第22話最強の敵
「なんか、結構遠くまで来たね・・・」
「うん」
有未は、砂原エリと供にSA裏の林の中を歩いていた。
「・・・で砂原さん、話してもらえる?」
「ん?」
「・・・とぼけないで。知ってるんでしょ」
そう言って、有未は立ち止まり、砂原エリを睨んだ。
「知ってるって・・・・」
「だから・・・」
「さっきの話の続き!!サイの祖先がパラケラテリウムじゃない説が出てるって!!人前で話せないって言うから、ここまでついてきたんだからね!!」
「あ、・・・ああ」
「ほらほら、早く教えて教えて!!」
「あ、ちょっと、足元気を付けて。下の川の流れが早いから・・・」
詰め寄る有未から視線をそらし、砂原エリは林の下に流れている川を指差した。
「うわ、本当だ。暗くてよく見えなかったけど、落ちないように気をつけないと」
川を覗き込んだ有未の背中に砂原エリはビニール手袋をつけた手を置いた。
「そうだ・・・・ね」
「有未ーーーーーーーーー」
林の入口から聞こえた声に有未は振り向き、砂原エリは動きを止めた。
「・・・・チッ」
空太の存在に気づいた砂原エリは舌打ちをした。その音に、有未は反応し、振り返った。
「・・・・・・・何?岬さん」
砂原エリはすぐに笑顔を見せたが、有未は、何かを、思い出した。
「・・・・・・あなた、もしかして」
「有未!!有未!!」
「空太?え?あれ?」
有未の姿を見つけた空太は、有未の元へ駆け寄ったが、有未は空太の姿を見て首をかしげた。
「有未!無事だったか!良かった!!」
「え・・・と、空太?」
今の姿の空太は、五年後の空太だ。髪型も違えば、背丈も体格も違う。その姿を見て、有未は混乱した。
「あっと、詳しいことはあとで話すから、今は逃げよう!こいつは危険だ!お前を狙ってる」
「え?え?」
「・・・何言ってるの?お兄さん」
こんな時でも、砂原エリは笑顔を崩さず、笑いながら問いかけてきた。
「・・・大山あきらちゃん」
「え?」
その名を口にすると、砂原エリの顔から笑顔が消えた。
「お前が、殺したんだろ」
「・・・・なんのこと?」
「九年前、神社の池でお前が突き落として、殺した。そして、全校集会でその知らせを聞いたお前は、事故死だと聞かされて、一人で笑った。その笑顔を見てしまったのが、有未だ。そうだろ?」
「・・・・・・・・・」
「あなた・・・あの時の・・・」
有未は、砂原エリの名前は覚えてなくても、その出来事は覚えていたらしい。空太は有未の手を引いて、砂原エリから後ずさりした。
「・・・・なんのことかわからないわ」
「と、とぼけんな!!」
「確かに大山あきらちゃんは私が小学校の時に亡くなった。でも、あれは事故死よ。警察もうそう言ってたんだから」
「う、嘘つけ!エリーが全部思い出したんだ!」
「だからあれは事故死よ。なに?私に何か言わせようとして。テープでも回してるわけ?それを言うなら、先日、私の家に忍び込んで私を殺そうとしたあなたたちはどうなるの?」
「あ・・・あれは・・・!」
「え・・・・?殺し・・・?」
「ち、違うんだ、有未」
砂原エリの言葉で有未は怯え、空太は必死に弁解した。
「と、とりあえず、俺と来てくれ!有未!」
「え?え・・・?」
「だまされちゃダメよ、岬さん。そいつは私の命を狙ってる!証拠だってあるんだから」
「え、ええ?な、なになに?」
わけのわからない板挟みに合い、有未は完全に混乱していた。
「・・・・有未!」
空太は有未の両肩を掴み、有未の目を見つめた。
「とりあえず、逃げろ!!俺と一緒じゃなくていい!この林を抜けて、みんなのとこまで走れ!!」
「そ、空太・・・・」
「俺のことはいいから・・・」
「う・・・うしろ」
空太が振り返ると、空太の背後に立っていた砂原エリが、ナイフを振りかざしていた。
「ぐあ・・・・!!」
空太は有未に覆いかぶさり、ナイフは空太の太ももに刺さった。その様子を見た有未は完全にパニックになり、腰を抜かしていた。
「きゃ、きゃあああああ!」
「ぐ・・・・」
痛みでうずくまる空太の足からナイフを引き抜き、砂原エリは再びナイフを振りかざした。
「ぐ・・・!」
ナイフは空太の首元を狙ったが、何とか寸前でかわし、空太は立ち上がり、砂原エリと間合いをとった。
「有、有未・・・逃げろ。こいつは、俺が、止めとく、から・・」
「え・・・で、でも・・」
有未は、空太の後ろで完全に怯えて泣いていた。
「ひ、人・・人呼んできて。だ、大丈夫だから」
「そ、空太・・・・」
「た、頼む、人、呼んできて」
