第17話涙の観覧車

「・・・・・・・」


ランド内で砂原エリを付け回して数時間経過したが、砂原エリは特に何もアトラクションには乗らずに、園内を散策していた。

食事もとらず、時折、スマホで園内を撮影するくらいで、特におかしな行動はない。


(まあ事件起きるの夜だしな・・・)


「何も行動起こさないわね・・・」

「うん。あの、実はさ・・・・」

「なに?」

「俺・・・砂原エリ、どこかで会ったことあるかも・・・事件前に」

「え?どこで?」

「わからないけど、あの事件のとき、たまたま砂原エリの卒業式の写真見て、なんか既視感あって・・・もしかしたら、どこかで会ったことあるのかも」

「なにそれ?」

「いやでも本当に覚えてなくて・・・まあ隣町だし、どこかですれ違ったことあるのかも・・」


(でもあんな美少女だったらわすれないよな・・・・)


(もしかして俺も記憶喪失なのか?いや、そんなバカな・・・)


「・・・でも、向こうはあんたの事知らない感じだったけど」

「・・・だから、一方的にどこかでみかけたのかも。・・それより、エリーは大丈夫なのか?体調」

「まあよく寝たし」

「いや、それもあるけど・・・拒否反応出るんだろ?事件のこと思い出そうとすると」

「ああ・・・。今日は、何か、体調が良いみたい・・」


そんな行動を繰り返し、とうとう事件が起きた時間が迫っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・おかしいな」

「?」

「時間的にそろそろエミリーの館に並んでないといけないのに、その気配がない」


事件の時間が迫っても、砂原エリはスマホをいじりながら園内を散策するだけで、エミリーの館には近づこうともしない。


(何だ?砂原エリは、エミリーじゃないのか?)


「エミリーの館も気になるけど、砂原エリから目を離すのも・・・」

「じゃあ二手に別れましょ」

「え?」

「私がエミリーの館に行ってくる。あんたはそのまま、砂原エリを見張ってて。なんかあれば、このトランシーバーで連絡するから」


エリーはスマホが使えなくなった代わりに用意してあったトランシーバーを取り出し、空太に渡した。


「え、大丈夫か?」

「万が一事件が起こっても、あんたより私のほうが生存率高いでしょ」

「わ、わかった。でも、気をつけろよ」

「あんたもね」


そう言い残し、エリーはエミリーの館の方へ向かった。そして一方で、砂原エリは、スマホをいじりながら観覧車の方へ歩き出し、最後尾の列に並んだ。


(・・・観覧車?)


首を傾げながらも、空太も観覧車の列に並んだ。


(・・・・なんだ、これ?)


まるで、あの時と、同じだ。連れとはぐれて、自分だけ観覧車に並ぶ。


(そもそも、何で砂原エリは、エミリーの館に行かない?砂原エリは、エミリーじゃないのか?)


首を傾げながら、空太はトランシーバを取り出した。


「・・・おい、エリー。聞こえるか?」

『・・・なに?』

「砂原エリが観覧車に並びだしたから、俺も並んでる。そっちは?」

『そろそろ案内されると思うけど、でも、周り見渡しても、例の怪人のコスプレ

は見当たらない』

「え、じゃあ」

『でもまだわかんないからこのまま入る』

「気をつけろよ」

『わかってる』

「あ、あと、念のために聞くけど・・・〝俺〟と有未は、いないよな・・・?」

『うん、いない。一人でしゃべってると怪しまれるから、とりあえず出たらまた連絡する』


エリーの返事に安堵の息を吐いた。


有未のSNSを見ても、どこか不安は残っていた。


(まあ、あのエリーが殺される心配はないと思うけど・・・)


(でも何故、あの怪人はエミリーの館に現れないんだ?)


あの事件当時、犯人の正体はわかってなくても、怪人のコスプレをしている人だという情報は出ていた。


(何かがおかしい。何かが・・・)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


不安にかられながらも、観覧車に並ぶ列はどんどん進んでいく。


(砂原エリが乗ったら、俺も乗り込んだほうがいいよな・・・?てか、エリーは・・・?)


