第10話直接対決
空太は男達に無理やり立たされ、マンション下に停めてあったメガクルーザーの後部座席の奥に押し込まれた。窓にはスモークフィルムが貼られていて、外から中は見えない仕様になっていた。
(この車・・・もしかして)
空太は、運転席に乗り込んだ女に目を向けた。
「なあ・・・あんた、もしかして」
「私は陸上自衛隊員よ」
(じ・・・自衛隊!?)
どうりで、捕縛に手慣れていたはずだ、と空太は一人で納得した。
女は、そのまま黙って車を発進させた。
「じ・・・自衛隊が民間人にこんなことしていいのかよ」
「隊は関係ない。今回の行動は私の単独行動。警察組織は信用できないから、辞職覚悟で独自に事件を追っていた。妹の・・・無念を晴らすために」
運転席の方に目を向けると、運転席の前に写真立てが置かれていた。そして、その写真には、顔のよく似ている、二人の女性が映っていた。
「あ・・・・・!」
「なに?」
「あ、案内役の人・・・!」
「・・・・!あんた、妹を知ってるの!?」
「い、妹・・・!?」
「そうよ。私の双子の妹、星野加奈は、あの当時、案内役としてエミリーの館で働いていた。そして・・・殺された・・・」
あの日、エミリーでは案内役のスタッフを含めた二十人が殺された。その案内役の女性が、空太を拉致した女の妹だったのだ。
(そうだ・・・どこかで見たことある顔だと思ったら・・・!)
「お、思い出した。事件前に、この人と、しゃべったんだ」
「何を?」
星野は運転しながら、バックミラー越しに後部座席の空太に視線を送った。
「・・・エミリーに入る前に、キャンセルするって伝えただけだけど」
「ああ、自分だけが助かるためにね」
「だ、だから違うって!」
「じゃあ何で逃げたのよ?」
「デ・・・デートの最後に、観覧車に乗って、彼女に花火を見せたかったんだ。でも、時間なかったから、とりあえず彼女だけ館に入ってもらって・・・その間に、プレゼントも買いたかったし」
「・・・つくならもう少しマシな嘘考えなさい。そんなくだらない理由のために、彼女をお化け屋敷なんかに一人で行かせるわけないでしょ」
「・・・・く、くだら・・・!」
(三日間、寝ないで考えたプランなのに・・!)
星野の言葉に、空太は深いショックを受けた。
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約束の場所へ向かう道中、車内は終始無言だった。
(しかし、何でだ・・・?)
その中で、空太は一人、首をかしげていた。
(タイムリープ前に、こんな人達は、俺の前に現れなかった・・・)
二カ月前の今の時期、空太は合宿中のため、自宅にはいなかった。おそらく、空太の家を訪ねては来ただろうが、留守で諦めて帰ってたとしても、また日を改めて来ただろうし、あれだけ熱心に空太を追いかけてきたなら合宿先まで来ていてもおかしくはない。
しかし、空太の記憶には、彼らはいない。
(どうゆうことだ・・・?)
(もしかして、エリーと出会って何かが変わってるとか・・・・?)
ここ数日で、空太はエリーとともに、何十人もの人間の運命を変えた。そのせいで、他の人間の運命も変わってしまっているのかもしれない。
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「・・・あれ、通行止めになってる」
エリーとの約束の場所に向けて車を走らせていたが、進行方向にあるトンネル前で、通行止めになっていた。
「・・・なんだろう?」
星野が首を傾げると、助手席の男が自分のスマホで検索して、星野に見せた。
「この先にあるトンネルで事故があったみたいですね。速報でネットニュースになってます」
「・・・しょうがない。迂回しましょうか」
トンネル事故と聞いて、空太は首をひねった。
(・・・どこかで、聞いたような・・・?)
(・・・そうだ、昨日、エミリーが言ってた・・・!)
昨日の夜、エリーがタブレットで、事故現場の写真を見せてきた。
〝・・・明日の昼に、隣町のトンネルで事故が起きて五人死ぬみたい。だから、まずはその事故車両を探して・・・〟
(こいつらさえいなければ、この事故を防ぐことができたのに・・・!)
