第24話大好きな、ママ
「ママ、やめて、離して!!」
「おとなしくなさい、エリ」
「どうゆうことなの、ママ!?私、ママの娘なんだよ!?私を本気で殺すつもり!?」
「・・・・・・・」
「ママは、ママは・・・私のこと、愛してないの!?」
「・・・・・何言ってるの、エリ」
暴れる砂原エリをおさえながら、母親は静かに口を開いた。
「・・・・愛して・・・・」
「愛してないわけ・・・ないじゃない・・・」
そう言って、母親は、静かに涙を流した。
「は、はあ!?意味わかんない!!」
「エリ。あなたが産まれてから、私は・・・どれだけ、」
「どれだけ・・・幸せで・・・」
「そして・・・・・・」
「どれだけ、辛くて、孤独だったか・・・・・」
言いながら、母親は辛そうに、砂原エリの肩に顔をうずめた。
「・・・・・・・・」
(・・・・・・ああ、そうか)
その母親の様子を見て、空太は悟った。
「あんたの負けだ、砂原エリ」
空太は倒れてるエリーに肩を貸しながら、砂原エリを見た。
「確かに、あんたは誰よりも強い。・・・俺だって、何も知らずに普通にあんたと出会ってたら、きっと、あんたのことを慕ってたと思う。あんたに救われた人間だっていただろう」
「美しくて、成績優秀で、優しくて、でも人間らしいちょっとした隙もあって・・・そんな〝完璧な人間〟をあんたはずっと演じていた。・・・・・母親の前でも」
「でもきっと、あんたの母さんは、それを見抜いていたんだ。あんたの奥に秘められた、本当の、砂原エリの〝本質〟を」
「・・・なにそれ。ママは、私のこと、ずっと疑ってたわけ?」
「そうじゃないよ、砂原エリ。あんたの母さんは、誰よりもあんたのこと、信じていた。愛していた。だからこそ、あんたの正体に気づいていたんだ」
「俺もエリーも、あんたには敵わなかった。でも、あんたの母さんは、あんたを心の底から想っていた。だからこそ、あんたは負けたんだ。あんたには到底理解の及ばない・・・母親の、深い愛に」
空太に肩を貸されながら、エリーは砂原エリのもとへ歩み寄り、首に手をかけた。
「・・・・ひッ」
砂原エリは、初めておののいた表情を見せたが、母親に抑えられているため、逃げることはできない。
「・・・エリ、一瞬でやってあげて。せめて、苦しまないように」
「や、やだ、ママ!離して!!」
「これは私への罰でもあるのよ、エリ。あなたの正体に気づいていたのに、あなたを救ってあげることができなかった・・」
自力で立てるようになったエリーから手を離した空太は、木に手をついて立ち尽くしている有未の元へ駆け寄った。
「有未」
「そ、空太」
「あっち、向いてて。俺はちゃんと見届けるけど。お前は、見ないほうがいい」
そう言って、空太は有未の肩をつかみ、砂原エリたちから背を向けさせた。
「空太!」
声に振り向くと、エリーはこちらを見ていた。
「今までありがとう」
「・・・・・・」
「・・・最初は、なよなよしてて、情けない奴だと思ってたけど、彼女ちゃん守るために一生懸命走ってるあんた・・・結構・・・好きだったよ、」
「エ、エリー」
「・・・じゃあね」
そう言って、エリーは砂原エリに向き直った。
もう全てが終わる、そう悟った空太は、砂原エリに背を向けている有未の前に回り込んで、有未の目を見た。
「あのさ、有未」
「な、なに?」
「えっと・・・あの・・・その」
「え、なに?なんなの?」
こんな状況でしどろもどろになる空太に、有未は少し苛立ちを見せた。
「お・・・俺と・・・」
「俺と?」
「中三の俺と一緒に、ピースランドの、観覧車に乗って、一緒に花火を見てやってほしい!!」
「・・・・・・え?」
予想外の言葉に有未は首を傾げたが、空太はかまわずに続けた。
「今の時代にいる、中三の俺はハタチの俺が来てることとか、何も知らないんだけど。と、とにかく何も聞かずに、一緒に、行ってやって・・・」
「・・・・・・・・」
「頼む!」
「?・・・わ、わかった・・・」
腑に落ちない顔をしながらも、なんとか有未は了承してくれた。
そして、空太は顔を上げて、エリー達を見た。
「愛してるわ、エリ。・・・・・ずっと・・」
「誰よりも、あなただけを・・・・」
母親の言葉を受け、エリーは優しく微笑んだ。
「わかってるわ、ママ」
「・・・・・ずっと、元気で・・・長生きしてね」
そう答えて、エリーは砂原エリの首に手をかけ、力を込めた。
骨が砕ける音が聞こえた、次の瞬間、空太はまぶしい光に包まれた。
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「・・・・はッ」
空太が気が付くと、そこは林の中ではなかった。
「え?え?」
辺りを見渡すと、そこは大学近くの橋の上だった。日も明るい。橋の欄干に手をかけて、立っている状態だった。
(ここは、エリーと最初に会った・・・)
空太の手には、スマホが握られていた。
(スマホ・・・)
スマホの画面を見ると、写真フォルダが開かれていた。そして、その写真は・・・
「有、有未・・・と、俺」
ピースランドの観覧車の中で自撮りしている中三の空太と有未が映っていた。
空太は涙目で、有未の胸にはサイのぬいぐるみが抱きかかえられていた。二人の背後には花火が映っている。
(こ・・・これは・・・・!)
