第25話あなたに会うために
「お、おれ、有未と結婚するの!?」
「そ、そうだよ!子供だってできたんだから」
「こ、子供!?それ、俺の子供なの!???」
テンパったあまり、空太は有未の大きなお腹を指さした。
「・・・・・・・」
「・・空太、もしかして、〝タイムトラベル〟してきた?」
「え?」
「あの時の・・・〝あなた〟?」
「あの時って・・・・?」
「ほら、私が砂原さんに深山前SAの裏の林で殺されそうになって、五年後の空太がエリーさんと助けにきてくれて・・・」
「あ、そ、そう、そう。気づいたら、さっき、橋の上で立ってた」
「・・・・あーなるほど。そうゆうことか・・・」
「そうゆうことって?」
状況を理解したらしい有未はお腹をおさえながら、公園のベンチに腰をおろした。
「あの後、エリーさんが砂原さんを手をかけて、次の瞬間に空太とエリーさんはその場で消えて・・・中三の空太にそれとなく聞いてみたけど、当然、何も知ってなくて・・・」
「あの後、あなたに言われたとおり、空太と観覧車乗って、そこで告白されて、付き合うことになって」
「まあ、そのまま交際続けて、結婚は就職したらって思ってたけど、子供ができたことが判って、空太に相談したら、じゃあ結婚しようって」
「え・・・あ、てことは、俺たち、学生結婚!?」
「そう」
(だ、大丈夫なのか・・・?それは)
「さ、さっきの男は・・?家の前で、一緒に車降りてた」
「さっき・・?ああ、あの人は従妹のお兄さんだよ。駅からの道がわかんないって言うから、駅で待ち合わせしてそのまま助手席乗ってナビして案内してたの」
「で、でも指輪。おそろいの」
「おそろいじゃないよ。お兄さんも結婚してて、まあ、たまたま同じブランドの似たようなデザインのやつになっちゃってたけど。空太は失くしそうだからって、空太の指輪は私が預かってる」
「そ・・・そうなんだ」
空太があまりにパニックになっているため、会食は先に始めてもらう連絡をいれて、空太が落ち着くまで、公園のベンチで二人で話すことにした。
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「あの、さ・・・」
「ん?」
「砂原エリって、死んだよな・・・?」
「・・・うん。あの後すぐに警察呼んで、砂原さんのお母さんと口裏合わせて、私達が駆けつけたときには亡くなってたってことにした。さすがに事故死にはできないからね」
「お、お母さんは、大丈夫なのか・・?あの後」
「気丈にはふるまってたけど、多分、かなり落ち込んでたと思う。でもあの時、あの秘密を共有しているのは私と砂原さんのお母さんだけだから、毎年一緒にお墓参り行ってるよ」
「そ、そうなんだ・・・」
エリーの最大の目的は、自殺した母を救うことだった。深い悲しみを与えてしまったことには変わりないが、エリーの目的は達成された。
「あのさ、空太・・・」
「ん?」
「多分、〝あなた〟がいた未来では・・・きっと、私は砂原さんに殺されたんだよね?」
「・・・ああ、うん。しかも、たくさんの人を巻き沿いにしてさ。俺とエリーは、それを止めるために、タイムトラベルしてきたんだ」
「やっぱそうか。でも、なんか不思議だよね、被害者の私が自分を殺した人の墓参りに毎年行くなんてさ。しかも、そのお母さんと一緒に」
そう呟いて、有未は複雑そうに笑った。
「有未・・・」
「でもさ、未来からきた砂原さんが私達を命がけで守ってくれたのも事実だしね」
「・・・そうだな。俺も、エリーがいなかったら、絶対、死んでたから」
「・・・・・・・・」
二人の間に、沈黙が流れた。
「あ、あとさ、あの日、ピースランドに地元のテレビ取材来ててさ、私たち、テレビ映ったんだよ」
「え、マジ!?」
「うん。ほら、これ」
有未は鞄からスマホを取り出し、その時のテレビ映像を見せてくれた。画面には、テレビ局のアナウンサーがマイクを持って中継していた。
