第6話五年前の後悔

事件から数日前の夜、空太は有未に電話をかけて、ピースランドに誘った。


『え?ピースランド?何で急に』

「か、母さんが家電屋の懸賞でタダ券二枚当てたって。平日券だから学校終わりに行くことになるけど・・・・い。嫌?」

『んー・・・受験前だしなあ。てか、何で私?他の友達誘って行きなよ』

「み、皆予定入ってるって。は、半日くらい、息抜きにいいだろ?」

『空太は部活で推薦決まってるからいいけどさあ、私は一般入試だからな~。しかも、何でハロウィン?絶対混むじゃん。せめて別の日にしない?』

「い、いやでも仮装とか見て回るのも楽しいじゃん。平日だから多分そんなに混まないって」

有未は電話の向こうでスケジュールを確認してるらしく、手帳のページをめくる音が聞こえた。

『あーてゆうか・・・その日夕方から塾の合宿あるんだよね』

「あ・・・・・・そ、そっか・・・」


電話口で空太は激しく肩を落とした。そんな空太の声色を聞いて空太の気持ちを察したらしく、有未は溜息をついた。


『・・・・いいよ。行っても』

「え!?で、でも合宿・・・」

『自由参加だし、元々あんまり行きたくなかったし。ママは怒りそうだけど(笑)』

「あ、ありがとう!!・・」


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「・・・俺も本当は人込みとか苦手だけど、敢えてハロウィンにしたのは、もしフラれて気まずい感じになっても、イベント中なら、周りも盛り上がってて、少しは空気がマシになるかなって思ってたのと、イベントで盛り上がってるカップル見て、有未も感化されて、告白の成功率が少しでも上がるかも・・・なんて下らない考えがあって・・」


何も言わないエリーの前で、空太は膝を抱え、静かに話した。


「高校は別々になるから、その前に告白しておきたかったんだ。卒業してからだと、ほとんど会えなくなるし・・・・卒業前に、なるべく早くって、焦ってて・・・」


「それで、ちょっと渋ってた有未をなんとか誘い出して、ピースランドに着いて、色々回って・・・夕方前くらいに、エミリーの館の前を通って・・・」


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「あ、空太、あれ入りたい!」

「お化け屋敷だっけ?」

「うん。入口で宣伝してたよ。最近出来たんだって」

空太はスマホで今の時刻をチェックした。


「よし、じゃあ入るか」

「え、今から?」


空太はエミリーの館へ向かおうとすると、何故か有未は少し渋った。


「何で?嫌?」

「嫌ってゆうか・・・お化け屋敷だし、もっと暗くなってからの方がいいかなって。最後にしない?」


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「・・俺の予定では、デートの最期に観覧車乗って、そこでイルミネーションと、花火を見て告白するつもりだった・・・」


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(最後って言っても、もしフラれたら、お化け屋敷どころじゃなくなるしな・・・それに花火までもう時間ないし・・・でも折角付き合ってくれたから、お化け屋敷も入らせてあげたいし・・・)


「な、中入ったら暗いから一緒だって。早く並ぼうぜ」

「え、ええー・・・・」


そう言って、空太は少し強引に有未を引っ張ってエミリーの列に並んだ。


しかし、実際列に並んでみると、想定外に混みあっていた。


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エミリーの館の列に並びながら空太がスマホで時刻を確認すると、十八時四十分だった。花火は十九時からで、さっき前を通りかかったときにチェックした観覧車の待ち時間は約十五分だった。


(やばい・・・このままだと花火に間に合わねえ・・・もう観覧車に並んでるくらいじゃないと)


スマホの時間を見て冷や汗をかいている空太を、有未は不思議そうに見ていた。


「どうしたの?空太。もう案内されるよ?」

「ご、ごめん、有未。俺、トイレ行きたくなった!!ひ、一人で入ってて」

「え、ええーーーーー!?」

「ほ、ほんと悪い、じゃあ」


そう言って仕切りのロープをくぐろうした空太を、有未は慌てて引き留めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!それなら私も出る」

「い、いいじゃん。折角だから入りなって。ほら、今、オープン記念にメダルもらえるって」

「別にいらないよ!」

「限定品だし、ネットで売れるかもしれないじゃん。いらないなら後で俺に頂戴」


そう言ってる間に、入口にいた案内スタッフが中へ誘導してきた。


「次の方どうぞ~」


「あ、お姉さん、こいつだけお願いします!お、俺トイレ行きたくなったんで、キャンセルで」

「ちょ、ちょっと、空太~」


有未を強引に中へ入らせ、空太はロープをくぐって外へ走り出していった。


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「俺が途中で抜け出した目的は、花火の時間のこともあるけど、その前にお土産さんに寄って・・・・」