行き場のない苛立ちに、空太は歯を食いしばった。
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空太のマンションを出発して、数時間経っていた。トイレ休憩のために、一旦コンビニ前で停車した。
人質である空太は当然おろしてもらえず、後部座席で男たちに見張られていた。
「・・・・星野さん、どうしました?」
車内でおとなしく息をひそめていると、外から助手席に座っていた男の声が聞こえた。
「・・・なんだろう。少し、緊張して」
声だけなので、外の様子は伺い知れないが、どうやら星野と男はコンビニの前で話しているらしい。星野の異変に気づいた男が、星野に声をかけていた。
「・・・犯人に会うからですか?」
「それも、ある。でも、やっと・・・」
「やっと?」
「やっと、この苦しみから解放されるかと思うと、体が震えてきて・・・」
「星野さん・・・」
「やっと、加奈の無念を晴らせる。この数年、ずっと夢見てきたことが・・・」
「今まで、家族や友達、いろんな人に言われてきた。きっと、加奈は復讐なんて望んでない。そんな危険なことはやめて、辛いことは忘れて、幸せになりなさいって」
「・・・確かに、加奈はきっと、復讐なんて望んでない。そんなこと、わかってる。私だって、本当は、こんな辛いこと、したくない」
「でも、それでも、どうしても許せないの。加奈を殺した犯人が、逮捕もされずにのうのうと生きてることが・・・」
「噂では、犯人は精神異常者って言われてる。だから、仮に捕まっても、死刑にならない可能性もあるって」
「そんなの、許せない。私の加奈は、何も悪くないのに、あんな殺され方されて・・・」
星野の声は震えていた。
「・・・わかります。僕も、嫁と子供の無念を晴らしたいです・・・」
「・・・岩田さん」
「僕だって、こんな人間じゃなかった。嫁にだって、温厚なのはいいけど、子供をちゃんと叱れるようになってって言われるほど・・・とぼけた人間だったのに・・・」
「きっと、僕の嫁も息子も、きっとこんなこと望んでないと思います。でも、このままじゃ・・・生きてる心地がしなくて・・・」
「昨日、二人の墓前で誓いました。この復讐が終われば、またいつもの俺に戻るから、だから、少しの間・・・目をつむっててくれてって・・」
星野も岩田も、涙声になっていた。
(・・・・俺と同じ気持ちだ・・・)
自分の邪魔をされたことで腹を立ててしまっていたが、彼らは空太達の計画など知る由もない。彼らは彼らで、悲しい過去と決別するために、行動しているだけなのだ。
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再び車を数時間走らせ、空太達は輸送コンテナが立ち並ぶ海岸沿いに到着した。空太は初めてくる場所で、到着した頃にはもう日は暮れていて、辺りに人気はなかった。
(こんな場所選ぶなんて・・・本気で俺たちのこと殺す気なんじゃ・・・)
この場所だったら、二人くらい殺しても、そのまま海に沈めてしまえばすぐには発見されないだろう。
空太は腕を拘束されたまま、大きな倉庫の中へ誘導され、星野はエリーに電話をかけていた。
(エリーは本当にこんな所に来るのか・・・?)
(それに・・・・)
「・・・着いたわ。今、どこ?」
『私も着いた。指定された倉庫の前に立ってるわ』
「・・・そのまま入ってきて。妙な真似したら、人質は殺すからね」
通話は切られ、倉庫のドアが開いた。
ドアの前には、エリーが立っていた。
「エリー・・・・」
(何で、来たんだ・・・・・)
星野は、空太の体を押さえつけて、首にナイフを突きつけた。
「両手を上に挙げて。武器隠し持ってないか、身体検査するから」
エリーは黙って両手を上に挙げた。
星野は空太の身柄を岩田に渡し、そのままエリーに近づき、体を触った。
空太は、エリーの言葉を思い出した。
〝復讐者に殺されるのも、殺人者として最高の死に方かもしれない・・・〟
(まさか・・・エリー・・・・ここで死ぬ気じゃ・・・)
「・・・何もないわね」
「私が来たからもういいでしょ?空太を解放して」
「その前に、聞きたいことがある」
星野は、エリーの頭に拳銃を突きつけた。
「あんたは・・・・〝エミリー〟なの?」
「・・・・・・・・・」
エリーは黙って星野を見つめた。
「・・・そう。私がエミリー」
「・・・・あんたは何者なの?何で、あんな事件を」
「私については詳しくは話せないけど、事件のことは、あまり覚えてないのよ」
「はあ!?とぼけないで!!」
エリーの言葉に星野は激昂したが、エリーは冷静に返した。
「本当よ。事件のあと、事故で記憶喪失になってしまって。だから、事件当日に現場にいた彼に話を聞いてたの。彼が殺されたら、事件の手がかりをまた一から追わなくちゃいけないから・・・」
「・・・・・・じゃあ何で逮捕されてないのよ!?」
「本当は極秘で逮捕されてた。でも、いつまでも記憶が戻らない私を見かねて、釈放されたの」
「・・・・・・・」
「犯人は私であることに変わりはないんだから、私を殺せば気が済むでしょ?彼は本当に無関係だから、解放してあげて」
星野はエリーをきつく睨んだが、エリーは無反応だった。
「・・・・・・・・」
しばらくの沈黙の後、星野はゆっくり溜息をついた。
「・・・わかった。解放するわ」
「・・・・・・・良かった」
「あんたを、殺した後に!」
そう言い放ち、星野はエリーに向かって拳銃を発砲した。
「エ、エリー!!」
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