誰も巻き込みたくないから一人でかけつけて来た空太だったが、もうそんな事は言ってられない状況になった。それに、今は有未を無事に帰すことが先決だった。
「わ・・・わかった・・・」
有未が泣きながら林の入口に向かって走ろうとすると、砂原エリはダッシュで有未を追いかけた。
「!?」
(は・・・速・・・)
そのまま素早く有未を押し倒し、ナイフを掲げた。
「させるか!」
空太は痛む足で全速力で走り、砂原エリを後ろから羽交い絞めした。
「逃げろ!逃げろ、有未!」
「そ、空太あ」
砂原エリは空太を背中から引きはがし、そのまま押し倒してナイフを振り上げた。
「や、やめて、やめてぇ!!」
有未は泣きながら砂原エリの腕にしがみつき、攻撃を阻止しようとした。
しかし、また振り払われ、体勢を崩してころんだ有未の足首を、砂原エリは力のまま踏みつぶした。
「あああああああ!!」
「有未!有未!!」
どうやら足首の骨を折られたらしい。有未は立てなくなってしまっていた。
「これで逃げられない」
二人とも、足を負傷している。空太はなんとか有未だけでも逃そうと思っていたが、それも敵わなくなった。
(ど・・・・どうしよう・・・・)
負傷した有未に背を向けて、砂原エリは空太の方へ向かってきた。とりあえず邪魔な空太から先に始末することにしたらしい。さっきの全速力で力を使い切った空太は、もう立てなくなっていた。
「空太、空太あ!!」
有未が泣き叫ぶ声が聞こえた。
「う、有未・・・・」
砂原エリがナイフを振りかざした次の瞬間。
「・・・・・・・!!」
背後から、何者かによって、砂原エリは押さえつけられた。
「あ・・・?」
「エ、エリー!!」
そこに現れたのは、エリーだった。
エリーは力のままナイフをはたき落とし、砂原エリを押し倒して、そのまま首を絞めた。
「エリー!」
「待たせたね、空太。こいつは私が始末するから、あんたは彼女ちゃん連れて逃げて」
「お、おう!!」
空太は最後の気力をふり絞って立ち上がり、有未のそばへ駆け寄って、有未を立たせた。
「あ、歩ける?」
「ゆ、ゆっくりなら・・・」
「肩貸すから、ゆっくりあるこ・・」
そう言っていた矢先に振り返ると、エリーは砂原エリに投げ飛ばされていた。
「ご、、、ごほ・・・」
投げ飛ばされた衝撃で、エリーはその場でうずくまり、吐血していた。
砂原エリはその場に落ちていたナイフを拾い、エリーに刃を向けたが、エリーもすぐに立ち上がり砂原エリの腹にエルボーを食らわせた。
受け身をとった砂原エリだが、ダメージは受けたようで、痛そうに腹を抱えていた。
「・・・・・クソババア」
「三十五年後のあんただよ」
再び砂原エリはエリーに向かって突進し、激しい取っ組み合いになっていた。
「有未、今のうちに、逃げよう・・・」
「た、助けなくていいの?」
「俺が行っても、多分、足手まといになるから・・」
(また変に捕まって人質にでもなったら申し訳ないし・・・)
空太は有未に肩を貸し、エリー達を気にしながらゆっくり歩き出した。
「そ、空太・・・あの人と、あなたって・・・」
「・・・信じられないと思うけど、俺たちは五年後から来たんだ」
「五年後!?」
「そう今の俺はハタチ。あの人は三十五年後から来た砂原エリ・・・」
「ぐああああああ!」
エリーの悲鳴に振り返ると、エリーに押し倒された砂原エリのナイフがエリーの腹を貫通していた。
「エ、エリー」
エリーは再び吐血し、その場にうずくまった。
エリーの下から抜け出してきた砂原エリはナイフを取り出そうとしたが、エリーの両手に阻まれ、舌打ちした。
そんなエリーを仰向けに寝かせて、エリーの体に馬乗りになり、エリーの首に手をかけようとしたが、寸前で手を止め、瀕死で息しているエリーの顔に自分の顔を近づけた。
「あんたを殺したら、未来の私も〝死ぬ〟のかしら・・・?」
どうやら、未来の自分を殺すことにためらいがあるらしい。
「まあいいわ。・・・バイバイ、未来のおばさん」
そう言って、砂原エリはエリーの首に手をかけた。
「エリー!!」
(やばい・・・ここからじゃ間に合わない・・・!)
「やめなさい!!」
その時。後ろから、怒声が聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは。
「・・・・・・ママ・・」
砂原エリの、母親だった。
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