空太は時計で時刻を確認する。そろそろエリーがエミリーから出てくる時間だ。


「お、おい、エリー?」

『・・・・・・』

「おい、おい!」

『・・・ザザッ・・・』


何度呼びかけても、トランシーバからは雑音しか聞こえない。


(何だこれ・・・?故障か?それとも・・・)


最悪の事態が頭をよぎり、空太は青ざめる。そうしている間にも、もう前にいる砂原エリが観覧車にのる番が迫ってきた。


(ど、どうしよう・・・どうしよう・・・)


(今からエミリーの館に駆けつける?でも、そうしたら砂原エリ見張れなくなるし・・・)


もし砂原エリは犯人じゃなくてエミリー事件が起きていたら。


(てゆうか・・・俺と有未が来なかった分、違う誰かが殺されるってことにならないか・・?)


エミリーの館の定員は決まっている。もし空太と有未がいなければ、本来殺されるはずのない誰かが殺される、ということになる。


(・・・・俺、とんでもないことしちゃったんじゃ・・)


(でも、俺は、有未を守るために・・・・)


(有未、有未を・・・・)


「お客様?お客様!!」

不意に背後から、案内役のスタッフの戸惑う声が聞こえた。


「・・・急に抜かしてすみません。私、この人の連れなんです。一緒に乗ります」


聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、空太は、ゆっくり振り返った。


「・・・エリー」


空太の後ろに立っていたのは、エリーだった。急いで走ってきた様で、息を切らしていた。


「・・あの、お連れ様ですか?」

案内係りの店員に聞かれ、空太ははっとした。


「あ、はい、そうです、はい」

「そうですか。では、どうぞ」


係員に案内され、二人はそのまま観覧車に乗り込んだ。砂原エリは、二人の二つ前の観覧車に乗り込んでいた。


「び、びっくりした。無線の反応ないから・・」

「電池切れだったみたい。無線が通じなくなったから、急いで向かってきた」

「エミリーは何もなかったのか?」

「何もなかった。みんな無事」

「そうか・・・」


とりあえず。エミリー事件は起きなかった。空太は安心した。


「でも何で・・・・」


ドオ・・・・ン


すると、外から大きな爆発音が響いた。


「え?」


二人が窓を見ると、大きな花火が打ち上げられていた。


「ああ・・・花火か・・・」

「これが花火ってやつ・・・?」

「そう。見るの初めてか?」

「うん。テレビで見たことあるけど」


生の花火を初めて見るエリーは窓の外の光景に見とれていた。


「・・・綺麗」

「・・・こんなん、よくあるよ」


(こんなものを見せるために・・俺は・・・・)


「でも、生で見るとやっぱ・・」

「うっ・・・ぐすっ・・・」

「え?」


鼻をすする音が聞こえて振り返ると、空太はマスクの下で泣いていた。


「な、なに?泣いてるの?どうしたの?」

「俺は・・・こんなものを見せるために・・・有未を・・置き去りにして・・・」


花火なんて、夏になったらどこでも見れる。何もそんなに特別なものじゃない。


あの日の自分は冷静じゃなかった。


自分の気持ちを優先して、有未の命を犠牲にしてしまった。


あんなに有未に見せたくてしょうがなかった景色を、なぜか有未を殺したエミリーと一緒に見ている。


「別に、エミリー事件はとりあえず起きなかったんだからいいでしょ。それより砂原エリの動向を・・」


ガタガタッ


次の瞬間、二人が乗っている車体が大きく揺れた。


「え、なに?なに?」


二人が混乱して外を見ると、観覧車が停止していた。


「え、なに?故障?」


そこで、観覧車内にアナウンスが流れた。

『・・・あー観覧車に乗車中のお客様。大変申し訳ありません。ただいま、システムの不具合が起こりまして、観覧車全車緊急停止となりました。ただいま、システムの復旧に努めております。再稼働まで、今しばらくお待ちください』


「・・・・故障かよ、こんな時に・・」


前後左右の車内を覗き込めば、みんな混乱している様子が見てとれた。


(砂原エリは・・・)


空太は、砂原エリが乗っている車内を覗き込んだ。


(まさかあいつの指金か?)


しかし、砂原エリも戸惑った様子で窓の外を覗き込み、スマホを取り出していた。


(あいつの仕業ではないのか・・・・まあ自分も閉じ込められてるしな・・)


しかし、次の光景で、空太は自分の目を疑った。


怪人のコスプレに扮した砂原エリはあまりに気が動転したのか、マスクを取り、スマホで誰かに電話をかけていた。


「エリー・・・あれ、見ろ・・・」

「え?」


空太が指さした先にあったものは。


「あいつ・・・砂原エリじゃない・・・」

「・・・・・・!」


「あいつは・・・・・・」


怪人の正体は。


「にっしゃん・・・・」


砂原エリの友人の一人。にっしゃんだった。

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