『今話題の新作アトラクション、エミリーの館に来ています!早速、体験した人に感想を聞いてまわりたいと思います!あ、そこのお兄さん~』
アナウンサーに声かけられ、中三の空太は振り返った。
『あ、はい』
『今日はデートですか?』
『えっと、来るまでは友達だったんですけど、さっき、エミリー入る前に観覧車で告って、OKもらいました!!』
『わ~!!おめでとうございます!!』
『ありがとうございます!!有未~大好きだ~!!』
『ちょ、空太、恥ずかしいって~』
「なにこれ・・・はず・・・」
浮かれすぎてテンションおかしくなってる空太からろくな感想が出るわけもなく、質問は打ち切られた。
『た、大変元気な彼氏さんでしたね~。次は、ここで働くスタッフの方に、お話を聞きたいと思います。星野さ~ん』
『は~い』
画面には見たことある顔が映った。
(あれ・・・・星野って・・・)
『大盛況ですね~』
『はい、今ピースランドで一番人気のアトラクションです。私がピースランドに入社して十年経つんですけど、今まで今日が一番混んでるかもしれません(笑)』
『そう、実はこの星野さん、大変お若いですが、ピースランドに十年も勤めているベテランさんなんです!!ピースランドで働くことが子供の頃からの夢だったそうで・・』
『はい、私、双子の姉がいるんですけど、子供の頃よく一緒に遊びにきてたんです。それで、姉にそんなにピースランド好きなら、将来一緒に働こう!って言われて(笑)』
『素敵なお姉さんですね。では、お姉さんもピースランドで働いて・・?』
『姉は自衛官です。今日、テレビ出るかもって話したら絶対録画するって言ってくれました(笑)』
『自衛官!!かっこいいですね!!』
『はい。私が少し抜けてるので、いつも世話してもらってます』
『では、そんなお姉さんに一言頂けますか?』
『お姉ちゃ~ん。いつもありがとう~!これからも仲良くやってこうね~』
(そっか、エミリー事件起きてないから、誰も死んでないんだ)
星野のインタビューを終えたアナウンサーは、また別の家族に声をかけた。
『今日はご家族で来られたんですか?』
『はい、実は先週のハロウィンの日にも子供と二人で来たんですけど、パパが仕事で来れなくて。子供がどうしてもパパと行きたいっていうから、また来ました(笑)』
『素敵なご家族ですね~』
『はは、嫁にはいつも子供に甘いって怒られっぱなしです(笑)』
そこには、心から幸せそうに笑っている岩田も映っていた。
「・・・・良かった」
「え?どうしたの?」
空太が涙ぐんでいると、よこから有未が不思議そうに覗き込んできた。
「い、いやなんでも・・・」
「?」
「・・・に、してもさ」
「ん?」
「告白して、オッケーもらえたってことは・・・お、お前も、俺のこと、ずっと好きでいてくいれたんだなあって・・・」
嬉しくなった空太は照れたように空を見上げた。
(じゃあ、ハロウィンの時にあんな小細工する必要なかったな・・・)
「いや、違うよ?」
「え?」
驚いて有未の顔を見ると、何言ってんだコイツ、といった顔をしていた。
「空太はずっと大切な友達だし。異性として見たことはなかった」
「え?え?じゃあ何でOKしたわけ?」
「あの時、・・・五年後の空太会ってから、見る目が変わったというか・・・」
「あの時?」
有未は静かに頷き、少し頬を赤くして呟いた。
「あの時、私のこと命がけで守ってくれたでしょ。二十歳の空太って、こんな感じなんだ。・・・結構、かっこいいじゃん、て・・・」
「え、じゃあ、将来、俺の家設計するって言ってたのは・・・?」
「あ、あれは〝友達〟としてだよ!あの時もそう言ったじゃん!!」
「と、遠回しのプロポーズじゃなかったのかよ!!」
「そ、そんなわけないじゃん!!ちゃんと言ったでしょ、大切な友達だからって!あの時は本気でそう思って言ったのに、キモイこと言わないでよ!!」
「キ、キモ・・・・!!」
