第12話完璧な美少女
「え・・・暗殺って・・・」
「今日の夜に砂原エリの家に忍び込んで、まず」
「ちょっと待て、ちょっと待て」
「何?」
淡々ととんでもないことを話すエリーに、空太は頭が混乱した。
「いや暗殺って、そんな物騒な・・・」
「さっきの銃撃でタブレットが破壊された。死亡者データが開けないから、もうタイムトラベルはできない。直接殺すしかない」
「い、いやでも・・・」
「他に何かエミリーを止める方法あるの?」
エリーに詰められ、空太は頭をかいた。
「えー・・・でも・・・とりあえず、エミリー事件止めさせるのが目的なら、事件が起きた時間にエミリーの館に行って止めれば・・・」
「止めた後どうすんのよ?」
「ど、どうするって・・・」
「警察に突き出すの?まだ何も悪いことしてないのに?それとも、あんなサイコパスを説き伏せられる頭脳が私たちにあるわけ?」
「・・・・・・・・・・」
「エミリー事件は起きなくても、その後にもっと大きな事件起こすかもしれないのに?それをこれから先、ずっと見張ってるの?」
「それは・・・・・」
「それなら事件を起こす前に殺した方が手っ取り早いでしょ。もう時間がないの」
エリーの覚悟を目の当たりにして、空太は黙ってしまった。
「とりあえず、私はターゲットを観察するために、砂原エリの学校に向かう」
「・・・場所わかるのか?」
「家と学校の場所は、警察で聞いたから知ってる。あんたとの待ち合わせ前に学校の前に寄ったけど、その時は授業中で学校の中までは覗けなかったから」
「え?まだ授業やってんの?」
「私立の進学校だから、普通の中学より授業時間が長かったって聞いてる。多分、そろそろ下校時刻のはずだから行ってくる。・・・・あんたはどうする?着いてくる?」
「あー・・・・行く・・・」
(砂原エリ見てみたいし・・・・)
こうして、空太はとりあえずエリーに着いて行くことにした。
「じゃあこれから向かうわよ」
「・・・あのさ、エリー」
学校に向かって歩き出したエリーの背中に、空太は後ろから声をかけた。
「何?」
振り向いたエリーを、空太はまっすぐ見つめた。
「何で、俺の事・・・助けに来てくれたんだ?」
「・・・・・・・」
「別に、俺のこと、見捨てても良かっただろ、お前は、お前一人でやっていけてたんだから。お前だけでタイムトラベルしてたら、こんな事にはなってないし。もちろん、助けてもらえて、感謝はしてるけど」
「・・・・・・・まあ、あんたには色々世話になったし、」
「え?お前、そんなキャラだっけ?」
「私をどれだけ人でなしだと思ってんの。ちゃんと、感謝の心くらいは持ってるわよ。それに、現代人のあんたがいた方が、なにかと便利だし。ずっと警察病院にいたからさ、〝外の常識〟とか、私だけだとわからないこともたくさんあるのよ」
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空太達が砂原エリの通う学校の校門前に着いたころがちょうど下校時刻で、門の前は帰宅する生徒で溢れかえっていた。
その様子を、二人は物陰から観察していた。
「・・・初めて聞いた名前の学校だけど、私立なだけあって、なんか生徒みんな上品だなー・・・」
「小学校から大学までの一貫校だって」
「え、じゃあ小学校からここに通ってたのか?」
「そうだけど、私は編入生だったみたい。確か、小一の七月半ばくらいから入ったって聞いた」
「何で編入なんだ?最初から受験しなかったのか?」
「その一、二カ月前に父が病気で他界して、引っ越すことになったからだって。それまでは近所の公立通ってたけど、かなり優秀だったから、担任に受験勧められたって聞いた」
「すげえエリートなんだな。・・・部活とかはやってないのか?」
「多分入ってないはず・・・あ、あれ」
エリーが指さした先に、数人の女子の集団がいた。
「ね、エリー、そのスマホケース可愛い!どこのブランド?」
「うわ~、にっしゃん、また真似するつもりでしょ!ほんとエリーのこと好きだよね~(笑)」
「だ、だって、エリーの持ってるもの、みんな可愛いもん!」
進学校だけに、生徒はみんな上品だが、その集団はその中でも一際輝いていた。いわゆる、〝一軍〟のグループだろう。
そして、その中心にいるのが、、、、
「これはママが働いてる電気屋で売ってたものだけど、今は販売してないみたい。でも、もしかしたら在庫あるかもしれないから、お取り寄せできるか聞いてみるね」
「うわ~!ありがとエリー!!」
(あれが・・・砂原エリ・・・・)
実物は、写真で見た以上に美少女だった。会話の内容や雰囲気から察するに、この集団を取りまとめているのは砂原エリらしい。
「今週の数学のテスト憂鬱だな~」
にっしゃん、と呼ばれた女子が面倒そうに呟くと、砂原エリはにこっと笑った。
「ね、またあのゲームしようよ」
「・・・ゲーム?」
「私たちの中で今週の数学テスト最下位の人が、最高点の人のいうこと聞くゲーム」
「ああ、あれね~。でもどうせまたエリーが優勝で、にっしゃんが最下位でしょ~(笑)」
「ちょっと、仁美!ひどおい(笑)」
「この前はアイスおごってもらったよね~(笑)今度は何おごってもらおうかな~」
「まだ気が早いよ、美穂。まあエリーが負けることはないだろうけど。エリー、数学強すぎるもん。まあ、他の教科でもかなわないんだけど~」
「ふふっ、にっしゃん、ごちそうさま(笑)」
「ちょっと、エリー!まだ私が負けるって決まったわけじゃないでしょ~(笑)」
楽しそうにはしゃいでる砂原エリ達の集団に、後ろから追いついてきた男子がいた。
「エリ」
「あ、裕司くん」
彼は砂原エリに優しく声をかけ、名前を呼ばれた彼女は振り返り、優しく微笑んだ。
「あ、彼氏君のお迎えだ~」
「じゃあうちらは先帰るね~バイバイ、エリ~」
そう言って、砂原エリ以外の女生徒達は、二人に手を振って足早に帰っていった。
「あ、うん。みんな、じゃね~」
残された砂原エリとその男子は、お互い目を合わせて笑いあい、歩き出した。
(え・・・彼氏いたのかよ・・・)
しかも、その彼も高身長のイケメン男子だった。学校の名前が入ったスポーツバッグを持っていることから、どこかの運動部に入っているらしい。
「このまま帰るか」
「・・・裕司くん。今日、部活は?」
「おいおい、来週までテスト期間だから部活休みになったって前に言ったろ。だからテスト期間終わるまで毎日送り迎えするって約束してたのに、教室まで迎えに行ったらもう帰ったって言われるし。構内で携帯使用禁止だから、俺、走って探したんだぜ」
「あ、そっか忘れてた」
「ったく。成績優秀のくせに、変なとこ抜けてるよな、エリは」
「あ、ひどおい」
そう笑って、エリは裕司の腕を取り、歩き出した。
空太達は、そんなキラキラした二人を物陰からバレないように尾行した。
(・・まあ、あんな美少女だったら男はほっとかねーか・・・)
容姿端麗、成績優秀、華やかな友人にも恵まれて、かっこよくて優しい彼氏もいる。絵にかいたような〝リア充〟だ。
(何で、こんな子が、あんな事件を・・・・・)
サイコパスだから、と一言で片づけてしまえばそれまでだが、空太には今の砂原エリと、あの恐ろしい事件を起こしたエミリーが同一人物だとは、どうしても思えなかった。
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