第15話ピースランドのチケット
「大丈夫か・・・?エリー」
「う・・・うう・・・」
砂原エリを襲った次の日の朝。エリーは高熱にうなされ、ホテルのベッドで意識を失っていた。
(どうしよう・・・病院に連れてくわけにもいかねーし・・・)
薬局で買ってきた薬を飲ませて、氷枕も用意したが、熱が下がる気配は一向にない。
(昨日のこと・・・ニュースにはなってないけど・・・)
ホテルのテレビでニュースをチェックしたが、どのチャンネルでも報道されていなかった。
(でも警察には絶対通報されてるよな・・まあ、わざわざテレビで流すほどデカい事件じゃないからか?)
事件当時、部屋の電気はついてなくて暗闇だったし、二人ともマスクも手袋も着用していた。
(髪とか落ちてるかもしれないけど、俺はともかく、エリーは砂原エリと同じDNAだから、採取されても判らないよな?)
(本当は昨日みたいに砂原エリのこと付け回したいけど・・・・エリーほっとけないし。それに・・・)
昨日の一件で、理由はわからずとも自分の命が狙われてることは自覚したはずだ。きっと警戒心も高まっているだろう。
(でもそれで警戒してエミリー起こさなければ、一応、一件落着だよな・・・?これからの事はわからないけど、とりあえず、有未の命は確実に助かるし・・・)
(・・・・・・・・・・)
(有未の、命・・・・・)
『今日の十九時からは、MISIC STAGE!なんと今回特別ゲストのDAIKIさんが、大ヒット曲、〝好きだ〟を熱唱します!今夜一夜限りの特別出演です!ぜひお見逃しなく!!』
付けっぱなしだったホテルのテレビで、今夜放送予定の歌番組の宣伝が流れていた。今夜出演予定歌手の映像がダイジェストで流れている。
「・・・・・・・」
(何だ・・・この場面・・・見覚えあるような・・・)
空太は、五年前の記憶をたどっていた。
(そうだ・・・俺、五年前にこの番組、家で観てた。珍しく親父が早く帰ってきてて、二人でリビングで、観てた・・・)
(それで、母さんが帰ってきて、仕事帰りに寄った家電量販店でピースランドのチケット当たったって言って、俺にくれて・・・)
母親は〝推薦決まってる友達と行って来たら?〟と言ったが、空太の頭の中には、有未しか思い浮かばなかった。
しかし、どこか踏ん切りつかずに悩んでいたら、テレビからこのDAIKIの歌が聞こえて・・・。
〝好きだ、好きだ、好きだ、今、言うぞ、言うぞ、言うぞ♪〟
そんな歌詞に背中を押されて、次の日、有未を誘った。
(そうか、俺は今日の夜にチケット受け取って、電話で有未をピースランドに誘うんだ)
「・・・・・・・・・」
(じゃあ、俺が有未を誘わなければ、有未はピースランドに来ないし、殺されなくなるよな?)
もちろん、そうでなくてもエミリー事件は阻止すべきだが、保険は多く掛けといた方がいい。
(それに五年前の俺と有未がいたら、俺も動きにくいし・・・もし今の俺の姿見られたらややこしいもんな)
(でも、どうやって止めよう?五年前の俺に会いに行って、事情説明して、説得するか?)
(いやでも、信じてもらえるかわかんねーし・・・。それこそまた不審者扱いされて通報でもされたらたまんねーし・・・)
(夜中に忍び込んで盗み出すか?いやでも、チケット受け取って、そのまま部屋に戻って電話したはずだから・・・)
(誘った後に盗んでも意味ないよな?もし失くしても、あの時の俺なら自腹でチケット用意してでも行っただろうし・・・)
「えーっと・・・・どうしよう・・・」
(そもそも、母さんが俺にチケット渡さなければ、俺は有未を誘わないんだから・・・・)
有未をピースランドに誘ったのは、母親からチケットを貰ったからだ。母親からチケット受け取らなければ、ピースランドに行くという発想にすらならなかった。
「・・・・よし」
空太は、心を決めた。
自分の母親が、自分にチケットを受け渡す前に、母親からピースランドのチケットを奪い取る事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夕方。空太は、母親がいつも買い物している家電量販店の前で、母親を待ち伏せした。
空太の作戦は、まずチケットを受け取って店を出た母親から鞄を奪い取り、チケットを抜く。そして、鞄は交番の前に置いて逃げる。という内容だった。
(ちょっと荒っぽいけど、他に方法ないし・・・まあ俺の足だったら追いつかれないだろうし・・・)
頭の中で何度もシュミレーションをしていると、店の入口に空太の母親が現れた。
(来た!)
帽子、マスク、眼鏡で変装済みの空太は、バレないように母親のあとを付けた。
空太の母親はドライヤー売り場で店員からいくつか商品の説明を受け、そこで選んだ商品を持ってレジへ向かった。
「今日、商品をお買い上げいただいたお客様に、抽選券を配ってます。あちらでどうぞ」
レジの店員が指さした方向を見ると、店の隅に小さな特設ステージがあり、そこにはくじ引きに使うガラガラが置いてあった。一等がペア温泉旅行券、二等がピースランドのペアチケットだ。
(あそこのガラガラでチケット当てたのか・・・・レジでチケットもらったのかと思ってた・・)
店に入ってから母親しか見てなかったので、ガラガラの存在には気づけていなかった。
店員に案内されるまま、母親はガラガラを引く列へ並んだ。
(それで、母さんがチケット引いた後に鞄奪えば・・・・)
「・・・・・・・・」
(いや、待てよ・・・・)
そもそも、母親がガラガラでチケットを引き当てなければ、そんな危険な事をする必要はない。
(そうだ、事故装って、母さんが引く前にあのガラガラを倒せば・・・)
ガラガラの中身が変動すれば、母親がチケットを当てる可能性は著しく低くなる。
空太が考えている間に、ハズレを引いた前の客が粗品を選んでいて、母親がガラガラを回す番が来ていた。
(よし、行くぞ!)
母親が引く前にガラガラを倒すため、空太はステージに向かって突進した。
しかし。
「おい!何してる!!」
「!?」
空太がガラガラに触れる直前で、後ろから何者かが覆いかぶさってきた。
「え?え?」
空太が顔を上げると、警備服を着た中年の男性が、空太を押し倒していた。そして、その様子を母親に見られてしまっていた。
「ど、どうしたんですか?」
「・・・警備の者です。先ほどから、この男がずっと不審な動きをしてまして。あなたのあとを付け回してたんですよ。それで、あなたに向かって急に突進していったので、取り押さえました」
混乱している母親に、警備員は冷静に答えた。
「・・・・・・・」
(や・・・やばい・・・どうしよう・・・)
いきなりの事態に空太は混乱した。しかし、ここで捕まるわけにはいかない。空太は精一杯の抵抗をした。
「この・・・おとなしくしろ!」
暴れる空太を押さえつけようとした警備員の手が、空太の耳に当たり、マスクがずれた。
「・・・・・え?」
暴れる空太の目に、母親の姿が映った。
「・・・・・空・・・太・・・?」
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