まさかの真実に空太は衝撃を受けたが、気を取り直して会話を続けた。
「・・・じゃ、じゃあ、有未は、五年後の俺に期待して告白受けてくれたわけだ・・・?」
「う、うん。まあ、そうだね。・・・あなたに、」
「?」
「〝あなた〟に、会うために・・・ずっと、待ってた」
「有、有未・・・・」
「でも、空太は大丈夫なの?」
「え?な、何が?」
「いきなり子供なんかできて。今のあなたが望んだタイミングじゃないでしょ?」
「それえは・・・そうだけど、・・・でも、」
「でも?」
空太は一瞬目を泳がせたが、あらためて有未に向き合った。
「有未がいない未来よりは、今のほうが、全然良い」
「空太・・・・」
「有、有未!も、もう一度!ちゃんと言わせて!!」
「は、はい」
空太は、真剣な顔で有未の手を握った。
「ず、ずっと、有未のことが好きだった。俺と、付き合ってほしい」
「・・・・・はい」
「よ、良かった!!う、うう~」
「もう、空太、泣いてる(笑)顔がピーマンみたいになってるよ~」
有未は優しく微笑み、空太は、そんな有未を優しく抱きしめた。
(・・・・ピーマンみたいな顔ってなんだ・・・?)
心の中でつっこみながらも、空太は黙って有未の肩に顔をうずめ、泣いた。
愛する人の不思議な感性に時折首を傾げながらも、これから幸せな日々を紡いでいける。その喜びを、空太は嚙み締めた。
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「・・これが、俺とエリーがあそこまでたどり着いた経緯です」
「・・・そう」
あれから数週間後。空太は、砂原エリの墓の前で、砂原エリの母親に、全てを話した。
砂原エリの墓は、見晴らしのいい丘の上に建てられていた。
「エリーがいなければ、俺はここまでこれませんでした」
「・・・それはきっと、エリもそう思ってると思うわ。最後まで、あなたに感謝していたもの」
「・・・・・・・」
「ありがとう、空太くん」
「いや、俺は何も」
「いいえ。あなたは・・・エリの、・・・最初で最後の、本当の友達になってくれたじゃない」
そう言って、砂原エリの母は、優しく微笑んだ。
「お母さん・・・・」
「・・・陸人くんは元気?」
「はい。なんとか無事産まれて・・・まだまだ目が離せませんが・・・初めての子育てで、不安も多くて・・」
「あなたたちの子なら、きっと大丈夫よ。あんな困難を乗り越えた、あなたたちなら」
「・・・・ありがとうございます」
「では。私、これから趣味のお稽古の時間だから、もう行きますね。またお盆に」
「は、はい!気をつけて!!」
空太は母親に手をふり見送ったあと、エリーの墓に向き直った。
エミリー事件は阻止した。有未の命も助かった。全ては、無事、解決した。
しかし空太には、ある疑問があった。
(・・砂原エリが今まで殺した人間は、大山あきら一人だけなんだろうか・・・?)
邪魔な人間は徹底して排除してきた砂原エリのことだ。被害者が一人とは限らない。
(まあ、ネットで砂原エリの周辺を調べた限りは、他に被害者はなさそうだったから、大丈夫か・・・?)
それに。エリーの目的は母の命を救うことだ。今更そんな不確定な疑問を母親にぶつけたところで、何の意味もない。
「お前のお母さんは幸せに生きてる。それでいいよな・・・?相棒」
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空太に見送られ、砂原エリの母親は、駐車場に停めていた車に乗り込んだ。
助手席には、綺麗な仏花が置かれていた。
母親は、運転席の前に置いてある、娘の写真に語りかけた。
「・・・・エリ。あなたの今までの罪は、私が墓場まで持ってくからね」
そう言って、母親は車を発進させた。
最愛のエミリーを殺すために @miyabi5
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