空太はお土産ショップに入り、サイのぬいぐるみを買った。さきほどこのショップに来たときに、有未が見ていたものだ。


「有未のやつ、動物のサイが好きで、よく家にグッズ置いてたから・・・」


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そして、その足で観覧車に向かって、列に並んだ。


(十五分後くらいに有未が出てくるはずだから。そのままここに来てもらえば、花火に間に合うはず・・・)


スマホを取り出し、『さっきはごめん。終わったら電話して』とメッセージを送った。


(さすがに怒ってるかな・・・かなり動揺してたし・・・確かに、どこの世界に女を一人でお化け屋敷に行かせる男がいるってんだよ・・)


・・・・出てきたら、ちゃんと謝ろう。それで、お詫びにこのぬいぐるみを渡して、〝さっきはほんとごめん。これ渡したくて、抜け出してきた〟って、ちゃんと伝えよう。


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「でも、その言葉は伝えられなかった。メッセージも既読になってなくて・・・有未の中で俺は、一人でお化け屋敷に行かせた最低野郎で終わってる」


「殺された被害者たちには当然共通点なんてなくて、サイコパスによる無差別殺人って言われてる。つまり、有未はたまたまあの場にいたせいで殺されたってことだ」


「もちろん、あんな事になるなんて普通、誰も思わないし、一番悪いのはエミリーだ。それはわかってる」


「でも、俺の下らないデートプランに強引につき合わせたせいで、有未は、死んだ・・・」


ハロウィンにピースランドに誘わなければ。

あの時間にエミリーの館に行かなければ。

強引に一人で入らせなければ。


「有未は・・・死ななかったのに・・・」


ずっと、その後悔が、空太を苦しめていた。気づけば、空太の目から、涙が溢れ出ていた。


空太が有未に強引に一人でエミリーの館にいかせた事は、彼女の親には話していない。(絶対言うなと自分の親に言われた)

確かに言ったところで何にもならないし、そんな話されても有未の親は余計苦しむだけだ。自分の保身のためだけじゃない。わかってる。わかっているけれど・・・。


「・・・・俺が一番許せないのは・・・俺自身なんだ・・・」


「エミリーを殺したいのは、有未を取り戻す為だとか言ってるけど・・・」


「本当は・・・自分が罪悪感から解放されて・・楽になりたいだけなんだ・・・」


「それの何が悪いの?」


空太が顔を上げると、エリーが不思議そうな顔でこちらを見つめていた。


「・・・いや、なんか、自分の罪悪感を消したいが為に、人を殺すって・・・」

「エミリーを殺したら、彼女は助かるし、あんたの罪悪感も消える。他の命も助かる。全て解決するじゃない。それの何がいけないことなの?」

「え・・・えっと・・・」


「私だってそうよ。自分の母を救いたいからこうしてるけど、母親本人に直接頼まれたわけじゃないし、多分、きっとこんなこと望んでない」

「・・・・・・・・」


「でも、私が、私自身が、過去の私を許せないから、殺すの」


「・・・・・・・・・・」


(そうゆうもんなのか・・・・?・・・)


「それに、彼女を一人でエミリーに行かせたのも、あんたなりに彼女を楽しませるためでしょ?別にだまそうとか悪だくみしてたわけじゃないし。そもそも一番悪いのはエミリーなんだし」

「それは・・・そうなんだけど・・・」

「きっと、彼女もわかってるよ。私、幽霊とかあの世とかは信じてないけど、最初にあんたの骨折ろうとしたとき、彼女のメダルが目について、止まったから」

「有未の、メダル・・・」

「もちろん偶然かもしれないけど、彼女が守ってくれてたんじゃないの?あれが見えなかったら、あんたは私にボコボコにされたんだから」

「有未が・・・俺を・・・・」


また、空太の目から涙が溢れだし、エリーは黙って空太の背中をさすってくれた。


ずっと、この罪悪感で苦しんでいた。辛くて、情けなくて、孤独だった。そんな空太を救ってくれたのは、最も憎むべき、有未の仇であるエミリーだった。

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