第3話 サイド 祝田咲 後編

 <サイド 祝田咲いわたさき


「あ~、なんで私、あの時OKしちゃったんだろ?」

 祝田咲、ギフテッドであり優秀な彼女は判断を誤ることは少なく、前向きな性格でもあるため、後悔することはほぼない。


 そんな彼女の最大の後悔、それは祝田和馬かずにぃの養子になることOKをしてしまったことだ。とはいえ、彼女は、和馬のことが嫌いで後悔しているわけではない。


「それにしても、あのセリフはなかったなぁ。」

 と再び後悔しだす。どのセリフだ?全部だろ??と和馬が聞けば思うだろう。

 どのセリフも和馬にとっては、自分を貶めるありえないセリフだったのだから。


 だが、彼女が後悔したセリフは一つだけだ。

和にぃかずにいはざっこだから、私が養ってあげても良いんですよ?」

 これだ。


「これ、完全に告白だよね??」

 一人でもだえながら祝田咲はつぶやく。彼女は、和馬のことが大好きだった。


 和馬を「ざーこ」呼ばわりしだしたのは、和馬が見ていたネット小説のヒロインがそういうキャラクターだったから真似して、なんとなく板についたという理由だった。彼女は、和馬が「ざーこ」呼ばわりされるのが好きな人と信じて疑っていない。


 頭が良すぎると、そういうことを思ってしまうものなのかもしれない。

 現実世界を見まわしたら、そんなセリフを口にする人などいないことくらい、すぐ分かりそうなものだが、外面そとづらが良い彼女は、自分も含めて外で言っている人がいないのは内だけで言っていると信じているからだ。


 天才と呼ぶ他はない完璧な彼女だが、「外と内とのギャップで可愛く見せる」「彼にだけ見せるあなたの素顔でドキッとさせる」というを信じているのだから、世の中は分からない。


 そして、冒頭の彼女の後悔。


 養子縁組を行ったら、その養父と結婚することはできない。民法734条、『直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。』そう規定されている。


 養子解消しても、同2項で『親族関係が終了した後も、前項と同様とする。』と規定されている。この事実に高1で気が付いて唖然あぜんとした。伯母の魂胆が読めていなかった自分の間抜けさに腹が立った。


 和馬と二人で日本国籍から抜けることも考えたが、それは最後の手段だと思いなおした彼女は、政治家になって法改正したら良いと思うようになった。


 彼女が政治家を志す本当の理由は、日本のためとか国民の笑顔を守るためとか、そういうのではない。ただ、和馬と結婚したいという、実に世俗的な理由だ。彼女は、30歳までには民法改正までこぎつけるという目的で、ほぼそのためだけに今の時間を過ごしていた。


和にぃかずにいはざっこだから、私が養ってあげても良いんですよ?」


 このセリフが告白だったと和馬が思うことがあるのだろうか?

 少なくとも当分はなさそうである。

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