第23話エリーとエミリー

「マ、ママ・・・・!?」


さすがの砂原エリも動揺を隠せなかったらしい。かなり驚いた顔で母親を見ていた。


「ママ、どうしてここに・・・!?」

「あなたのスマホのGPSを追ってて。やっと、電波が入って、ここにたどり着いたの」


(お母さんも砂原エリを追ってたのか・・・!?)


(でもどうして・・・?)


「ずっとあなたの様子がおかしかったから。あの日の夜、あなたは殺されかけたのに、警察には通報しないでって頑なに言うし、週末の合宿にも絶対行くって聞かないし・・・何かあるのかと思って」


(え・・・・!?通報してなかったのかよ!?何で!?)


まさかの真実を聞かされて、空太は砂原エリを見た。


「・・・・・・・・」


砂原エリはバツの悪い顔をしていて何も言わなかったが、空太は、ある一つの仮説を立てた。


「・・・・この合宿が、有未を殺す最大のチャンスだったからか?」

「・・・・・・」


空太の質問に、砂原エリは何も答えなかったが、空太は続けた。


「きっとあんたの事だ。今の今まで完璧な人生を送ってきたんだろう。あんたの本性を一瞬見てしまった、有未を覗いて・・・」


「多分、小学校の時はそのうち忘れるだろうと思って見逃したけど、数年後に、あんたは模試のランキングを見て、有未が同じ系列の塾に通って居ることを知った。多分、有未の事、色々調べたんじゃないか?」


「今の有未は、小学校のときの有未と違う。友達も多くて、成績も優秀。もし、今の有未があんたの正体を周りに話せば、周りの人間から信頼を失うかもしれない。完璧主義のあんたは、そんな不安要素を一つでも取り除きたかった」


「・・まあもし、有未がにっしゃんみたいな性格だったら、うまいこと洗脳してごまかせたかもしれないけど、有未は、ちょっと、こだわり強いっていうか・・ああゆう感じの流されやすい性格じゃないし、自分の秘密を話される前に、事故にみせかけて殺そうとした」


空太は、ここに来るまでにエリーと交わした会話を思い出していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあ、つまり砂原エリは、あんたの彼女が同じ塾にいること知って、昔の本性バラされないために口封じで殺したってこと?」

「・・・多分、そうだと思う。でも何で有未の居場所が・・・」


(タイムトラベル前と後で、いる場所が違うのに・・・)


【今週末、学校帰りにピースランド行ってくる!!楽しみだけど、ハロウィンの31日だし、やっぱ混むかな~?( ・´ー・`)】


【今週末合宿だあああ(*´Д`)】


「・・・あ、そうか」

「え、なに?」

「多分、砂原エリは有未のSNS見たんだと思う。あいつ、アカウントに鍵とかかけてなかったから、誰でも見れるようになってたし」

「それで、タイムトラベル前はピースランド、今は合宿まで追いかけてきたってこと・・?」

「多分、そう。つまり、エミリー事件は無差別殺人じゃなかった。最初から有未だけが狙いだった。でも、有未だけ殺して逃亡するのは難しいから、そこにいた人間全員殺した。周りや警察に、無差別殺人だと思わせるために」

「・・・・そんな・・・・」

「有未、SNSで日常の呟きよくしてたし。多分、それを見て、有未の性格や現状を読み取って、危機感抱いたのかも」


さすがのエリーもおののいた顔でハンドルを握った。


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(そして、その動機を知られたくない深層心理が影響して、エリーは事件のことを知ろうとすると拒否反応が出ていた・・・)


エミリー事件の全容が判った空太は、砂原エリの母親を見た。


「・・・お母さんは、最初から合宿に着いてくるつもりだったんですか?」


「それとは別に、にっしゃんちゃんに電話したら、この二人が出て・・・」

「・・・・あ、バレてました?」

「いえ、最初はわからなかった。でも、電話が切れる直前で、二人の声が聞こえて・・・」


(・・・・そういえば、電波で通話切れるとき、俺ら普通に地声でしゃべってた・・・あれ、聞こえてたのか・・・)


