2022年~春~

第0話 日本の政治家に必要なもの

 2022年2月22日、岸川総理が覚醒した日となるこの日、世界は不穏な動きをしていた。


 中国政府がロシア政府に冬の北京五輪期間には騒動を起こして欲しくないとの意向を示していたが、その北京五輪も2月20日に閉幕したことで、その楔も失われ、いつロシア政府がウクライナに攻め入るのか、本当に攻め入るのかと注目を集めていた。


 そんな中、日本の時間軸では、この日に異世界転生して、この日に戻ってきたのが祝田和馬いわたかずまとその義理の娘である祝田咲いわたさきである。


 彼らは、この転生で神様からの依頼に完璧に応えた。そして、異世界転生する条件として約束されていたとおり、戻ってきてから現代社会で活躍するために必要な能力チートさき猫神様マリン様から獲得した。


 祝田和馬が、この転生を通じて手にいれた能力、それは武力。人よりも早く動くことができ、銃で撃たれても回復できる回復力。そして何より敵意を感知する能力。要人警護のSPとして垂涎すいぜんの能力といえる。


 敵意感知能力は、一般人でも感知可能な不審行動にいち早く気付く能力がレベル1だとすると、和馬のそれは、レベル10。敵となる可能性のある本人自身すら気付かない敵意すら感知できるという異世界にでも行かなければ到底手に入れることはできない能力チートであり、レベル3クラスまでなら他人に付与することもできる優れものである。


 そして、祝田咲が猫神様マリン様から手に入れた能力。それは、他人の身体に入り込み、2年間にわたり占有する能力である。その他人の持っている記憶も確認できるので、入り込んだ他人として違和感なく溶け込むことも可能という便利な能力だが、発動は1回だけだ。


 発動が1回だけなのは、それだけ危険な能力だからであるが、それ以上に祝田咲はそもそもがチート持ちだったためでもある。


 もしも、政治に神様がいるのであれば、祝田咲ほど政治の神に愛された人間はいなかっただろう。トマス・ニューコメンやジェームズ・ワット、彼らが産業の神様から愛された人間であるとしたなら、祝田咲は、その2人分を政治の神様に愛された人間なのだろう。


 祝田咲の政策形成能力は異常値だ。敢えて数値で表すとしたなら、世界で見て優秀だなと思われている政治家の能力が70だ。日本の現役政治家での最高値は60くらいだ。(現職の大臣の数字はあえて書かない。)


 日本の政治史に燦然さんぜんと輝く人で80ちょっと。JFケネディや、チャーチルで80代後半、そんな中で祝田咲は256FFとか、そういう値を弾き出すレベルだ。


 異世界転生ものにありがちな、僕なんかやっちゃいました?というアレである。無論、政策形成能力など使わない人は一生使わないし、政治家としての能力を決める要素のほんの一部にすぎないが、政策形成能力以外も十分に優秀で、美少女から美人へと最近変わってきた彼女が政治家になれば、メディアが放ってはおかないだろう。


 祝田咲、彼女の存在により、異世界転生という契機などなくても、いずれ政治の世界でも革命が起きていただろう。が、幸か不幸か異世界転生と、世界情勢の変化により、若干20歳にして、政治の神様の寵児が、政治の世界に放たれたのである。


<サイド 祝田咲>

 わたくしがもらった能力を行使する相手は決まっておりましたの。


 第101代日本国内閣総理大臣、岸川慎作。TSするなら可愛い美少年との思いがあるので不本意ではございますが、このオジサマに入り込むことは異世界転生前から決めていたことですから、揺らぐことはございませんわ。


(決意は揺らぎませんけど、オジサマの身体を使いますので、どうしても精神が殿方に近づいてしまいそうでございますから、そのようなことになりませんようわたくしが、一人で振り返るときには、この口調にしておりますの。悪役令嬢とか、そういうのでは?という気もしなくもないのですが、違うったら違うんですの。)


 わたくしが、この体に入り込むと、元の岸川慎作様の魂は、神様が事前に準備してくださいましたネコにお入りになって、私が岸川様の身体で目を開けると、不思議そうに「にゃあ?」と鳴いておりましたので、とりあえず抱いてみますと、とても美しい毛並みでいらっしゃいましたわ。


 イギリスで官邸にネコを飼っているのは有名ですから、日本の官邸にも居てもらうことにいたしましょう。間接的ではございましても国民が選んだ代表でございますから、あまり無下にもできませんわね。


 わたくしが、岸川様の身体で最初に指示したのは、ネコに入り込まれた(実際には入り込んだのはわたくしの方でございますけど)官邸のセキュリティを固めていらっしゃる方がおっとりしておられるようでしたので、「ネコに入ってこられるセキュリティでは困りますの」との主旨のお話を申し上げて、和馬様をお呼びすることでございました。


 その次に致しましたことが、岸川様の秘書の皆様に「岸川様の事務所のお会計の方とか選挙のお仲間で、難のある方は居られませんよね。」との確認でございましたの。


<サイド 祝田和馬>

 自分は、さきにSPとして守って欲しいとお願いをされていた。さきから、現代社会に戻ってからどういう政策を実行するか聞いていたから、さきが暗殺を警戒するのは無理がない。


 日本の政治家、政権中枢にいる政治家でも選挙関係で出るときの警備は、本当に緩やかである。この国で、本気で政治をしようと思うのなら、摩擦も増えるため、命をいつ失ってもいい覚悟が必要だが、そういう決意を持って政治に向き合っている政治家がどの程度いるのだろうか?


 昭和の頃までは、そういう政治家も少なからず居たように思うが、今はそういう気迫を持つ政治家がほとんど見受けられないように思う。


 無論、だからといってアメリカや逆に非民主主義国家の中国やロシアのように警備を厳重にして、政治家が有権者から物理的なあるいは心理的な距離をつくるというのでは本末転倒でもある。


 だからこそ、自分はSPとしてさきだけではなく、さきに反対する政治家も含めた政治家全般をテロから守る必要があるし、今後、政治家本来の仕事をすることになる日本の政治家が安全に活動できるように優秀なSPを育てなければならないだろう。


 国政の舞台で活躍する国会議員には菊の紋章の入った国会議員バッチが支給されるが、その紋章をつける以上、自らが信じた国益のために死ぬ覚悟で取り組んで欲しいと思う自分は脳筋なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る