第18話意外な正体

「あいつ・・・砂原エリじゃなかったの!?」

「で、でも、入口の更衣室で着替えてたよな?そこからずっと目を離してないし・・・」

「・・・その時点でもう入れ替わってたのかも」

「ええ?」


確かに、空太達が到着した時で既に更衣室はコスプレした人間で溢れかえっていた。自分たちも外で見張っていたが、中まで覗き込んでいたわけじゃない。


「な、何で、そんなこと・・・どうゆう事だ、にっしゃんがエミリーなのか?」


混乱する空太の背中に回り込んだエリーは、何も言わずにマントの中をまさぐってきた。


「え、なに?なに?」

「ㇱッ!」


エリーは、自分の口の前に人差し指を立てて、黙れのジェスチャーをし、鞄からメモとペンを取り出し、何かを書き始めた。


〝声は絶対出さないで。口パクで話して〟


〝このパーカー、最後に洗ったのいつ?〟


〖・・・・?まだ洗ってない・・〗


空太が首を傾げながら口パクで答えると、エリーはまたメモにペンを走らせた。


〝盗聴器と、発信機が仕込まれてる〟


「え・・・・」


思わず声を上げそうになった空太の口を、エリーは手で塞ぎ、またペンを走らせた。


〝声は絶対出すな!!〟


エリーの真剣な表情に気圧されて、空太は黙って何度も頷いた。


〝砂原エリを襲った日、何かされなかった?〟


(何か・・・・・)


確かに、このパーカーはあの日も着ていた。


〖あの日は、揉み合いになって・・・首絞められたりしたけど・・〗


口パクで答えながら、空太はあの日のことを思い出していた。


〖そういえば・・・逃げようとしたときに、砂原エリに、突き飛ばされた。お前は、ショックで放心してたけど〗


〝じゃあ、その時に仕掛けたのかも〟


〖じゃ、じゃあ、俺たちの会話は、ずっと筒抜けだったのか!?〗


〝でも、盗聴器で聞き取れる範囲は決まってる。それに、あんたがこのパーカーをまた着るかもわからないし・・・〟


(・・・・・・・・)


空太は、砂原家から逃げたあとのことを思い出していた。


あの日、裏の公園まで逃げ込んで、落ち込んでるエリーを励ますために、空太は・・・。


(もしかして、あの会話・・・盗聴されてた!?)


あの時、自分たちがタイムトラベルしてきたこと、エミリー事件の詳細を語ってしまった。


〖じゃあ、俺たちの行動は読まれてた・・・!?〗


エリーは黙って頷いた。


〖じゃ、じゃあ、砂原エリはどこに・・・!?〗


〝わからないけど、多分、どこかで私たちを見張ってる。今こうしてる間にも、何か事件を起こすつもりかも・・・〟


空太は一気に青ざめた。


(俺のせい・・・・俺のせいで・・・)


ドンッドンッ・・・!


ショックでうなだれていた空太が顔を上げると、エリーが窓に体当たりしていた。


「な、何やってんだ!?」

「・・・やっぱ硬いのね」

「そ・・・そりゃ、観覧車の窓だから。普通の家の窓より強度は・・・それに、脱出できても、この高さじゃ・・」


そう答える空太を無視して、エリーはドアの内側に手をかけ、こじ開けようとしていた。


「え、ちょ、何を・・・」

「あきらめるしかないわね。ここでおとなしくしておきましょう」


そう言って、エリーはメモを見せてきた。


〝ここから脱出する。そして、あの子を人質に取って、砂原エリをおびき出す〟


そう示して、観覧車の中でおびえているにっしゃんを指さした。


「えっ・・・・」


〝とりあえず何もしないよりは、行動起こすしかない〟


そう書いたエリーは、メモを置いて、再びドアに手を掛けた。


「・・・・・・・・」


(そうだ・・・ここで悔やんでも、しょうがない・・・)


エリーに並んで、空太も、ドアに手を掛け、力をこめた。


「・・・・あんた、」

「そ、そうだな、あきらめよう・・・ここで、助けを待とう・・・!ぐぐッ・・」


すると、金属音が外れる音がした。


「えっ・・・」


観覧車のドアが開いた。


(す、すげえ・・・開いた・・・!)


〝命綱とかないから。気をつけて降りるわよ。あと、盗聴器と発信機はここに置いてって。壊さないようにね〟


空太は黙って頷き、エリーの指示に従った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


観覧車の柱を伝ってにっしゃんの元へたどりついた二人は、まずエリーが外から観覧車のドアをこじ開け、中に入り込んだ。


「えっ・・・なに、なに!?」

「砂原エリはどこ!?」

「え?え?なに?なに?」


いきなり突撃されたにっしゃんはかなり困惑していた。


「とぼけないで、あんた、砂原エリの仲間でしょ?」

「え?な、なかま・・・?いや、と、友達ですけど・・」

「・・・・?」


にっしゃんの返答にエリーは頭を傾げ、その様子を見た空太は、エリーに小声で耳打ちした。


「・・・エリー、ちょっとおかしくないか?」

「何で?」

「砂原エリの仲間だったら、ここで仮面を取る意味がわからない。それに、観覧車止まった時に、本当に動揺してるようだったし・・」


「ちょっと、これ見せて!」


そう言って、エリーはにっしゃんのスマホを奪い取った。


スマホを覗き込むと、学校の友人との共通のメッセージアプリに、にっしゃんが『観覧車が動かなくなった!!怖い!!どうしよう!?』と書き込んでいた。


(・・・何も知らないのか?)


