第2話 サイド 祝田和馬

 <サイド 祝田和馬いわたかずま

 2022年2月1日

 祝田和馬いわたかずま、26歳。独身だが、娘が二人いる。

 6年前の20歳の時に、従兄妹の祝田咲いわたさき彩矢あやの姉妹で、当時中2と小4で、両親が亡くなり伯母の家で生活していたさきから助けを求められて、自分が祖母とともに東京で面倒を見ることにした。


 彼女から助けを求められた自分は、まだ総経大の大学2年生であったため、現状で直ちになんとかすることが難しかった。反対する自分の両親を押し切って、彼女たちを助け出すために、金銭的な裏付けが必要だったのだ。


 当時、色々な証券会社が、超高速取引に興味を持っていた。利益が出るアルゴリズムに従って自動取引を行うもので、人間が判断し売買するよりも遙かに早いタイミングで取引が行えるために圧倒的に有利な取引ができると言われていた。


 自分は、これに目をつけて超高速取引のためのアルゴリズムを開発し、証券会社に売り込むことにした。


 このアルゴリズムの開発に取り組み、四苦八苦しながら形にしてさきに自慢げに見せたら、次の日には恐ろしく精度の高い物にリメイクして彼女は返してきた。


 いや、もうね。自分は結構優秀な人間だって思っていた訳よ。

 ところが、さきを見ると勘違いだったんだなって嫌でも気付くのだ。


 それでも、彼女は良い子だった。

 自分を立てて、尊敬のまなざしで見てくれていた。その後も手を色々といれてさきと開発を完了させた超高速取引のためのアルゴリズムやプログラムを売り込み、とある証券会社と5年契約の使用許諾契約を結ぶことに成功した。契約金1000万円、それに加えて10億円を運用させ、出た利益の1%を毎月支払う契約を取ることができた時には一緒になって喜んでくれた。


 そんな実績を持っても、若い男女が同居するなんてと騒ぎ反対する伯母に、彼女らの両親の遺産を管理していた伯母がFXで全て失った溶かした事実を親戚一同に披露して、佐賀に住んでいた祖母に東京に移ってもらい、祖母とともに4人で住むことと、生活費はとある証券会社から契約に従って得ることができることを説明し、さき彩矢あやを自分と養子縁組をする条件を追加することで、親族一同を納得させることができ、引き取ることができた。


 中学2年生で、手が掛からないさきと、小学4年生の大人しくて少し甘えん坊な彩矢あやと祖母との生活は滑り出しはとても良かった。


 あれから6年。この半年ほどのさきの態度はこんな感じだ。

「うわー和にぃかずにいざっこ。デザイン系の仕事とかだと特に雑魚杉て草。ざーこ」


 まさか彼女がこんななるとは思いもしなかった。


 自分は誓って彼女に何もしていない。男性恐怖症になっていないかと心配し、慎重に応対していたし、嫌われるようなことは何も言っていないはずだが、半年ほど前からこんな感じの態度になった。


 5年の間、証券会社から毎月70万円を超える収入が安定して振り込まれ、20歳の時に立ち上げた自社の安定した売り上げとなり、そこから自分たちへの給与や使用料として支払いをして生活を支えてくれたが、その契約も切れて、超高速取引のアルゴリズムはそれぞれの証券会社が独自に開発するようになり、今では売り込むことが難しい物になった。


 自分で運用しようと思っても、高性能サーバーを擁する証券会社の運用する超高速取引に安定して勝つことは難しいし、なにより運用する資金がない。5年の間、アップデートを繰り返していたし、今でも戦える能力を持つアルゴリズムだが、共同開発者のさきが運用継続を望まなかったこともあり、収益の柱を失うことになった。


 この5年、システムエンジニアの仕事も並行して行っていたので、今では何でもありのシステム屋の経営者であり、SEでもありCEでもある。


 今取り組んでいたのはWEBサイトのデザイン込みで引き受けざるを得なかった仕事だ。WEBデザイナーを別途雇うようにクライアントには無論、強く勧めた。


「いや~、お金もったいないし、良いよ、デザインまでやっちゃってよ。」

 と、こんな具合だ。仕方なくポチポチとデザインしているときにやってきたのがさきで、先ほどの台詞だったのだ。


「この調子だと、あと100回くらいリテイクですね。お疲れ様です。そんなに仕事が好きなんですか?」

 と煽ってくるのだ。


「なんなら手伝う?バイト代出すよ??」

「家族割りで半額にしますけど、それでも時給5万円ですねー。ざっこの和にぃかずにいが私に時給払うためだけに一生働くことになってもいいのなら良いですよ♡」


 そうだった。こいつはまじで優秀なのだ。


 大学に入学するなり、多くのスタートアップ企業のヘルプをこなして、時給10万円稼いでいるんだった。大学の勉強や政治の勉強が忙しく、仕事を厳選しているが、毎月10時間くらいは稼ぎに行き、そのほとんどを祖母に渡している。


 あれ?自分働く必要ないのでは??なんて思ったりもするが、義理とはいえ娘の脛をかじりたくはない。


和にぃかずにいはざっこだから、私が養ってあげても良いんですよ?」

 黙って仕事を続けていると、今日も煽られた和馬であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る