「そこで、あの時、私の家に来た〝彼ら〟だとわかった。そして・・・」


砂原エリの母親は、その場でうずくまっているエリーを見つめた。


「そして・・・その一人は・・・・・私のこと、〝ママ〟って・・・呼んでいた」


(あの時・・・聞こえてたのか・・・)


「彼らがあなたの居場所を知りたがっていることが判って、私も、急いでここに向かったの」


砂原エリの母はうずくまるエリーに近づき、腰を落とした。


「ねえ・・・あなたは・・・・」


「あなたは・・・・私の、〝エリ〟なの・・・?」


「ご・・・ごほッ・・・うッ・・・」


エリーは血が流れる腹を抑えながら、顔を上げ、震える手で、砂原エリを指さした。


「私は・・・こいつを殺すために、二十五年後から、来た・・・」


「こいつは、同じ、小学校の同級生を殺し、今も、私たちを殺そうと、している・・」


「な、何言ってんの、あんた!そんなでたらめ・・・」


「私のいる未来では、たくんさんの人を殺した・・・」


エリーは力をふり絞り、腹からナイフを抜いて立ち上がり、フラフラな状態で砂原エリに歩み寄った。


「殺さなきゃ・・・殺さなきゃ・・・」


フラフラのボロボロになりながら、エリーは砂原エリにナイフを向けたが、当然のように振り払われ、エリーは再びその場に倒れた。


「何言ってんの!?このおばさん!!」


「ママ、こんな奴のいうこと信じないで!!ママの娘は私だけ!!あの夜見たでしょ?私、この人達に殺されそうになったんだよ!?今も急に襲ってきて、だから、ずっと逃げ回ってたの」


ボロボロで倒れたエリーの目からは、涙がこぼれていた。それでもなお、エリーは震える体で、血を吐きながら、立ち上がろうとしていた。


「エ、エリー・・・」


もう完全に勝ち目はないのに、まだ立ち向かおうとするエリーの姿に、空太も涙を流し、震える足で、エリーの元へ駆け寄った。


「エリー、立てるか・・・?」


エリーの想いを叶えてやりたい。そのためにここまで頑張ってきた。

しかし、それはもう敵わない。


「エリー、ごめん。俺が弱いせいで。何の役にも立てなくて・・・本当にごめん」


「そう・・・た・・・」


「エリー。もういいよ。有未は助かったんだし、もういいよ。俺たち・・・」


「もういい。もういいんだ。もう、未来へ帰れなくても。お前はよくやったし、お前の面倒は俺がみるから、もう、逃げよう。二人で逃げよう。どこかで静かに暮らそう」


「ダ・・・ダメ・・・ころ、殺さなきゃ・・」


エリーはうわごとのように、殺さなきゃ、とひたすらに呟いていた。


「ほら、ママ。見たでしょ?今もこうやって、私のことを殺そうと・・・」

「わかったわ。エリ。あなたの事情は」


そう言って、母親は砂原エリに歩み寄り、頬を撫でた。


次の瞬間。


その場にいた、全員が、目を疑った。


「わかったわ。エリ。気が済むまで、おやりなさい」


母親は、砂原エリの背後に回り込み、砂原エリを羽交い絞めにした。


「・・・・・・!?」


想定外すぎる出来事に、砂原エリは目を見開いていた。


「え?え?」


空太もエリーも混乱していた。


「ちょ、ちょっとママ・・何やってんの!?」


砂原エリは慌てて抵抗したが、母親はびくともしない。


(・・・・そういえば、)


こんな時に、空太は、以前したエリーとの会話を思い出した。父親と母親のなれそめについて聞かされたとき、空太はエリーにこんな質問をした。


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「ちなみにさ、」

「ん?」

「その、お前の親が出会った社会人サークルって、何のサークル?」

「ああ、レスリング同好会だって」

「レ、レスリング!?」


まさかの予想外のサークル内容に、空太は声を上げた。


「そう。お母さんは高校の時に全国大会行くくらい強くて、お父さんも高校、大学で国体出たって」

「へ、へえ・・・。じゃあ、お前の強さは親譲りか・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(そ、そうだ・・・確か、お母さんも強いんだった・・・・!)


「私が許すわ。〝この子〟を殺しなさい。エリ」

「ちょ、ちょっと、ママ!?」


「・・・・ただし、一瞬でね」

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