第6話 秘密は守れてもきみは守れない。

 「おいカルージュてめぇ!!今いいとこだろ!玲がなんかいかけてくれてただろうがよっ!!」


 そう叫びながら太郎はカルージュに頭突きする。


「グフォゥ!」


 いいところに入ったのか、なんだか痛そうなくぐもった声が聞こえた。


 太郎は一瞬カルージュがダウンしている隙にあたしに言う。


「玲、今すぐ逃げろ。こいつは裁判官だからいい奴そうに見えるかもしれねえが、なんだかんだ言ってだいぶ非道なことを平気でしてくる男だ」


 あたしの中で、裁判官がそんなんでいいのか。という疑問がちらついた。太郎は続ける。


「とにかく走れ。こいつの目的は俺を監視することだが、同時に俺の周りの人間を観察する仕事も担ってるから、おまえを標的として攻撃してくる可能性も十分ある。犬になって弱っちまった魔法では、おまえを庇いながら逃げるのは無理だから、今はとりあえず逃げろ。また今度、どっかで会おうぜ」


 嫌な予感がした。何かを失う前の予感。昔、あの日、お父さんが点滅する青信号を走って渡ろうとした時も感じた感覚。


「待って、裁判官で、監視の役目を担ってて、なんであたしを攻撃する話になるのさ!意味わかんないよ」


「さっき、この世界は救いようがないって話したろ。あれをもしあいつが“少女とおしゃべりするのにうつつをぬかして救おうとしていない”と捉えていたらどうするよ」


 嫌な予感が10倍に跳ね上がった。


「とりあえず逃げろ!違ったら違ったでいいんだ!もしそうだったら危ないから今は逃げろって話だ!」


「いや。いや!あたしは太郎と一緒じゃなきゃやだ!」


 必死に抵抗してみる。嫌な予感が当たった時がいちばん嫌な感覚がする。あの感覚はもうこりごりだ。


「逃げろ。今すぐだ」


 太郎が怒った。でも、引き下がるわけにもいかな


「ぐふっ…!?」


 なにかに突き飛ばされた。たぶん、太郎の魔法だ。


「来んなよ」


 あたしはそこで太郎に近づけなくなった。怖かった。太郎が。


 突き飛ばされた反動で尻餅をついていたあたしはゆっくり立ち上がって砂を払う。ここまでか。まあ、友達のことは信じるものか。



「……わかった。でも太郎、絶対、また明日だから。また、明日ね」

 


「ああ、また明日な」



 あたしは、太郎のいつも通りの優しい声のトーンに安心して、走り出した。


 また、明日。

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