スマホの日付を見ると、2023/11/1となっていた。
「か、帰ってこれた・・・!?現代に!?・・・・あ!!」
興奮のあまり、手を滑らせて、スマホを下の川に落としてしまった。
「あ?あああああああ」
慌てて下を覗き込んだが、川の流れが早く、スマホは流されてしまった。
「う、うそおお」
空太は肩を落とした。しかし・・・・
(有未は、五年前の俺と一緒にピースランドに行ってた)
(有未は・・・助かったのか?)
空太は、とりあえず有未の家へ向かった。
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有未の家の前にたどり着くと、家の前には一台の車が止まっていた。その様子を、空太は物陰から観察していた。
「有未の家の車じゃないよな・・・?」
しかし、その助手席から、有未が出てきた。
(有未・・・!生きてたのか・・・・!)
「う・・・!」
思わず駆け寄って、抱きしめそうになった寸前で、運転席から見知らぬ男が降りてきた。
(え・・・・?)
そして、彼は車の前を回って有未の横へ駆けつけ、有未の手を取った。
彼の左手の薬指には、ゴールドの指輪がはめられていて、そして・・・・
有未の左手の薬指にも、同じ、ゴールドの指輪がはめられていた。
(え・・・・ええ・・・?)
後ろで立ち尽くす空太には気づかず、有未は彼に手を引かれて家の玄関に向かって歩き出した。
二十歳になった有未のお腹は・・・・大きかった。
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「うっそお・・・・・」
空太は何も言わずにその場を立ち去り、近くの公園のベンチでうなだれていた。
(まあ、ハタチだもんな・・・。結婚しててもおかしくないか・・・)
「俺はまだ学生だけど・・・・」
財布に入っていた自分の学生証を見つめ、呟いた。
(じゃあ、何で〝俺〟はあの観覧車の写真をわざわざ開いて見てたんだ・・・・?フラれたくせに)
「・・・・・・・・・」
(まあ、いいか・・・・)
有未は、生きてる。有未を助けるために、エリーと手を組んで、あそこまでやってきた。仮に、有未が選んだ人が空太じゃなかったにしても、目的は無事達成できた。
「そういえば、エリーはどうなったんだ・・・?」
(やっぱ死んだのかな・・・・?)
「空太ーーーーーー!」
空を仰ぎながら色々と思考を張り巡らせていると、公園の入口の方から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「え・・・?」
声のした方へ向き直ると、そこには、臨月の有未が立っていた。
「う、有未・・・」
(何でここに?)
混乱する空太をよそに、有未は少し怒った様子で近づいてくる。
「ちょっと、どこで時間つぶしてるの!みんな待ってるよ!!」
「みんな・・・?」
「・・・・え?もしかして、今日の約束、忘れてる?」
「やくそく・・・?」
「だから、今日、私と空太の家族でうちの家で食事する約束してたでしょ!私たちの入籍を祝うために!!」
「ニュウセキ・・・・?」
「そうだよ!え、大丈夫?」
「誰と、誰が・・・?」
「私と空太でしょ。え、本当に大丈夫?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え!えええええええええええ!!」
空太は、今までで一番のパニックに陥った。
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