「ちょっと失礼」と言って、エリーはにっしゃんの体を触り、鞄の中も見たが、盗聴器らしきものは見当たらなかった。


にっしゃんも共犯かと思ったが、どうやら何も知らないらしい。空太は、怯えてちじこまっているにっしゃんの前にかかんで目線を合わせた。


「・・・君はここで何してたの?」

「ば、罰ゲームで・・・」

「「罰ゲーム?」」


「わ、私の高校のグループで、数学のテストでビリだった人が、一番成績良かった人の言うこと聞くっていう・・・」

「・・・これが、罰ゲーム?」

「は・・・はい。指定されたコスプレで学校を出てそのまま一日一人でピースランドをまわるっていう・・・」

「・・指定されたコスプレ?」

「最初は違うお面のコスプレだったけど、ここ着く前にエリーから連絡あって、やっぱ違うコスプレの方が面白いから、ランド前の更衣室で待ち合わせてこれに着替えて・・・」


(そういえばそんな話してたな・・・)


空太はにっしゃんの質問には答えず、彼女の持っているスマホの裏側を見た。


砂原エリとおそろいの、スマホカバー。


(そういえば、スマホカバーもおそろいにしてたな・・・)


「・・・何で観覧車に?」

「それも、エリーからの指示で。メッセージアプリで次々指令が送られてきて。今から自撮り送れとか、今から観覧車乗れとか・・」


にっしゃんの言葉を聞いて、空太はエリーに目くばせした。


「そうゆうことか。やっとつながったな」

「ええ」


つまり、自分はコスプレをせずに学校を出て、コスプレしてきたにっしゃんと更衣室内で入れ替わる。


(あの時、更衣室周りはコスプレした人で溢れかえってたし・・そのままにっしゃんのコスプレ着て出れば、バレないもんな・・・)


つまり、何も知らないにっしゃんを使って空太達をおびき寄せていた。


(やはり、俺たちがピースランドで見張ってたことは、バレてた・・・)


「でも、何だってこんな変な事・・・」

「そ、それは、エリーが言ったから・・」

「え?」

「エリーの指示だから・・・」


「・・・君は砂原エリの言うことは何でも聞くの?」

「はい。エリーの言うことは絶対なんです」

「何でそこまで・・・」


「私、前のクラスでずっといじめられてて。その頃はダサいガリ勉で、ずっとバカにされたんです。でも、三年になって、エリーと同じクラスになってから、いじめられなくなって、それどころか、エリーは自分のグループにいれてくれて・・・」


「エリーのグループに入ったら、周りからも一目置かれるようになって、今までとは、まるで違う人生になって・・だから・・」

「・・・・・・」

光悦した表情で語るにっしゃんを見て、空太とエリーは目を合わせた。


どうやら、にっしゃんは砂原エリを心の底から崇拝しているらしい。


「・・・で、その砂原エリは今どこ?」

「・・・・え、えっと・・どうして、エリーを知ってるんですか?」


(・・・まあ、当然の疑問だよな)


「実は、私たち、警察なの。砂原エリさんを狙ってるって、匿名でタレコミあって。あなたが砂原エリさんだと思ってずっと張ってたの。周りに怪しまれないように私たちもコスプレして・・」


そう言って、エリーはマントを脱ぎ、コスプレ用の警察手帳をにっしゃんに見せた。


(いやいや、エリー何言ってんだ!そんな嘘信じるわけ「そうなんですね。エリーが狙われてるなんて・・」


(し、信じた!!)

とっさについたエリーの嘘に空太は呆れたが、何故かにっしゃんはすぐに信じた。


「砂原エリは今どこ!?」


「エリーは、今日、これから塾の合宿行くって・・・」


「・・・合宿?」


【今週末合宿だあああ(*´Д`)】


空太の頭の中に、有未のSNSの書き込みがよぎった。


(いや、まさかな・・・)


砂原エリを塾まで尾行したけど、有未が通ってた塾とは全然違う場所だった。名前も違う。


「・・・本当に?このランド内にいないの?」

「いや、本当だと思います。さっき、このグループ内のトークで・・・・」


そう言って、にっしゃんはエリーに奪われたスマホを取って、メッセージアプリの画像フォルダを開いて見せてきた。


『これから合宿行ってきまーす♪』


そのメッセージとともに、砂原エリと塾の友達らしき数人が駅前で撮った写真が映し出されていた。

そこは集合場所らしく、後ろで待機している塾生達が映っていた。


「・・・・・・・」


空太は、その画像を最大限クローズアップした。


「・・・・有、未・・」


その画像の端には、コーヒーを飲んで待機場所に座っている有未が映っていた。


「そ、空・・・」


「い、いや・・え、塾って、ツクヨ学院だよな!?」

「は、はい。・・・あ、他の塾生も合同で参加してるのかも。よく知らないけど」

「・・・・!?」


空太は黙って、にっしゃんのスマホを奪い取り、検索アプリで〝ツクヨ学院 合宿〟と検索した。


すると・・・・・一番上にヒットしたページには。


〖アサツキグループ、秋の合同合宿!!10/31~

参加校・朝陽ゼミナール、ツクヨ学院〗

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