだ。


「お腹いっぱい食べようと思ったら自分で調理する必要があるね」と由衣。


「やったな千草! 得意の料理技術を活かせる時だぞ!」


「おいおい」


 俺は苦笑いで割って入った。

 話が脱線しているぞ。


「今は栗原との合流について考えるべきだろ、メシはその後だ」


 3人は笑いながら反省の弁を述べる。


「よし、これにしよう」


 俺が狼煙の燃料に選んだのはスギの葉だ。

 こんな物まで売っているのか、と見つけた時は驚いた。

 価格は100グラム当たり100ptとリーズナブルだ。


「どうしてスギにしたの? 他じゃダメなの?」


 由衣が興味津々といった目で見てくる。


「針葉樹なら何でもいいと思う」


「どういうこと?」


「針葉樹は燃えると煙がすげーでるんだ。だから狼煙を上げるには針葉樹の葉を燃やすってのがサバイバルだと基本だよ」


「そうなんだ。やっぱり藤堂は頼りになるなぁ」


「まぁな」


 ドヤ顔で笑う俺。

 もちろん、これもググって得た知識だ。


 正直、俺には針葉樹と広葉樹の違いすら分からない。

 適当な葉を見せられて「これはどっち?」と訊かれたらおしまいだ。


 そんな俺でも頼れる男として振る舞えている。

 流石はググール先生だぜ。


「うおおおおおおおおお!」


 波留が叫ぶ。

 燃えたスギの葉が大量の煙を上げ始めたのだ。


(これ大丈夫なのか……?)


 煙の量は俺の想像を遥かに凌駕していた。

 俺のイメージは、一筋の煙が空に上っていくもの。

 しかし現実は、大火事でも起きているかの如き勢いだ。

 煙の向こうが完全に見えなくなるほどである。


「すごっ! 藤堂、凄すぎ!」


「藤堂君は本当にサバイバルの達人だ。カッコイイよ」


「これなら歩美もすぐに気付くだろうね」


 女子達は純粋に目を輝かせている。

 空を覆いそうな煙を見てたいへん満足気だ。


(早くここから逃げよう。この煙の量はヤバいって)


 心の中で泣きながら、俺は「狼煙なんて余裕だよ」と笑った。

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